大恋愛なんて
バレンタイン翌日。
むずむずする心を抑えてバイトに行く。
むずむずするのはコーヒーを飲んだから。
好きな人にチョコレートを渡せなかったからじゃない。
最近ハマり出したハンブレッターズの曲を聴きながら鴨川沿いを歩く。
風が強いから少しくらい口ずさんでもすれ違った人には聞こえないだろう。
そう信じて小さい声でノリノリで歌う。
雪が舞う。
南座の光に照らされた雪の一粒一粒が鴨川へ落ちる。
幻想的である。
この情景を心地悪いと感じる人はいるのだろうか。
そんな幻想的でロマンチックなバイト先。
もうこのひと時だけで大学生活を終えてもいい。
そう思った。
自分は恵まれている。
幸せ者だ。
そう思えることが嬉しくて嬉しくて。
わずか3時間。
たった3時間。
あっという間の3時間。
一分一秒、幸せを噛み締めた。
終わって着替えてスマホを開くと現実に引き戻された。
明日からの授業の知らせが来ていたし、急用のライン、生き急がせられるインスタグラムを見てしまい一気に寒くなった。
しかし、賄いの鍋を食べて少しばかり温まった。
その人と帰り道、一緒になった。
出来るだけ長く一緒にいたいがためにいろんな理由をつけてわがままを言った。
公園で雪見だいふくを食べた。
隣でタバコを吸っていた。
風向きのせいで煙が全部自分にかかった。
アイスが煙の味がした。
その煙の香りが未だに鼻の奥にいる。
受動喫煙上等だい。
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