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台湾への医学留学:準備編

 現在行っている各科の臨床現場での実習の総期間は2年弱。後半戦に突入し、一か月間の短気海外留学という選択肢がある、と通達された。細かいことは考えず、せっかくの機会なので留学を希望してみた。今回は、留学準備までの記録を簡単に残しておく。


留学枠の制限はあってないようなもの

 とはいえ、通達によれば学年全員が留学できるわけではない。100人以上いる学生の中で、留学できるのは十数人というところだ。そして、申請が多くなれば「成績などを考慮し、派遣者を選抜する」と記載されていた。

 残念ながら、私は成績が優秀な方ではない。というより、かなりの下位層だ。というのも、「少ない労力で必要最低限の成果を得る」ことを好んでいるせいである。要するにサボってギリギリ合格すればいいや、というスタンスで試験をクリアしてきているのだ。おかげさまで、希望者が多くなれば私に留学の目はないだろう。

 しかし、幸いなことに弊大学の同級生たちにはさほどのバイタリティを感じていなかったので、案外枠は埋まらないことに期待しつつ申請を行った。というか、ダメもとで申請すれば良いだけなので申請したという次第である。

 嬉しいことに弊大学でも枠は埋まらなかったようで、せっかく先方と締結した交換留学制度を腐らせないために応募者を必死で募集している様子を感じ取れた。やはり希望者は少ないのだ。

留学を希望する理由、しない理由

 さて、そもそもなぜ留学したいのだろうか。表向きの理由は
・日本人ばかり相手にするわけでもないので、日本の枠に囚われたくない
ということにしている。実際、外来見学をしているときに外国人の患者さんが来ることもあり、医療に対する考え方が全然違うと感じることもあった。日本のスタンダードしか知らないと、患者にあった適切な医療提供ができないのではないかと感じたのだ。

 そして、もう一つの秘めたる理由が
・海外旅行チャンスじゃん!ラッキー!!
である。交換留学なら費用は非常に安く済み、なんと追加の学費と宿泊費はゼロである。それが4週間。こんなにおいしい話は中々無いだろう。もちろん平日は夕方まで実習に参加しているので、自由なのは夕方以降と休日に限るが、留学先の大学によっては夕方以降が自由というのは十分楽しむ余地がある。私が留学する予定の台北医学大学は台北市内にあり、普通に旅行先ど真ん中である。他にも首都だったり第2都市だったり世界遺産の街だったりと観光業が盛んな都市にある医学大学は多い。私は候補先リストをもらった時に観光情報を調べ、希望順を決定するために考慮した。

 一方で、同級生の多くは留学を希望していない様子であった。希望しない理由としては、そもそも上記の二つに魅力を感じないという人もいるだろうが、それ以上に
①そもそも交換留学制度に気付いていない
②申請が面倒過ぎて敬遠している
③英語苦手なのに海外実習なんて無理!

この3つがメインだろう。

「①気づいていない」は気付けとしか言いようがない。連絡用の掲示があるはずだから。
「②面倒でイヤ」は目先のコストを大きく見積もりすぎている。冷静に考えれば、申請準備に1日まるまる使ったとしてもお釣りがくるくらい魅力的な体験ができるだろう。数週間(私の場合は4週間)のお得な海外生活だぞ、と言いたい。気持ちは分かるが我慢だよ。
「③英語無理」、これはよく分かる。けれど、果たして私たちにどれほどの英語力が求められるのだろうか。スチューデントドクターとして認められている日本でさえ、ほとんどの実習では患者さんとやり取りすることもなく、見学がメインである。それが海外の大学病院で一体何をさせられるというのか。どう考えても「担当の先生が英語で丁寧に教えてくれる」がメインコンテンツだろう。もしも相手の大学が交換留学に力を入れているのなら尚更である。実際に留学生のブログなどを見てみたが、見学がメインで英語が出来なくても結構何とかなっているという報告ばかりだ。すなわち、「③英語無理」自体が勘違いなのである。そもそも大学受験で医学部に入るくらいには英語の勉強してきたんだからヘーキヘーキ。

申請書類のあれこれ

1)申請書(英文)(添付の所定用紙)
2)在学証明書(英文)および学生証のコピー
3)成績証明書(英文)
4)志望動機(英文)
5)推薦書
6)履歴書(英文)(添付の所定用紙)
7)パスポートコピー
8)顔写真1枚
9)コロナウイルスワクチン接種証明書(3回接種以上)

以上が提出書類である。これらのうち、まともに文章を書く必要があったのは「4)志望動機(英文)」のみ。これに半日くらい使ったかな。日本語で構成を考えて、あとはゆっくり英訳していくだけ。第一歩としてはやはり雛型、たたき台となるものが欲しいので、そこはchatGPTにアイデア出しをしてもらって使えそうなもの、自分にマッチしていそうなものを利用した。

 私の志望動機の日本語版と英語版を載せておく。一部伏字はご了承ください。

・志望動機(日本語)

改めて読むと、どうせ英訳するからと語調が統一されていないので気持ち悪い文章である。

私がX大学での研修を希望する理由は、母国である日本とは異なる文化を持つ医療環境に身を置くためです。日本の医療との違いを直接体験し、日本の医療がうっかり枠に閉じこもってしまう現状を変える第一歩を踏み出したいと思っています。
現在、私はA大学で臨床研修を受けています。この間、タイから来た妊婦さんに出会いました。言葉の違いから、私は彼女の診察を十分に理解できなかったかもしれない。しかし、それ以上に印象的だったのは、彼女の出産に対する考え方だった。今にして思えば、彼女の考え方がおかしいのではなく、「一般的な日本人の考え方」と違っていたのだ。私は "一般的な日本人の視点 "を "普遍的な視点 "に拡張していたのだ。そのことに気づいたとき、私は無意識のうちに日本という枠の中に閉じこもっていたことに気づいた。このような状況では、患者と医療者の間に認識のズレが生じることは避けられない。今回のエピソードで経験したように、現在の日本の医療界には多くの外国人がいる。私が住んだことのあるYやZは、日本国内でも外国人と接する機会が多いため、そのような思いが強くなるのだろう。彼らに質の高い医療を提供するためには、日本という枠にとらわれず、多様な文化を受け入れなければならないというのが私の結論だ。
もちろん、日本にいても文化の違いを認識することは可能ですが、短期間でも異国の文化の中で生活し、学ぶことが、深い経験を得るための最良の方法だと思います。貴大学での研修では、実際の患者さんを観察し、有意義なコミュニケーションをとることで、家庭医療や健康の基本原則をより深く理解したいと思います。また、医療制度の違いからくる「適切な医療提供」の違いにも気づきたいと思います。貴大学は活発な交流プログラムで知られているため、これらの見識をより効果的に身につけることができると思います。
さらに、私はこのプログラムの準備に全力を注いでいます。コミュニケーションのための基礎的な英語力を高めるだけでなく、貴国の基本的な文化的背景や医療制度について調べることも含まれます。これらの準備は、間違いなく私の目的を達成する助けとなるでしょう。
この経験を通して、異文化間の心理的ギャップを埋め、日本の標準的な医療を押し付けることなく、一人ひとりに合った医療を提供することが私の目標です。これは、グローバル化が進む現代において、これからの医師にとって必要不可欠なスキルだと考えています。
このような思いから、貴大学での研修を希望しています。

・志望動機(英語)

 The reason I hope to undergo training at X University is to immerse myself in a healthcare environment with a different culture from my home country, Japan. I want to directly experience the differences between healthcare here and in Japan and take the first step towards changing the status quo, which may inadvertently trap Japanese healthcare within its own boundaries.
 Currently, I am participating in clinical training at A University. During this time, I encountered a pregnant woman from Thailand. Due to language differences, I may not have fully understood her medical examination. However, what struck me even more was the perspective she had regarding childbirth. In retrospect, it was not that her way of thinking was strange, but rather that it differed from the "common Japanese perspective". I had been extending the "general Japanese perspective" to "a universal perspective." When I realized this fact, I recognized that I had unconsciously confined myself within the framework of Japan. In such a situation, a gap in perception between patients and medical professionals is almost inevitable. As experienced in this episode, there are numerous foreigners in Japan's healthcare industry today. This feeling is likely reinforced by the fact that the cities I have lived in, Y and Z, provide ample opportunities for interactions with foreigners even within Japan. To provide them with quality healthcare, I have concluded that I must break free from the constraints of Japan and embrace diverse cultures.
Of course, it is possible to recognize cultural differences even while in Japan, but I believe that the best way to gain a profound experience is to live and learn in a foreign culture, even if only for a short period. During my training at your university, I would like to observe actual patients and engage in meaningful communication to better understand the fundamental principles of family medicine and health. I also wish to become aware of the differences in "appropriate healthcare delivery" that may stem from variations in healthcare systems. Since your university is known for its vibrant exchange programs, I believe I can acquire these insights more effectively.
 Furthermore, I am committed to preparing for this program. This includes not only enhancing my basic English language skills for communication but also researching your country's fundamental cultural background and healthcare system. These preparations will undoubtedly aid me in achieving my objectives.
 Through this experience, my goal is to bridge the psychological gap between different cultures and provide healthcare tailored to each individual without imposing the standard of care from Japan. I believe that this is an essential skill for future doctors in an era of increasing globalization.
 These are the motivations behind my desire to pursue training at your esteemed university.

 見ての通り、当たり障りのない文章である。こんなので大丈夫か?と思うかもしれないが、大丈夫である。なぜなら、大学側としては交換留学生の受け入れは積極的に行いたい以上、申請書類はあくまで形式的な扱いだと考えられるためだ。運営側の気持ちになれば当然の帰結だろう。申請書類に凝った内容を書こうとして挫折してしまうくらいなら、このくらい舐めた姿勢でいてもいいというのが私の持論だ。

 以上で、私の申請は終了した。あとは先方からの返事を待つのみである。認可が降りることに期待しよう。連絡が来るまでは、動機書に書いたように留学に向けた学習を進めておこうと思う。

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