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1996年5月22日(水)《BN》

【煉瓦亭:前田 法重・佐々木 雅美】
「そうか。まあ、タイミング的にはここかもしれないな」
 食後のコーヒーを口に含みながら前田 法重が言葉を漏らした。ここは喫茶店『煉瓦亭』。お昼過ぎの時間であり、たくさんの客が美味しいランチを食べに訪れている。前田と佐々木 雅美も午前中の鍛錬の後、ここで待ち合わせてランチを食しているのである。月曜日に第2迷宮をクリアしたらしい黒髪てへトリオ部隊であるが、このクリアという現実に対して、前々から考えを持っていた佐々木が昨日一日悩みに悩んだのである。それは自分の引退時期についてであり、以前から考えていたことではあるが、とりあえずは第2迷宮をクリアするまでは続けるという意識で頑張っていたのである。そしてついに第2迷宮をクリアし、冒険者を続けるモチベーションが低下してしまっているのは確かではあるのだ。また、長く一緒に探索してきた富田 剛が引退したことも自分の引退に背中を押している気がしているのである。
「富田くんも引退しちゃったしね」
「まあ富田は引退したかったわけじゃないけどな」
 思わず言葉を漏らした佐々木に、前田が正直な感想を述べる。意思ではないとはいえ結果として引退の選択をしたのは確かであり、富田ですら引退したのであれば、自分が引退することもおかしなことではないと佐々木は考えたのである。
「まあ雅美の意思を尊重するよ。ただ、代わりの僧侶が見つかるまでは続けてほしい」
「もちろん。いきなりいなくなって探索出来なくなっても困るからね」
 前田の言葉に笑顔で答える佐々木だったが、富田の引退はいきなりであり、代わりとしてすぐに大塚 仁が罠解除士として部隊に加わった。同じように自分がいなくなっても誰か僧侶が代わりに入ってくれるだろうと佐々木は考える。この時点でそれが誰であるかとか、誰が良いかとかまでは全く考えてなく、ただ漠然と誰かいい人がいれば良いなと考えているのであった。

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