【劇評】月の岬(unrato)

2024/3/20 配信

舞台セットについて

「三人姉妹」で知って、そのあまりに拘りの感じる美しい演出に、unratoの作る舞台が大好きになった。

月の岬もまた、配信でもわかるほど惚れ惚れする美しい舞台で、現地での鑑賞だったらより一層あの恐ろしく歪で底知れない空気感を味わっていたのだと思う。

暗闇に鮮やかな色彩がくっきりと輪郭をなして浮かび上がるようで、静かで、それでいてこちらに訴えかけてくるような力強さ。

unratoの作る舞台は、フェルメールやレンブラントに代表される17世紀オランダ絵画のようだと思う。

unratoの作る舞台がまた次も楽しみだ。

本編について

キービジュアルのイメージから、すっかりほのぼの日常話なのかと思っていたから、驚いた。

舞台上では淡々と日常が描かれているようで、みなどこか少しずつ歪で、水面下で何かが起こっているし推測や想像ができても本当のところは何もわからない。

そうした「静かなる動揺」とでも言おうか、お腹の中がぐちゃぐちゃになるような、真綿で首を絞められるような、そんな印象だった。息が苦しい。

主な解釈は下記noteのものに準拠させていただきたい。

舞台全体を通して神話の構造となっている、という解説でなるほどと腑に落ちた。

神話というか、土着の信仰あるいは民話のような質感のある舞台だった。

海辺の砂浜の海水を含んで濡れた重さや、潮風のべたつく生ぬるさ、月だけが黒い空と海に鮮明に浮かぶ夜……観終わってからもしばらくはこの感覚を思い出しては離れなくなっている。

近親相姦的な関係性は現代でこそ固くタブーとされているが、なかなかに歴史の深いものであり、古今東西はっきりと存在する。そして神話に置いても近親相姦は避けてはとおれない要素である。

月の岬に出てくる父親と娘の伝説を中心に、舞台全体がその伝説を彷彿させるような構成になっているのだろう。

戯曲を読んで詳細を自分で考えようとも思ったが、今はこれ以上深掘りできないような気持ちなので、備忘録までに置いておく。いつか読むかもしれないし、読まないかもしれない。

戯曲デジタルアーカイブ(https://playtextdigitalarchive.com/drama/search?s_name=%E6%9C%88%E3%81%AE%E5%B2%AC&s_time=&s_num=)

俳優さんについて

エーステ、カミシモで馴染みのある陣内さんのストレート舞台、しかもコメディとは真逆の演技が見られて嬉しい限り。
電話にすがりついて泣くところの演技は見入ってしまいました。

アフトのほのぼのさは癒やし。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?