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闘病記①卵そうに白いモコモコがあります


4月6日木曜日。
産婦人科の診察室で私はポロポロポロポロ涙をこぼす。
「ごめんねー、こんなこと言われたらびっくりするよね」
先生は申し訳なさそうにしているが、事態の原因は先生のせいでも、産婦人科のせいでも何でもない。
「先生が謝ることじゃありませんからー。でも、受け止めきれないー。受け止めきれません。えーなんでー。えー。」
私は感情を抑えることができない。先生だろうが看護師だろうが、それほど面識のない方々の前であるにも関わらず、ただただ涙は流れるまま。

先生も看護師もそんな私を諌めることもなく、看護師は私にティッシュ箱を差し出してくれた。


振り返ればここ数ヶ月、ゆっくりと確実に私の身体は閉経に向かっているものと思われた。
毎月きていた生理が、二ヶ月に一度になり、そのものの程度も酷かったり軽かったり、なかなか終わらなかったり。
元々、生理痛は重い方だった。酷い腰痛、頭痛、時には吐き気がするほど。全身の浮腫も伴うこともあった。
何度か婦人科に診てもらったものの、子宮内膜症気味、子宮後屈という診断で、それに対する処置はしないまま、毎月なんとかやり過ごしていた。

やり過ごしているうちに、40代も後半になり、早く楽になりたいと願っていたら。
ここ二ヶ月ほどは腰痛だけで、経血もなし。てっきり更年期の症状の一つだと思っていたら。
時々、気になる胸痛も、仕事のストレスとか、そんなもんだと思っていたら。

「腰痛 更年期」、「胸痛 更年期」。
どの症状で検索しても「更年期」とくっつけさえすれば、更年期の症状の一つとしてヒットする。
他の病気の可能性なんて考えてもみなかった。
腰痛は日常のものになっていたから、痛みにも慣れ、鎮痛剤を口に放り込んで凌げるものならば、ホルモン治療とか、特段しないでもいられると思っていた。
眠れないとか、鬱症状があるとか、動悸がするとか、ホットフラッシュがあるとか、そんなものは全然なかったから。

だけど、1週間前、腰痛に加わり胸まで苦しくなって、仕事に集中できない状態になった。
潮時かー。
更年期治療するかー。
そうして婦人科を訪ねたのである。
ほんの軽い気持ち。
ちょっとでも身体が楽になったらいいなーくらいの。

それなのに。先生の超音波検査の様子がおかしい。
なかなか先生の手が止まらない。
しかもちょっと悩んでる?
内診台は、私の腰のところでカーテンで仕切られ、腰から向こう側は気配でしか感じられない。
先生はどうやらもう1人の先生にモニター越しに何かを確認したようだ。

内診が終わると診察室へ通され、先生は言った。
「右の卵巣がね、白いモコモコがかかってて隠れて見えないの。心配だから今日は血液検査をして腫瘍マーカーを測ります。1週間後に結果が出るから、それを持って総合病院に行った方がいい。」

…白いモコモコって言った時点で、もうアウトじゃないか。
間違いでした、なんてあるはずない。
暗い気持ちで過ごして迎えた4月6日。
やはり先生に告げられるのであった。
「やっぱりね、腫瘍マーカーの値が高すぎるのよ。通常2桁のものが、あなたの場合、3桁、700台で高いのよね。これはすぐに総合病院に診てもらった方がいい。すぐに予約をとりますから。」

間違いではなかった。
涙が洪水のように溢れ出す。
「ごめんねー、こんなこと言われたらびっくりするよね」
「先生が謝ることじゃありませんからー。でも、受け止めきれないー。受け止めきれません。えーなんでー。えー。」

診察室を出ると、待合室には数人の妊婦さんが待っていた。
そんな場所でも涙を我慢することはできなかった。
会計を待っている間もずっとずっと泣いていた。

ドウシテ私バカリガ、コンナ目ニ?

失意のドン底にいるような気持ちで、病院をあとにしたのだった。



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