日本製鉄の財務分析
日本製鉄の概要
2012年に真日本製鉄と住友金属工業がの合併により誕生。
日本最大手の鉄鋼メーカーであり、世界第3位の規模を誇る。
製鉄事業、エンジニアリング事業、科学事業、システムソリューション事業の4つの事業単位で構成されている。
海外売上高比率は約35%。
日本製鉄の財務数値
図表1-1
単位:(百万円)
図表1-2
単位:(百万トン)
日本製鉄の売上高の約9割が製鉄事業によるものなので、今回は製鉄事業に絞って考察していきます。
図表1-1の売上高の推移は2015年のチャイナショックと2020年のコロナウイルスの時期に減少していますが、全体的には微増傾向が見られます。
営業利益率は2020年まで減少傾向が続き、2021年に大きく回復しているのが特徴的です。
図表1-2の単体ベースでの生産量、国内生産量は同じように減少を続けていますが、連結ベースでは2017年から2019年まで増加傾向を示しているのは2017年に日新製鋼を子会社化したことによる影響でしょう。
ですので、売上高の微増傾向は、日新製鋼の売上高が乗っかってきたためだと思われます。
図表1-3
図表1-3に示されている原材料の鉄鉱石価格は2015年から2018年にかけて、大きく減少していますが、製品の販売価格は下落していません。
鉄鋼業界は装置産業ですので、固定費の割合が高く、国内の需要低下による生産量の減少は、製品一単位当たりのコストを大きく押し上げます。
そのコストの増加を価格交渉による販売価格の維持によってカバーしようとしていると考えられます。
実際に主要取引先であるトヨタに対する強気の値上げは話題になりました。
各鉄鋼メーカーは生産量を保つために、過当な価格競争や統合によってシェアの拡大と維持を計ってきた歴史があります。
しかし、低迷する国内需要と中国メーカーの台頭により、シェアだけを追い求める戦略だけでは立ち行かなくなっているのが現状であり、販売価格の維持というのは自然な流れだと思われます。
そして、2021年に生産量が回復し始めると、高炉の停止や製鋼所の統合など、固定費自体の削減に取り組んできたことも相まって、営業利益率が急上昇しています。
棚卸資産と効率性
図表2-1
図表2-1を見ると、売上高に対する製品の割合が増加傾向にあることがわかります。
金額ベースなので数量自体が増加しているのか、または原材料価格の高騰によるものかは判断できませんが、原材料比率が一定であることを考えると、数量の増加の可能性が高いと思われます。
余剰在庫の増加は、固定費回収のために無理に生産量を増やした可能性も考えられるため、注意が必要です。
なので、次に余剰在庫が適切な水準にあるのか考察をしてみたいと思います。
売上高利益率とROIC
図表3-1
図表3-1は売上高営業利益率とRoicの推移を表しており、Roicの分子にはNOPAT(税引後営業利益)を、分母には有形固定資産+純運転資本(売上債権+棚卸資産−仕入債務)を採用しています。
(※日本製鉄は投資有価証券の保有割合が高いので、本来ならば分母には投資有価証券を含め、NOPATには受取配当金や株式の評価益を含めるべきでしょうが、あくまで余剰在庫の水準の考察が目的なので、排除しました。)
上記のRoicの式は
売上高/投下資本×NOPAT/売上高=投下転資本回転率×売上高営業利益率
に分解でき、Roicと売上高営業利益率の差は投下転資本回転率によって決定することがわかります。
仮に、利益を確保するために、余剰在庫を極端に増加させれば投下資本回転率が悪化してしまい、Roicと売上高営業利益率は乖離した動きをすることになるでしょう。
図表3-1での2つの指標の動きを見てみてみると、そこまで大きく乖離しているようには思えません。
2019年と2020年にはRoicが売上高営業利益率と同程度にまで低下していますが、コロナウイルスという未曾有の状況を考えると当然かと思われます。
よって、余剰在庫率の上昇に関して言えば、個人的にはあまり気にする必要はないと思われます。
まとめ
シェアの拡大、維持という生産量に依存した戦略から、価格交渉、固定費自体の削減という戦略へ移行し始めている。
条件の悪い経済状況が続いたことで、戦略のシフトの効果は表面化していなかったが、2021年の売上数量の回復とともに成果が現れ始めた。
在庫数量が増加傾向にあり、在庫リスクが懸念されるが、Roicへの影響が限定的で、想定の範囲内と言える。