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500文字短編写真小説:Taiyo(NOTEテスト)

美しいもの

 「ことのはじめはこうさ、いや、おれはなんも悪いことはしちゃいないんだ、まあまず聞いてくれよ」と、喫茶店≪ウィーン≫でおれはコオリノルイクンを諭すのだった。
 幾重にもなるビルにさえぎられる湿っぽい風を辛うじて受け止めながら夜の道を進む。その姿が彼のそばを過ぎ行く人たち、厚化粧の婆、やんちゃ心に砂埃をかぶった少年、七三分け中年サラリーマンたちの目を見張らせた。楽譜の入ったデザインのひどい白のバックを両腕できつくかかえて屈んでいる、そして千鳥足だ。熱心な作曲に疲労しきった目の奥の痛みを感じとめたために。左手のビルとビルを小川のように隔てた小道から出た車の右折。すると、ヘッドライトの光に晒される。軽い眩暈。おれの毛穴という穴から生白い脂肪の樹液のような粘液が漏れ出る。その瞬間的緊張が、楽譜の入った白のバックをかかえた両腕の、貧弱な、堕落した筋肉を弛緩させた。それからバックからは楽譜が散らばった、あのつまらない、憎々しい、ろくでもないものが。おれにヘッドライトの光を浴びせた車、その赤い車はおれを嘲るようなスピードで傍を滑走した。おれは意志の螺旋状に伸びきった不良品のバネのようになった。つまり、おれはこの世から断絶されてしまったということだ。この≪新宿≫という≪砂漠≫に! おれは車道の傍にまったく情けなく倒れこんだ。細い毛の生えた棒のような左腕を支えにアスファルトの摩滅した地面に掌をつけてバランスを保った。
「大丈夫ですか」と、僕の緊張に委縮した肉体の、そのなかの右耳に入った。
 事件の当事者にひどく動揺をした。好青年。スーツ姿。暗がりのおかげでそのような印象しか受けなかった。つまらない。おれは印象というものを信用したことはないはずだ……とにかくおれはこの事件の当事者、おれを辱めるものを殺さなければならないと、直覚したんだ……おれはさっきの事件をきっかけに全くこの世から断絶されてしまったのだから……。
 おれは俊敏にも立ち上がった。アパートの小道の≪マウス≫のよう俊敏さで。立ち上がるとおれは鋭く睨んだ。その好青年の黒ぐろとした瞳に≪自分の顔≫を見出した。まず髪をつかんだ。そしてそれを支えに膝をもちあげ顔を殴る、という感じだ。それからはまったく自然にことが運んだ。まるで≪日めくりカレンダー≫をめくるように。

 

YMOの「technopolis」を聞いていたら頭の中がことばに占領されました。急ごしらえで恥ずかしい部分があるのであとでまた改訂していきます。いままでのじゃ正直ゴミカス。

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