四葩(よひら)

本と自然と音楽が好き。美味しいご飯とハンドメイドも。    主に短編小説を書いています。

四葩(よひら)

本と自然と音楽が好き。美味しいご飯とハンドメイドも。    主に短編小説を書いています。

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自己紹介

初めまして。 ”四葩(よひら)”です。 このページを見に来て下さってありがとうございます。 突然ですが、あなたは”四葩”ってなんだかご存知でしょうか? 四葩と言うのは紫陽花の別名です。私の一番好きな花が紫陽花だったので、そこから名前を借りました。基本的に雨は苦手だけど、雨に濡れる青紫は美しいと思います。梅雨時期は僅かな晴れ間に散歩に出かけ、雫の光る紫陽花を写真に収めるまでがセットです。 「四葩ってなに?」と聞かれることが多いので、初めにちょっとしたお話でした。 自分自身の

    • 短編小説『ガラスの向こうとこちら側』②

       ざわざわ…………がやがや……。うるさいな。……ざわざわ。 「これ…………な」 「……だ……お……う」 こちとら気持ちよく寝ているところなのに何なんだ。その間もざわざわした騒音は止まず、むしろ大きくなっているように思う。かと思いきや、いきなり大きな衝撃が私を襲った。 「あー、もうっ! 何なの!」 「「「「「きゃーーーーー」」」」」 勢いよく体を起こすと耳元で誰かの声が聞こえた。しかし、頭が覚醒しきらないなりに周りを見回してみても私以外に誰かがいる気配はない。 「こっち、ここだ

      • 短編小説『ガラスの向こうとこちら側』①

         「四更」とは午前一時から三時までのわずかな深い夜の時間のことである。いつぞやネットの海を彷徨っているときに見つけた言葉だ。それならば、ずっとその「四更」とやらの時間に居座れたらいい。私は夜の深まった、誰にも邪魔をされない一人きりを過ごすこの時間が気に入っていた。  あぁ、早く寝なきゃ……。そう思ってもなかなか睡魔は訪れてくれそうになかった。授業中はあんなにも眠いのに、どうしていざ寝ようと思うと眼が冴えてしまうのか。この時間を気にってはいるけれど近頃は日常生活に支障をきたすよ

        • 短編小説『秘密のブックカフェ』②

          二、一瞬を切り取るとき 「お前ら席つけー」  騒々しかった教室が教師の一言で徐々に静かになっていく。食べかけの弁当を慌ててかきこむ奴、一か所に固まってキャーキャー騒いでいる女子たち、何が面白いのかわからないことを大声で喋って大笑いしているクラスの中心人物たち。昼休みの教室は色んな人間関係が見れて面白い。度が過ぎるときがあるのは玉に瑕だが、周囲の様子が目に入ってない彼らには仕方がないだろう。もうちょっと周りを見れるようにはなってほしいが。一方で一人で黙々と弁当を食べる奴、早々

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          短編小説『秘密のブックカフェ』①

          一、国境を越えた先  手紙。  現代を生きる皆さんは、日頃どれだけ手紙を書く機会があるだろうか。ファンレター、友人の誕生日、ちょっと特別な日に両親に宛てて書いてみたり……。さまざまな場面が想像できる。子どものうちは気軽に書けた手紙も、成長するにつれて書く機会が減っていってしまう。誰に語りかける訳でもなく、そのようなことを考えつつも現在の私は一通の手紙を前に頭を抱えていた。クリーム色の封筒に濃淡の異なるピンクのコスモスが描かれた、とても秋らしい今時分にあった一通の手紙である。

          短編小説『秘密のブックカフェ』①

          短編小説『ブレーメンと欠片探し』②

           あの日から朝川さんは僕を見かけると、ところかまわずバンドに入らないかと勧誘してくるようになった。初めのうちは放課後になった途端に僕のいる教室の前にやってきて待ち伏せする程度だったのだが、日を追うごとに接触してくる回数が増えた。放課後はもちろんのこと、お昼休みには一緒にご飯を食べないかと誘いに来る、それを断れば休み時間のたびに僕の教室まで来るのだ。貴重な十分休みの時間にそんなことをしていて授業に間に合うのだろうか……。とうとう今朝は昇降口で僕が登校してくるのを待っていたのだか

          短編小説『ブレーメンと欠片探し』②

          短編小説『ブレーメンと欠片探し』①

          「やばい、間に合わないかも!」 反対側の道路をちょうど数人の学生たちが走って、通り過ぎていった。今日は僕の通っている高校で入学式がある。制服のスカートを折って短くしていないあたり、彼女たちは新入生ではないだろうか。まぁ、正しく制服を着ていても遅刻しそうであれば意味はないのだが、などと考えつつ僕も学校への道を歩く。そんなことより今日の昼は何を食べようか。いつもはコンビニでその日の昼食を買ってから登校するのだが、今日は少し寝坊してしまったためコンビニに行く時間がなかった。あぁ、僕

          短編小説『ブレーメンと欠片探し』①

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』③

          「さ、最近この辺に引っ越してきたばかりなんだよ! だからまだ学校に通ってないから知らないだけで」 はるちゃんは「そうそう」と首が取れそうになるくらい必死にうなずいていたけれど、春輝はその答えでは満足していないようだった。 「夏希も知ってるよね。確かにこの町は外の人から珍しがられるけど、実際にここに引っ越してくる人はいないんだよ。『幻想的で素敵だけど、一年中春なんて住みたいとは思えない』って観光客が言ってたの聞いてたでしょ。もちろん例外もあるかもしれないけれど、仙じいだって引っ

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』③

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』②

          「夏希! あんたどれだけ心配かけたと思ってんの! 次外出することがあっても春嵐の間は連れてかないからね!」 「わかってる。ごめんなさい……」 うなだれながら自室へと戻り、机にそっと手にした本を置いた。あのあと、私は本を持ったままスーパーの駐車場へ戻った。案の定、その場にいた人たちも巻き込んでお母さんは必死になって私を探しており、なんの怪我もなくひょっこり現れた私にかんかんになって怒った。あんなに怒ったお母さんを見るのは初めてだ。恐ろしいったらありゃしない。二度と激怒させないと

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』②

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』①

           ひらひら。ひらひら。花びらが舞う。日差しの明るさと相まって白にも見える儚い桃色。 春。 今日も春らしい穏やかな風が心地よく吹いている。地面を覆い尽くすほどの桜の花びらを蹴り上げて、また落ちてくるのを眺めながら私は家への帰り道を歩いていた。 「なんか面白いことないかなぁ」 私は日々を持て余していた。同じ毎日がただ続いて行くだけなんて、つまらないったらありゃしない。私は自分のつまらない毎日を一瞬で変えてしまうような、あっという驚きを求めていた。学校からの帰り道、それを幼馴染の一

          短編小説『さよなら春。おかえり春。』①

          短編小説『雨夜の星の博物館』②

           人混みは苦手だ。全くもって訪れたことのない、知らない土地を一人で訪れることも苦手。人混みの中は、自分がこの忙しなく動く人間社会の小さな歯車であることを再認識させられるように思うし、知らない土地を訪れることはいかに世界が広いかを考えさせる。ようすぐに私は、自分の知っている小さな微睡みの世界から踏み出すことが、怖いのだろうなぁと思う。そんな風に小難しいことをごちゃごちゃと考えながら、細い路地を右へ左へと曲がりながら進んでいた。  結局あの後、私は家へまっすぐ帰ることにした。お母

          短編小説『雨夜の星の博物館』②

          短編小説『雨夜の星の博物館』①

           青と紫、橙色に光が灯る。それは私が知っているものより、遥かに明るく美しい輝きであった。キラキラした光の中に吸い込まれてしまいそうだ。美しい輝きから目が離せずに惚けていると階下からチリン、とドアノブが引かれた音がした。その音にハッとする。この部屋に入ってからどのくらい経っているのだろう。ティーカップに注いだ紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。めったに訪れる人が居ないからと油断していた。仕事中なのにこれはいけない。私は椅子を軋ませながら立ち上がり軽く身なりを整え、音のした方へと

          短編小説『雨夜の星の博物館』①

          短編小説『◯◯式な人間関係』②

           二通目のお便りは、一華が言ったようにダメ男に引っかかりやすい女性が投稿者だった。その女性は彼氏に浮気されて悲しみに暮れる頃に、友人に誘われて訪れたライブハウスで今の彼氏に出会ったそうだ。珍しく早めに仕事が終わり、帰宅したところ浮気現場に遭遇。前の彼氏には「ちょっとお前重すぎるよ」と言われて振られたらしい。その後、あまりにも意気消沈している投稿者を見かねて友人が知り合いのライブハウスに連れていき、今の彼氏に出会ったという流れだ。彼は友人が参加しているバンドの演奏を聞きに来たそ

          短編小説『◯◯式な人間関係』②

          短編小説『◯◯式な人間関係』①

          「みなさんこんばんは! 今日も一日お疲れ様です。星よみラジオのお時間です」  机の上に置いたスマホから、軽快な音楽と共に陽気そうな男性の声が聞こえてくる。私はごろりと寝返りを打ちながらその音に耳を傾けていた。ただいまの時刻は深夜零時。明日は学校があるにも関わらず、この時間まで夜更かしをしていた。 「明日、ちゃんと起きられるかなぁ」 いや、零時を過ぎたからもう今日か。なんて考えながらまた一つ、寝返りを打った。もう今日は寝れそうにない。その間もスマホからは、陽気そうな男性と先ほど

          短編小説『◯◯式な人間関係』①