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令和4年の「耐えて、勝つ」

「耐えて勝つ」


 2022のお盆に避暑地の高原へ行く道程、SAで小学生の集団がいた。少年野球のチームらしい。
皆、青いお揃いのTシャツで、その背中には大きく「耐えて、勝つ」とスローガンを背負っていた。
昭和にタイムスリップしたかと思ったけれど、みんなスマホ決済してたからちゃんと令和4年なようだ。
 きっとジョークなんだろう。
 冗談なら黒地に「欲しがりません、勝つまでは」のほうがインパクトあって良いのに。あぁ、それじゃ、鳥肌実か。

 いまどき「耐えて勝つ」は無いだろう、というのが現代スポーツ界の共通認識だと思う。
 基本的にかつてのように苦痛に耐えて耐えて強くなる、というのは否定されている。
 野球のような歴史のあるものなので、もしかしたら旧時代の迷信が残っているのかもしれないが。
 ペナルティや強制で人は真価を発揮しない、内発的動機が重要である、ということはスポーツに限らず様々な実験で証明されている。

 しかし、自転車の特にロードのシーンでは、無意識に「耐えて勝つ」の姿勢で取り組んでいるひとが多いのではないだろうか。
 そして、それは本当に有効なんだろうか。

「なぜベストを尽くさないのか」


 私はトレーニングライドで元乗鞍チャンプに登りで千切られても、基本的に全力で手いや脚を抜かないことが多い、最近はあえてその走り方を抑えているが、気が付くと・・・。先行している場面でも全力を尽くす傾向がある。
 これに対して、世界のK野プロは登りで千切られたら、それ以降はもうめちゃタレタレである。

 一緒に練習していると、いつも全力タイプと抜くときは抜くタイプのどちらかにハッキリ別れる傾向がある。言い換えると、粘って我慢強い走りをするか、気持ちの乗ったときに駆けていくか、である。ちょっと粘る、ときどき粘る、そういうタイプはあまりいない。
 前者は、日本科学技術大学教授上田次郎の「なぜベストを尽くさないのか」を読んだひとで、後者は、福武書店の「ねこのきもち」を購読しているひとであると推測しているが、確証は無い。
 前者は自己肯定感の低さを自己認識しており、後者はわりと自己愛が強めな印象を受けるが、全てに当てはまるかどうかは分からない。

 安易に考えると、常に全力を尽くすことは良い事のように思える。
 しかし、それが「耐えて勝つ」のように、真の全力を阻害してしまうこともあるのではないか、と個人的に考えている。
 また、チームメイトのNくんは壊れてしまい、リハビリ中。自分もオーバートレーニングで半年以上も心拍140bpmを超えられない時期があった。
 全力を尽くしているつもりが、ただの自己満足になり、自分を壊すこともある。

「義務は無邪気には勝てず、努力は夢中に勝てない」


 陸上選手だった為末大氏の有名な言葉である。
 ペナルティや強制で人は真価を発揮しない、内発的動機が重要であるということをうまく言い当てていると思う。

 粘り強さや全力を尽くす姿勢は強みになると思うし、レースでも必要な能力だと思う。でも抜いて走ることに対する罪悪感に追われてしまうのは行き過ぎではないだろうか。
 中距離の登りでやたらと頑張るひと、そう、あなたです(あ、自分か。
 そればかりになると、そういう我慢が必要なシーンでは強くても、夢中なヤツが弾けたときには敵わない。

 大切なのはバランスだ。もっと手、じゃなかった脚を抜こう。本当のチカラを解放するために。
 もちろん、我慢が足りない選手はもうちょっとだけ、粘ってみるようにするのも大事なことである。

「チカラを解き放つために」


 全力タイプ、栗村修氏のいうところのイヌ型人間なら、もうちょっとココロを解放してみてはどうだろう。
 千切られちゃうような環境のときは、今日は先行スタートでキャッチされたらあとはゆっくりとか、死ぬ気で付いて行ってちぎれたらのんびりサイクリングとか、自分で決めて予め皆に了解を取っておいて。わぁーーっと出し切って終わってもいいんじゃないだろうか。
 ZWIFTなどをやっていれば、短い格下レースにエントリーして逃げたり巧くツキイチからのゴール!!の練習をしたり、結果を気にせずレースを楽しんでみる。楽しくガツンと追い込んで、サクッと終わるのもいいものだ。
 また、だいたいそういう人は登りで上げて下りで休むから、ゆるゆる登って緩い下りで最高速チャレンジするとか(事故らないでね)。

 いつも、そうじゃなくてもいいけれど、ちょいちょいこういうのを挟むことできっといい刺激になると思う。

「耐えるチカラを獲得するために」


 無邪気タイプ、栗村修氏のいうところのネコ型人間なら、もうちょっと耐える練習も必要だろう。世界の北Nプロ、あなたですよ。
 2022全日本選手権、広島の3段坂を下から上までプッシュし続けたユキヤに食らいつけたのは新城雄大だけだった。ヨーロッパ戦線の超人たちは誰もどれだけ踏み続けるんだ、というくらい粘り強い。
 一発も大事だけど、粘り強さも大切。

 こういうタイプはあえてヒルクライムレースに出てみる。そこできちんとリザルトを狙ってみる。また、自分の定番トレーニング登坂をもっておいて、定期的にタイムアタックをする。
 坂が無ければ安全なTTルートを確立しておき、おなじようにタイム管理をする。
 あとは、あまりパワメに支配されるのはよくないけれど、こういうタイプは時間×下限パワーで設定したトレーニングメニューをやるのもアリだと思う。


「これは余談、ってどれも四段みたいなものだけれど」

 練習機材と決戦機材を分けているひとって結構いると思う。
 でもたまには、いや出来るだけ決戦機材で練習するのがいいと思うのです。
 この前、ひっさしぶりにヒルクライム決戦機に乗ったら、踏み感の素晴らしさにめちゃくちゃアドレナリンが出て解き放たれた感があって、気持ちいいな、と。

 自分も場合、練習機材(エモンダSLRとライトウェイト)も十分すぎるくらい気持ちいい機材に乗らせて貰っているんだけれど、やはりコレで登りの練習が出来るのはアドバンテージだと思う。
 どうせ、死ぬまでそんなにサドルの上に居られないのだから、いい機材で楽しもう。


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