見出し画像

政府の連結バランスシートを読んでみよう~その3(最終回)


1.日銀のBSにおける「負債」の特殊性 「発行銀行券」「日銀当座預金」の取り扱い

さて、ここから高橋洋一氏や上念司氏の主張に基づき、実際に日銀のBSの負債の部を見ながらいくつかの「勘定科目」について考えて見ましょう。

考える際のポイントは、次の①②
①日銀のBSに「負債」として記載されていても、一定の期限までに返済義務が発生する「借金」か?という点。
返済義務が発生しないのであれば、少なくとも政府のデフォルトの可能性を計るに際しては、負債から除外しても問題ない、という考え方です。
②日銀は通貨発行権を持つ日本唯一の機関であるという点です。

ア)「発行銀行券」119.9兆円について


まず、日銀の「負債の部」の「発行銀行券」として計上されている119.9兆円について。

この点について日銀は、次のように説明しています。

「(略)・・・当初、日本銀行の発行する銀行券は、・・・金本位制度の採用を経て、金との交換が保証されました。・・・日本銀行は、銀行券の保有者からの金・・・への交換依頼にいつでも対応できるよう、銀行券発行高に相当する金・・・を・・・保有しておくことが義務付けられていました。・・・このため、日本銀行は、金・・・をバランスシートの資産に計上し、発行した銀行券を負債として計上しました。
その後、金・・・の保有義務は撤廃されましたが、・・・(中略)・・・銀行券は、日本銀行が信認を確保しなければならない「債務証書」のようなものであるという性格に変わりはなく、現在も負債として計上しています。
なお、海外の主な中央銀行においても、こうしたバランスシート上の取り扱いが一般的となっています。」(以上、日銀HPからの引用)
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/outline/a23.htm

ただ、日銀も指摘するように銀行券の金兌換義務は1971年の米国による金兌換の停止と通貨の変動相場制(=管理通貨制度:中央銀行が法律で定められた通貨制度に基づいて、金の保有量とは無関係に通貨の供給(流通貨幣量)を管理する制度)への移行に伴って停止されています(いわゆる、ニクソンショック)。

その意味で、通常の会社の社債などの返済義務に相当する、発行通貨についての兌換義務はありません。

この点上念司氏は「・・・(日銀のBSの)負債の欄に「発行銀行券」という科目で・・・計上されていますが、これは世の中に流通する日本銀行券(現金)のことです。日銀の借金ではありません。もちろん、便宜上その流通価値を日銀が保証しているという点では負債なのかもしれませんが、一般的な意味でいう負債とは全く性質を異にするものです。・・・」とおっしゃっています(『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(上念司著,講談社+α新書)107頁から引用)。

そこで、「発行銀行券」の約119.9兆円を表5の負債から抜いて試につくったBSが次の表9です。純負債がー566.9兆円か-447.0兆円に減少っ!!。

表9 負債から「発行銀行券」を除外

イ)「当座預金」の約536.4兆円


次に、負債の部に「当座預金」として計上されている約536.4兆円はどうでしょう。これは「発行銀行券」と合わせて、中央銀行による市場への貨幣供給量(いわゆる、マネタリーベース)に含まれるものです。

この点、上念氏は、日銀当座預金の役割と日銀の通貨発行権を理由に、「発行銀行券」同様に負債から除外して考慮して問題ない旨説明しています。長いので引用は控えますが、興味があれば参照されたい(前掲同書105~106頁)。

日銀当座預金は、日銀が、日本国における「銀行の銀行」として、国内の金融機関向けの口座にストックされた預金です。日銀当座預金に口座を開設できるのは政府や金融機関のみ。それ以外の一般企業や私たち国民には口座開設は認められていません。

黒田総裁以降の金融緩和の一環として、市場に供給する通貨、マネタリーベースを増やす目的で、民間銀行が保有する国債や社債を買い入れる形〜いわゆる「買いオペ」または「量的緩和」〜で増加してきました。日銀は売主の民間銀行に現金で支払うのではなく、帳簿上民間銀行が保有する日銀の当座預金の金額を増加させる形で対応しているわけです。しかも日銀は民間銀行から現金を要求されれば、印刷局や造幣局の印刷機、鋳造機を回すことで簡単に現金を準備できます。そしてその現金に返済義務がないことは、「発行銀行券」と同じです。

そこで、「発行銀行券」に続いて「当座預金」の約536.4兆円分を政府の連結BSの負債から引きます(表10)。

表10 負債から「発行銀行券」「当座預金」を除外

なっ・・・なんと・・・!!資産-負債の差額が+116.2兆円のプラスに反転。表題が「純負債」から転じて「純資産」となりました!!。

ここでお気づきかと思いますが、日銀の負債の部から除いた上記2項目の金額は合算して683.0兆円。日銀の負債合計が731.6兆円ですから、全体の93%に当たります。「海外の専門家では常識」であるところの「統合政府」の考え方を前提に、日銀のBSで負債に計上されている金額は、少なくとも財政破綻の危険性を測るに際しては、総じて負債から除いて考慮して問題なし、とするのが、高橋氏、上念氏の基本的なお考えの根底には、この考え方があると理解しています。

ところで、当座預金について負債から除外する高橋氏や上念氏の意見には次のような反論もあるようです。この考え方は、藤巻氏とは別の元財務官僚の方も言及されていたので、検証すべきものかもしれません。

ただ、当座預金で買い入れた国債、社債の金利の引き上げなどを考慮したところで、その元本、利息の支払いが自国通貨の円建てである限り、上記の理論はびくともしないと思うのですが。。。確かに、もし、元本や利息の支払いが外貨建ての債権が含まれていれば、その分については当座預金とは別の勘定科目を設ける等を行って、きちんと区別して負債として計上すべきでしょう。

ただ、市場に出回る「自国通貨」を増やす目的で買いオペを行っている日銀が、外貨建ての外国国債や社債を、日銀が保有する外貨で購入して当座預金に乗せるようなことをそもそもするのでしょうか。

仮に外貨建ての債権を購入時のレートで換算した円で購入するようなことがあるとすれば、確かにそれは負債から外すことはできなくなると思います。しかしその場合は、負債として利息のみならず元本も同様に計上すべきだと思うのですが。。。

当座預金に関するこの辺の事情は、私が十分に把握しきれていない部分もあるでしょう。また私が藤巻氏のご意見の内容を適切に理解できていない可能性も十分にあるので、ご参考までの紹介にとどめます。。読者の中に藤巻氏のお考えを詳しくご存知の方がいらしたら、コメントなどで教えていただければ有難い。謙虚な気持ちで検討します。

私たちが政府の財政状況や今後の政策を考えていく上でまず行うべきことは、「増税派」「増税反対派」に分かれて相手を言い負かすことではなく、まずはきちんとした数字と事実を把握して適切な現状把握を行うこと。
この最初の方法論の部分でコンセンサスを形成しなけば、徒に不毛な水掛け論、抽象論で同じ場所をぐるぐる回るだけ。全く前に物事が進みません。そして、この方法論のコンセンサスを形成するに当たっては、不確かな部分を残したままではダメなのです。正確な現状把握なくして、「減税」「増税」とか今後の対策が出てくるはずがない。あくまで数字を根拠に客観的、合理的に考え自分が納得でき、他人にも納得させ得るようにすることが極めて大事なのです。

増税、減税は、その先の議論なのです。

ウ)日銀による赤字国債の直接引き受け、市中買い入れという「錬金術」とその限界


ところで、一見魔法の錬金術のように見えるこの手法。これを使えば政府と日銀は国債発行と日銀による直接引き受けや民間銀行が保有する国債を市中で調達すること通じて無制限に資金を調達できるようにも思えます。実際そのように理解する考え方も存在するようです。ただし、そういった考えは度を越えたマネタリーベースの拡大に伴う副作用を見落としているか、軽視しているように思えます。

デフレまたはインフレ目標に届かない間は、通貨発行に悪い影響はないと思います。失業率とインフレ率は逆相関の関係にあるので(フィリップス曲線)、むしろ上記の錬金術を積極的に使ってマネタリーベースを増やすことが求められます。

またこれがインフレ率を上回る賃金上昇と可処分所得の増加という好循環を招きます。黒田総裁時代から日銀が狙って行ってきたのがこれです。財務省の口車に乗って安倍さんがやらかした消費増税のおかげで好循環の発動までには至らず、腰折れ感は否めませんが、雇用400万人分の創出など、間違いなく一定の効果は果たしてきました。

しかし、仮に将来インフレがインフレ目標を超えて、この点はレンジに諸説あるのですが、例えば7%以上に達した場合、今度は物の値段の上昇に可処分所得の増加が追いつかず、失業率の減少が伴わなくなる、いわゆる悪性インフレと言われる状況に至ります。

参考:フィリップス曲線(『財政破綻の嘘を暴く 「統合政府バランスシート」で捉えよ』 (高橋洋一著,平凡社新書))P28 から転載)

日銀を始め、各国の中央銀行が政策決定会合を行って発表する時期に前後して「雇用統計」発表する理由は、マネタリーベースの増減が含めた中央銀行の金融政策が、雇用状況に直結するときちんと理解されているからだと思います。

失業率の増加は、国の財政・金融政策を担う政府、中央銀行にとっては最も好ましくない状況。ですから、失業率が高く、デフレ状態であれば、中央銀行はマネタリーベースを増やし、さらにそれでも効果が不十分であれば中央銀行と連携して、政府が時限的減税を実行する。世界の金融財政担当にとっては常識です(しかし極東に浮かぶ島国を除いて。国の名前は失念しまいましたが・・・)。

ただ先ほど言及した悪性インフレに至った場合には、もはやこの錬金術は安易に使えなくなります。以後は日銀が保有する国債等を市中で売ってマネタリーベースを減らすようにしなければなりません。こういう日銀の「売りオペ」でも悪性インフレが収まらない場合には、加えて政府が時限的な増税を行う必要がでてくる局面も想定されます。この場合の税目としては、旺盛すぎる需要を抑制するという目的を考えれば、消費税率の時限的アップなどは最適解の一つとなるのではないでしょうか。需要の結果生じる消費意欲を抑制する効果をダイレクトに発揮する税ですから、、、

仮に、、、それでもお構いなしに金融緩和を継続すれば、政府や日銀OB、メディアが煽るハイパーインフレに至る可能性がある、ということになるかと思います。理屈上は・・・。

ハイパーインフレの定義については諸説あるようですが、wiki先生によれば月度で50%以上の物価高を意味し、1年間続けば1万パーセントを超えます。

こうなると、通貨自体が国内外で信任を失い、国内で米ドルやユーロ、元、円といった外貨が流通・使用され始め、国民によって通貨が見放される、という状況に陥り、政府は必要な資金調達ができなくなって事実上破綻します。

ただ。こういう事態は度を超えた金融緩和で導かれる、というよりは戦争や自然災害などによって生産供給インフラが破壊された場合に起きることが多いようで、ワイマール時代のドイツ、2000年代のジンバブエなど、限られた事例しかありません。戦後物不足に陥った日本ですら、上記の意味でのハイパーインフレには陥ったことがないそうです。

メディアや、黒田総裁就任より前の日銀OBなどの残党・・・いや、御用学者が、黒田総裁以降の日銀の金融緩和でハイパーインフレ、もうすぐ円が紙屑になる〜、と喧伝してきました。というか今でも言ってます。しかし、長引くデフレ不況下でインフレターゲットを達成していない状態でこんなことをいうのは的を得ていない。「大干ばつ時に洪水の心配をしているようなもの」という上念司氏の比喩がわかりやすい。眉に大量の唾をつけて接した方がよさそうです。

余談ですが、経済評論家の上念司氏はサイドビジネスとして塵紙交換業を営んでいるそうで、声をかけてくれれば、いつでも紙屑になるであろう現金と引き換えに高級ティッシュと交換します、と識者に営業をかけているそうです。しかし、誠に不思議なことに、未だに依頼を受けたことは一度たりともないそうです。

・・・とは言え、いずれにせよ。日銀の錬金術にも限界はあり、やはり、、、うますぎる話は世の中にないようです。

逆に言えば、2014年以降、デフレを脱しない局面でもお構いなしで天上天下・唯我独尊、木下康司事務次官を筆頭に遮二無二増税路線を驀進した財務省、無邪気にこれに追従したメディアや経済団体、私を筆頭に思考停止した大多数の国民の考えがいかに稚拙で支離滅裂だったかがわかるでしょう。
タイムマシンがあるなら、戻って当時の私を含めた人々の胸倉を掴みつつ「あなたたちは馬鹿ですか??」と問いたい。

しかも、デフレ脱却のために消費意欲を喚起しなければならないまさにその時に、よりによっての消費増税。正気か?という話です。

裏で糸を引いた財務事務次官以下、財務官僚は万死に値します。それこそ胸倉掴んで「日本人に恨みでもあんのか」と。世が世なら三角帽をかぶらせて霞が関界隈を市中引き回しの後、恩赦で減刑の上、終生遠島が相当な処分でしょう。

景気が良くなると、 GDPが上昇するだけでなく、税収率も上昇します。 つまり、わざわざ増税なんかしなくても、 景気回復させちゃえば、 GDP→増 税収率→増 よって、 税収→大幅アップ という事で、一気に財政は健全化されていきます。 ...

Posted by ラブ消費税 on Monday, May 26, 2014

増税や減税、金融緩和と金融引き締めは、それ自体は目的ではなく、手段です。財務省の意を受けた主要メディアが、BSの数字の検証やマクロ経済の基本的理解の習得を怠ったまま、「増税」を支持し日銀の「金融緩和」に異を唱えているのがいかに異常かが理解いただけると思います。

この目線で日本経済新聞その他主要紙をご覧になってみてください。彼らは基本の習得を怠ったまま、日銀の金融緩和政策を批判します。金融引き締めを「金融政策の正常化」などと表現して。「正常化」という言葉から察せられるように財務官僚のレクに従って、多くの国民に稚拙な印象操作を試みる。涙ぐましいまでの努力です。救いようがない。本記事をここまでご覧になった皆さんならわかるでしょう。既にリテラシーの面で殆どのメディア、御用学者、政治家を凌駕していますから。この能力を踏まえて彼らの馬鹿面をとくと観察してみてください。

エ)コラム 増税に固執する原因となった財務省・大蔵省のトラウマ


ちょっと本筋から外れて横道にそれますが、インフレ・デフレ対策の話が出たので、この辺りの戦後のわが国の歴史を少しだけ振り返ってみましょう。『財務省の近現代史』でこれを検証した倉山満氏の考察の要約を試みます。

1960年代の佐藤内閣以降、「高度成長は永続する」そんな政治家、国民の思い込み沿って積極財政を継続。赤字国債の発行を開始。今と違って良識的で愛国官庁であった大蔵省の幹部は、打開策を研究し始めます。

まず各省庁で前年度の余った予算の繰越ができる制度の導入を提示します。行政の無駄遣いは年度末に集中する道路工事など、皆さんも感じるところでしょう。予算を使い切らなければ翌年度予算が減らされる。だから無駄でも使い切る。この無駄を減らそう・・・財政的には、常識的で正しい発想だと思うのですが・・・。

ここで思わぬ官庁が異を唱えます。

内閣法制局が、予算の繰り越しは、単年度毎の決算を定めた憲法86条の財政原則に違反すると指摘したのです。

憲法86条

最強官庁を自認していた大蔵省。この浮世離れした法律オタク・インテリヤクザ集団の前になすすべなく立ちすくみます。

この組織。実態の検証は別の機会にしたいと思います。ただ、設置法3条の所管事務を見ても、その意見に法的拘束力を認めるような文言はありません。大蔵省の実力を考えれば、「頭が高い!」と一喝して握りつぶせばよい・・・ように思えます。ところが、、、法案などに憲法違反などの意見が出したら、最強官庁を自認する大蔵省ですら魔法をかけられたように瞬時に平伏してしまう謎の官庁です。

内閣法制局設置法第3条 所管事務

私たちは憲法解釈を終局的に行うのは「最高裁判所」だと学校で教わりました(憲法81条)。しかし、実際に国会に提出される法案全体の約8割を占める上記のような役所が起案した内閣提出法案への意見付与を通じて、ほぼすべての憲法解釈を行っているのは、実は内閣法制局と理解したほうがよさそうです。

参考 憲法81条 最高裁判所が違憲立法審査権を行使する終審裁判所である旨定めた規定

さらに最高裁判所の15人の判事の席のうち、一つは内閣法制局長官経験者の指定席として確保されています。天下った元長官が、最高裁が法制局の出した解釈と異なるような判断をしないか監視しているのです。

さらに詳しいところを知りたいと思った皆さんは、倉山氏のご著書のご一読をお勧めします。(上記の顛末については前掲書を読めば拾えます。財務省をも黙らせる内閣法制局の歴史や組織、憲法9条の解釈の変遷について詳しく知りたい場合は、『内閣法制局の近現代史』 倉山満著,光文社新書刊 をご覧ください。)。

さらに、佐藤内閣の後を受けた田中内閣は当時の支持基盤のゼネコンしか喜ばないような「日本列島改造計画」を打ち出します。

また、1973年には、
①老人医療費の自己負担無料化
②年金水準の大幅引上げ
③高額療養費制度の創設
など極端な放漫予算を打ち出し「福祉元年」と自画自賛。三木内閣もこの路線を継承。結果的に、オイルショックもあって15%を超える「狂乱物価」と呼ばれる悪性インフレを招きます。先に述べたような、マネタリーベースの縮小や、場合によっては時限的な増税といったインフレ対策が必要な局面で、あろうことかデフレ対策に当たる政策を継続してしまったのです。

これを諌めようとした良識的な大蔵省幹部は次々と粛清されます。結果、大蔵省は「財政規律は崩壊した」「財政規律を維持するためには、もはや禁じ手である増税を断行するしかない」と考え始めます。

これが現在に至る、大蔵省・財務省のトラウマの一つであり、現在に至る増税一択に舵を切ったターニングポイントになってしまったようです(前掲書
)。

当時の大蔵省幹部は、事態が正常に戻れば、当然ながら増税路線は停止するつもりだったと思います。しかしその肝心な部分はいつの間にか忘却。「増税しかない」という部分のみが財務省の誤ったDNAとして会議室や飲み屋、麻雀卓などで口頭伝承され、今に引き継がれてしまっているのでしょうか。

オ)参考:政府の「徴税権」の取り扱い

本題のBSに話題に戻ります。

最後に、高橋氏は、資産の部に「隠れ資産」の一環として政府の「徴税権」を見積もって計上すべきとの仮説を紹介しています。
(動画の6:10過ぎからその説明をされています。)

高橋氏は上記動画の他にも前掲のご著書などで「徴税権」の資産価値を見積もっています。私が氏のいくつかの著書を読んだ限り、高橋氏の見積もりは、450~750兆円で試算されています。
そこで、ここはひとつ最も控えめに、450兆円と見積もって表10の資産に足すと・・・。

表11 参考 資産としての「徴税権」450兆円を資産に追加

・・・声を失います。こうなると日本政府の財政状況は政府や主要メディアが主張するような財政危機どころか、実は純資産が566.2兆円。政府の総資産1,589兆円に占める割合(いわゆる自己資本比率)は35.6%。株式投資の際などで、投資対象である会社の倒産リスクを計るためなどに使われる、この自己資本比率という指標、一般企業では倒産の危険を避けるために少なくとも15%から20%以上、望ましくは30%以上、理想は50%以上と言われます。その意味では、政府のそれはかなり優秀なレベルといえるでしょう。

2.まとめ

仮に、高橋氏の徴税権を資産として計上する仮説は採用しないとしても、日銀を連結対象に含めた政府の連結BSは表10で示した通り、

再掲 表10 負債から「発行銀行券」「当座預金」を除外

一応民間企業の倒産リスクを測る指標としての自己資本比率で表しましたが、もう一つ政府のBSを見る上で重要なポイントは、国は民間の営利企業ではないということ。

「・・・企業は、負債より資産の方が多いほど安泰だが、政府のBSは資産より負債の方がちょっと大きいくらいが健全といえる。もし資産のほうが大きくなったら、それは税収から費用を引いた結果、プラスになったということだ。もし税金が余って、政府が利益として計上していたら、おかしいだろう。もしそんなことがあったら、減税などで国民に還元されるべきだ。
というわけで、政府には『利益剰余金』となるものがなく政府の純資産はつねにマイナスだ。これはどの国でも同様である」(『世の中の真実がわかる! 明解 会計学入門』高橋洋一著,あさ出版194頁より引用)。

この政府のBSの特殊性を考慮して再度表10の連結BSの語る声に耳を澄ませば・・・どうでしょう。あえて私の意見は申し上げず、ここまて読み進めて下さった皆さんの個々のご判断に委ねます。みなさんには、既にそのリテラシーが十分に備わっています。

少なくとも、何をやるにしても、不安げに「財源は?」と返してくる財務官僚や主要メディアの皆さんには、この連結BSの純資産116.2兆円を示しつつ「大丈夫です。」と安心させてあげましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?