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平和公園・散策スケッチ 2            《原爆ドームを描く》    


 ヒロシマに住む者とって、《それ》は自分の生まれる前からいつもそこに佇む「日常の風景」だった。
 著しく周りの景観を壊す悲惨でグロテスクな瓦礫の塊であるにもかかわらず、いつしか僕たちの目には、緑の木立に囲まれて佇む《悲しいモニュメント》として馴染んでいた。

映画『原爆の子』
1952年、新藤兼人監督作品

 世界遺産に登録されたからといって一度も《それ》をスケッチしようなどと思ったことはない。

 まず、スケッチの対象として、けっして心温まる美しい風景ではない。
 この悲惨極まる形状を至近距離で30分以上凝視するなど到底堪えらない。

 もう一つ、《それ》は破壊され、ほとんど瓦礫化した「物体」である。
 建築物としての道理が崩壊したオブジェなど、何をどう描いてよいか分からないではないか。

♠ ♠
 しかし、「その傍に立つ人」の姿と「背景としての《それ》}」なら描けるかも知れないと思い、初めてスケッチブックを構えて、いざ、始めたものの・・・

ペンスケッチ 1


 形だけは捉えないと何も始まらないので、とりあえず極細ペンで薄っすらと土台部分から順に形状の輪郭だけをなぞることにした。
 表現方法を考えるのは後でもよかろう。

ペンスケッチ 2

 3時間…
 戸外は寒いし、すでに十分疲れたので着色は家に帰ってからにしよう。


♠ ♠ ♠
 彩色は「何も足さない・何も引かない」を原則とした。
《それ》そのものが十分過ぎる訴求力を持っているのに、これ以上どんな演出が必要だろうか。

焼け焦げた壁面に透明水彩は馴染まない。
ハードパステルで粗く塗っていくことにした。


 ただし、塗り込めば塗り込むほど陰惨さを増す。
 60パーセントほど塗り込んだところで気分が滅入ってきたので、このあたりで終了とした。

『 祈 り 』
ペン、ハードパステル、透明水彩(F

 それにしても、やっぱり悲惨だ。
 当然だけど・・・=⁠_⁠=

 せめて美しい音楽を捧げたい。

 フォーレの『レクイエム』より
第7曲「イン・パラディスム(楽園へ)
( 
絵を眺めながら聴いてやってください )



【次回投稿】 

2月7日(水)午前(かな?)