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小学物語21

チビという名前のポインターだった
白黒の大きなブチ模様で
とにかく体つきがしなやかで
美しい犬だった

それと クロ
なぜか雑種の赤犬(輝く茶色の毛)
毛並みがきれいでなでるとすべすべ

友達は小学4年生の頃から
新聞配達をしていた

いわゆる家計の足しというやつで
1日46件の家に配達していた

お願いがあるんだけど と言う

いつも丁寧にしゃべるやつだが
ことさらおらの目を見て慎重に
言葉を選んでいる

実は旅行に行きたいと思ってる

その間代わりに新聞配達をしてくれないか

おらは別に良いよと答えた
なんか奴が弟と修学旅行とか言ってるのが
聞こえた

1週間やってくれないかと言われた

次の日 おらは4時30分に
販売所へ行った

一緒に回る

販売所から実際に配達する場所が結構遠く
2km近く離れていた

団地だったので配達場所はわかりやすかった

さらにおらは団地の見取り図や地図を描いた

配達する部屋の位置に日経は黒、毎日は
黄、産経は青と着色

町内の店などの目印、配達する順番やルートがわかるように矢印を描いたりした

おー

これでばっちりだ
特に団地がわかりやすい

2回 一緒に回ったが
もう覚えた

いよいよ ひとりで販売所に行った
チラシを新聞にはさんで半分に折っていく

46部 結構 重い

でも自転車は大好きだ
それにおらは力ある

腕相撲は学級で2番目に強い

幸い 雨は降ってない

力を入れてこぐ
ふらつかないようにバランスをとる

まずは2km離れた町内までの移動だ

おらは慎重になる
いつもはとにかく全速力で走るんだが

団地に着いた

見取り図を見て確かめながら

確実に 速やかに回り 

新聞入れに丁寧に 静かに入れていく

4階建てと高い建物だが

お茶の子さいさいだ

おらのコンバースのデッキシューズも
確実なグリップ力を発揮

無事 終了 自転車は軽くなった

本当に働いてる実感がある

家に帰ってご飯を食べる
パンとオレンジペコ
そして大量の野菜炒めと目玉焼き

母さんはきっとおらの体に気を配って
野菜を毎日たくさん焼いてくれるのだろう

学校に行っても 
新聞配達のことは話さなかった

たぶんその方がやつにとっても
良いと思う

やつは ほんとしっかりしたやつで
弟おもいだ

小学校4年生の時
大きな川の頭首工の上流で遊んでいたら

やつの弟が流れの速いところで転び

頭首工のむき出しのコンクリートへ向かって
流されていった

おらは河原を全速力で走った



やばい


チビとクロも異変に気がつき
吠え始めた


頭首工のすぐ上流のあたりは深くて
農業用の水路へ向かって流れが強く

ゴミが下流に流れないようにする
鉄の柵に引っかかるかも 

深みにはまったまま

みるみる流されていく

やばい

流れが早すぎる

深い淵が
黒々としてうねっている

やつも気づいて叫んでる

このまま終わってたまるか

おらは死ぬ気で走った


日頃 山で鍛えた足

がんばってくれ

どんどん流れていく

周りが見えない
やつの弟しか見えない

走る

走る

走れ

深みにはまる直前で流れが緩やかになった


なんとか上着の襟首の辺りを掴まえる

弟はグッタリしてたけど
意識はあった

倒れ込むように
石の上に 一緒に

おらは目を腕で隠すようにして
伏せて 休む

はあ はあ ふー

やつが

 弟を抱いて礼を言ってる

 泣いてる

良かった

2人とも
礼儀正しいし
しっかりしてる
人として大好きだ

クロがおらの尻を前足で
押している

なぜか笑えた

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人の役に立つ
それが尊敬してる人のためならば
さらに喜びも達成感も大きいよね

人の役に立つ人になろう
そして尊敬される人になろう

娘へ







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