苦しい時はじっと待つ
人にはそれぞれ心身の、電源というものがあり、その電圧の低い時には、神経ばかりがこまかく動いて、ちょっとした事にも踏み出せない。計器の針ばかりがちらちらと振れて、機械がいっこうに作動しないのに似ている。~~
心身の低調にたいして、むやみにさからっても、たいてい良いことはない。
昔の帆掛け船は海の荒れる間、いつまでも湊に停泊していたそうだ。~~
停滞すれば費用はかさむ。垢はたまる。しかし、海の藻屑になるよりはましだとあきらめる。
これを日和待ちと言う。
~~舟の待つのは海の日和だが、こちらが待つのは自分の心身の日和である。
PHP2011年6月号(P27)「待てば海路の日和」 古井 由吉(作家)
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