見出し画像

箏曲とルービックキューブの親和性

(※以下の文章には『この音とまれ!』のネタバレを含みます)





1.箏に見る数学的な美しさ


『この音とまれ!』という漫画にこんな言葉が出てくる。


「たった 13 本の弦に無限の可能性を秘めた————

俺の愛する数学の世界そのものだった」

アミュー『この音とまれ!13』p.21, 22 (集英社)より



 この言葉を言ったのは、山本大心という数学の教師である。

 彼は数学バカと自称するほどの数学好きで、数学に無限の宇宙を感じるロマン家である。そんな彼が教師 1 年目で箏曲部の顧問を任される。



 部員と仲良くしたい気概も持っていた彼は、何気なく、箏の CD を聞く。その瞬間の心情がこの言葉である。

 文中にある「13本の弦」とは何か。これはを表している。箏の音楽が数学とつながっていることを言っている。



 彼はこんな風にも言う。


「ああ俺 今 数学を聴いてる」

(同掲書 p.23 より)



彼は今までにも音楽を聴いていたとは思うが、気づかなかったという。それは以下のことだ。


「すごい そっか

音楽って数学の声だったのか」

(同掲書 p.24 より)



 先ほどから細かく引用し説明をあまり加えないのは、これ以上によく表す言葉が見つかっていないからである。彼の愛する音楽には数学が隠れていた。このことは彼にとって衝撃的なことだ。(箏だけに)


信西古楽図の楽器より





 かくして、彼の音楽に対する見方は変わり、箏以外の様々な音楽も聴くようになった。そして、聞くだけでは飽き足らず、箏曲の作曲をするようになる。そして、山本大心が作った曲を箏曲部の部員は、、と、このように話は続くのだが、今までは『この音とまれ!』のほんの一部を切り取っただけである。興味を持たれた方はぜひ一度お読みください。


 音楽と数学の話をしていたところだった。これら2つの関係は古くから語られていることだと思う。調和、秩序、整合性のような言葉が適当である。音楽における純正律は弦長比の調和の発見から作られたものであることもよく知られている。


 結論としては、音楽と数学は不可分の関係を持つということである。これは比較的受け入れやすいことだろう。


2.ルービックキューブへの誘い


 さて、話は半分ほど進んだところである。ここからは私のド趣味であるルービックキューブを主役にする。



 私はそもそもルービックキューブと呼ぶことにもやもやしている。ルービックキューブという名前はメガハウスの商標だからである。パズル一般として取り上げるなら、キューブパズル 3×3×3 と言った方がよろしい。しかし、電流と電子の向きのように(中学理科のアレ)一度誤って広まったものを訂正し再度広めるのは難しい。そのため、私もルービックキューブと呼ぶしかない。



 ここで、ルービックキューブを趣味にするとは6面の色を揃えるまでのタイムを競うスピードキューブを指す。そもそも、6面、いや1面も揃えられないという人もいらっしゃるだろう。どこに楽しさがあるのかと疑問に思われるだろうと思う。次に、簡単にその楽しさを説明してみる。


3.ルービックキューブの楽しさ


 ルービックキューブの楽しさはゲーム性の高さと多様さである。パズルであるため、手順(アルゴリズム)を正しく実行さえすれば誰でも6面完成に辿り着くことはできる。手順というのは、パーツの交換である。ルービックキューブは決して3×3×3 の立方体の枠から抜け出すことはない。正しい場所へ正しい向きにする手順を使う。それはつまり、パーツを交換することになる。その繰り返しで6面完成まで持っていくのだ。

 初めてやる時は8つほどの手順を使う。この8つの手順を無意識に使えるようになるまで反復練習をすれば、1分以内に完成させられるだろう。
 人によってはここまで1週間ほどでできてしまう。やった分だけタイムは伸びる。単純だが、しかし始めようという人はいない。そんな趣味である。


 より速くなるには、手順をさらに覚えることになる。これは、ゲームにギミックを追加していくようなものだ。ショートカットをしたり、長い目で見れば効率的な方法を体に叩き込まなければならない。この頃になると、なぜそのように回すのか、パーツがどこと交換されるかを理解するようになる。
 さらに高度なことを考えるなら、自分が回しやすい回し方、回しやすい手順、指遣いを選択する必要がある。トップのスピードを誇るキューバーは、個性的な回し方をする。そのため、指遣いを見るだけで誰が回しているかわかったりする。ここはただ練習を重ねるだけではタイムは伸びなくなる段階である。
 果てには、スクランブル(キューブを揃えた状態からランダムの崩れた状態にすることをさす)の運というのも関わってくる。同じスクランブルに出会うことはない。一期一会。


 スピードキューブはタイムを更新できたときだけでなく、単に速く回すことの快感、上手く賢く揃えられた時の快感、良いスクランブルを活かせたとき、活かせなかったときの一喜一憂が醍醐味である。また、新しいキューブを買い、回し心地のよさに感動することも忘れてはならない。

 以上、スピードキューブを紹介するのはこれくらいにする。


4.箏とルービックキューブの親和性


 では、真の本題。これまでのことより、箏とルービックキューブの共通点とは何か。それは数学的な美しさである。


 スピードキューブはランダムに崩れた状態から、色が揃った1通りの秩序だった状態へ向かう美しさがある。揃っていること、統一された美しさへ向かう。
 箏の方はというと、和音の響き(一定の振動数比の調和)の美しさになる。あるいは、箏の音の余韻も美しいと思う。
 この2つの美しさは、どちらも数学的な美しさにあたる。



 また、直接に関係しないが、現在のキューブ世界記録を保持するキューバーに圧倒的なシェア率を誇り、機能性にも優れたメーカーが軒並み中国企業であるというのも面白い。なぜなら、箏は中国発祥とされるからである。ここでもつながりを見出せる。

追記

 箏とルービックキューブの共通点はもう一つある。それは指を細かく使うことだ。繊細な指遣いがどちらのプレイにも影響する。自分なりの指遣いを駆使すること、これが箏であれキューブであれ理想的なプレイに繋がる。
(これを言い出すと、音楽側から、おそらくピアノ、ハープ、ギター、ベース、ヴァイオリンなどから「わたしも指を使う!」と言われる。)


5.最後に


 以上、箏とルービックキューブの親和性について述べた。このテーマは複数の出会い思いつきから始まった。
 まず、出会いとはキューブとの出会い、そして『この音とまれ!』との出会いである。また、関連して、箏曲の世界との出会いは外せない。

 思いつきとは、私がルービックキューブの動画を見ていたときに起きた。ルービックキューブの動画とは、私が撮影してもらったルービックキューブをソルブする動画である。ルービックキューブは基本的に雑音しか聞こえない。目の前で鮮やかに回っていても、音で台無しになる。早ければ早いほど音は汚くなるだろう。
 そんな不満を抱えて見ていたときに、動画に音楽をつけてみようと思った。そこでつけたのが、この曲だった。


 なぜ、私はルービックキューブの動画に箏の音色を重ねてみようと思ったのだろう。不思議である。
 なかなか無い組み合わせだと思うが、案外合ったのには驚いた。
 こういう出会いは、楽しい。私にとっては、一生忘れられないほどに印象的である。

 備忘録ではなく、忘れないことの決意としてここに記す。


依頼: はゆたま

代理: note

制作: ゆ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?