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マリアの風 第八話 最終回

第八話  最終回 

「あぁ、聡史くん、ここにいたの!
早く、マリアが…マリアの様子が…」

岡田のお母さんが慌てた様子で
俺たちを呼びに来た。

「行こう!」

急いで病室戻った俺たちの前では医師や
看護師たちが慌ただしく動き回っている。
岡田のお父さんはというと、俺たちのいない
間に医師から何かを聞かされたのだろう、
マリアの手を握って名前を呼び続けていた。
当のマリアは、苦しそうにしながらも
必ずこの戦いに勝利するんだという
強い意志が眉間に現れていた。

「皆さん、今夜が峠です。状況は正直言って
芳しくありません。ですが、私達も
最善の力を注ぎます。
今夜は容態の急変なども考えられますので、
このままこちらに居て頂いて結構です」

医師と看護師たちが去った後、
部屋に残った俺たち四人は
誰も口を開こうとしなかった。
というより出来なかったんだ。
両親の思いを考えると何を言える?
岡田の気持ちを考えると何を言える?
部外者の俺がとやかく言う場面じゃないだろ。

「父さん…母さん…サトくん…。
駿くん…駿くんは……?」

「どうしたマリア?母さんも聡史も駿くんも
皆んなここにいるぞ」

「本当に…ごめんなさい。まさか…あの時の…
捻挫が…こんな事に…なるって…」

「あの時って俺に声をかけてきた
コンビニの前の事か?」

俺は半年前のあの日の事を思い出していた。

「あの時ね…駿ちゃんが…バイクで走ってるのを
やっと…見つけた…と思ったから…信号待ちを…
している…駿ちゃんに…追いつこうと…走ったら
捻った…みたい」 

それであの体育座りか。
そうまでしてそうまでして俺に…、俺の事を…。
確かに俺は、大人になったけれどマリアの顔を
憶えていなかった。
でも、あの日の園庭で語った事は嘘ではない。
本当に俺の初めての恋であった。
そんな俺を十数年忘れないでいてくれた、
マリア……。

「駿ちゃん…鈴鹿行けなくなっちゃった…
ゴメンね…二人で行きたかったなぁ」

「何言ってんだよ!早く治して来年行こうぜ。
免許をとるんだろ?」

「それも…叶わない夢になったかな…
一番大きな叶えたかった夢が私にはあったの」

「何だい?」

「それはあの時の…約束、
駿ちゃんのお嫁さんになる事……
私…この夢だけは…叶えたかったな…
ずっと、ずっと思ってたもの…
私にとって大切な初恋…
やっぱり、初恋って…実らないんだね…」

マリアの目にはうっすらと涙がうかんでいた。

急に医師や看護師がバタバタと動き回り、
点滴や何かしらの注射を打ち始めた。
医師からは怒声が発せられている。

「父さん…母さん…サトくん、そして駿ちゃん…
あり…が…と………う。サ…ヨ…ナ………」

「マリア!マリア!ダメだ、
まだ逝ってはいけない!」

「マリア、マリア!」

「マリア!戻ってこい!マリア!」

「俺のお嫁さんになるんだろ?マリア!」

皆んなの呼び掛けが病室に響きわたる中、
マリアはついに力尽きた。
たった18年間の短い生涯となってしまった

" マリア " 

俺は病室を飛び出し外庭に出た。
だって岡田や両親たちの姿を
見ているのが辛くて。
自分の涙をみられるのが嫌で。
よく見ると外庭の所に何やら建物がある。
近づいてみると礼拝堂だった。
この病院はカトリック系なのか?
何と皮肉な……

こうして呆気なくマリアは逝ってしまい
俺の初恋も実らなかった。

数日後、マリアは荼毘に付され、
マリアは青い空に昇っていった。
その時、俺ははっきりと見たんだ。
白い雲の中にマリアのとびきりの笑顔を。

「駿ちゃん!」

マリアの声とあの笑顔が一陣の風と一緒に
消えていった。

20✕✕年
今年も暑い、熱い7月がやってきた。

「マリア、君がいなくなって早いもので
今年で七回忌だよ。
何かあっという間の感じだったな。
あれから色々あったけど、俺はいつもと
変わらずに元気でいるよ!
さぁ、今年も一緒に行こうか!
マリア、鈴鹿へ!」

マリアが亡くなってから駿太はどこに行くにも
RZ250のリアシートにマリアの半キャップを
くくりつけ走っていました。
そして誰もリアシートに座らせる事は
なかったといいます。
                                                        マリアの風    完

最後までお読み頂きありがとうございました。

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