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Sへの手紙⑽

~子供達の夢のために~

《五回表》

もう一度、あの広場がある落合地区に
行ってみようと柳田と工藤は、残っている
雑多な仕事をプロジェクトチームに任せて
二人で車を走らせていた。

「なぁ工藤、
 落合地区に行く前に
 ちょっと寄って貰いたい所があるんだ」

柳田の言葉で落合地区とは逆にはなるが、
法務局を目指し工藤はハンドルを切った。

法務局に着いた二人は手続き踏み、
落合地区の登記を閲覧した。

「あの例の広場、
 土地の名義○○さんだと
 わかるんだが、
 もう一人いて、
 共同名義になってるな?」

「誰なんですかね?
 それより先輩、
 ここ、これ気に
 なりませんかね?」

落合地区を囲む様に点々と
ある会社が仮登記を済ませていた。
 SBアースプランニング㈱
という、柳田が知らない
社名が目に飛び込んできたのだが、
何か引っ掛かりを感じた。

落合地区の村長に改めて
話を聞いてみると、

「いやぁ、わしン所にも
 来たんじゃが、
 あんた方のお仲間
 なんじゃないのかい?」

そう言って村長は冷たい
麦茶と一枚の名刺を出してきた。
そこに書かれていた社名は
法務局で見たあの会社名であった。
村長によると個別に訪問し
土地相続の相談に乗りつつ
相場よりニ〜三割増しの金額で
買い上げているらしい。
らしいとは、同じ地区とはいえ
 " 幾らで売った " など言える訳がないという
彼らの事情も良く分かる。
やはり柳田達は腑に落ちないものを
感じながら村長の家を後にした。

社に戻り、柳田は酒を止めてから始めた、
ブラックの缶コーヒーを片手に屋上で
ある人物を待っていた。

「待たせたな、柳田」

「何、構わんさ」

柳田が待ち合わせていた
相手とは総務部で同期の
松田だった。

「ご依頼の件、少し当ってみた」

「で?」

「お前の睨んだ通り、
 ウチの新規事業開発部の
 子会社だ」

松田はB5サイズの用紙を出してきた。
" SBアースプランニング "
定款の欄には産業廃棄物
処理施設、等とある。

「産廃施設?あそこは俺達
 IRプロジェクトチームのリゾート……」

「てのは表向きで、
 本命はこっちだな」 

松田は資料を指で弾きながら答えた。
柳田は会社に不信感を持ち始めた。

三日後、柳田は親睦会という名目で
中華レストランにチームの皆を集めた。
柳田がこのプロジェクトの真相を話すと、
まさか?という声が大半を占める。

「我々は今後どうすべきだと思う?」

柳田は皆を見渡して聞いてみた。

「柳田チーフの考えは
 どうなんです?」

「俺は本当の事が知りたいから
 色々動くつもりではいる。
 ただその事によって
 会社から睨まれたり、
 嫌がらせを受けたりする
 かも知れない。
 いや、受けるはず。
 なので、チームを
 抜けたい者がいたら
 今名乗り出て欲しい。
 別にその事で責めたりはしない」

柳田の正直な気持ちを吐き出した。
始める以上、無傷のままなどあり得ない
だろうと柳田は思っている。
刃向かうと犠牲者が出る。
組織とはそういうものだと分かっていながら
部下達に酷な決断を迫っている。

「チーフ独りじゃ何するのも
 大変でしょう」

「そうですよ!」

「コピー取るのは私が
 やります」

全員が残ってくれる事に
柳田は熱いモノが流れて来るのがわかった。
何としてでもメンバーを
迫ってくる何かから守る事。
そう決心した。

「あれ〜先輩、
 何か泣いてません?」

工藤にからかわれた柳田は
照れ臭かった。

「うるさい!
 さぁ食べるぞ!」

良いメンバーに恵まれたと
柳田はしみじみ思った。


※この物語はフィクションですが、登場する
人物、団体など一部オマージュとして
使用させて頂いています。


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