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生て遺す 第3節

 冬樹が他人と上手く付き合う事が出来なかった原因の1つに未成熟な精神には過ぎた特技を持っていた事が上げられる。
他者から向けられる感情を過敏に読み取る事ができる特技なんて誰しも多少は持ち合わせているが、冬樹のそれは大人顔負けの精度を誇るものだった。

 初対面の人間同士が他者に抱く感情は疑心・期待・不安・無関心など状況や出逢い方一つで多種多様であり、大抵の大人が関係を構築する上で自然に行う挨拶や自己紹介、今日の天気の話なんて在り来りな会話でも良い訳で・・・そんな会話の中で相手の感情や関係性を読み、良好な距離感と関係性を構築するのが流れと思われる。

冬樹に関しては相手の目を見た時点でほぼ正確に現在、相手が自分にどんな感情で相対しているかを無意識的に認識する事が出来るのだ。
この特技を分別のある成人男性が備えていたならさぞ人気者に慣れた事でしょう。

 子供に他者から向けられる感情が例え理解出来ても、正しい反応を返す事が如何に困難かを想像してみて頂きたい、大人ですら満足に出来ないかも知れない・・・それが負の感情であれば尚更である。

 竹田君は冬樹に初対面で顔面パンチをお見舞いされている過去がある、冬樹が竹田君から特大の負の感情を読み取ってしまったからだ、なぜ特大の嫌悪感を冬樹に向けたのか、理由は竹田君が密かに想いを寄せる女子が冬樹に好意を持つ発言をしたから、とっ言うのは後に風の噂で知る事になるが、当然、初対面の相手に顔面パンチをお見舞いするクレイジーな奴扱いで冬樹は疎外されるに至る、そもそも冬樹に上記の正しい自己認識は無いので結果的に「なんかこいつの目が気に入らない」と言って暴力を振るったクレイジーな奴に変わりは無い。

 大人の貴方なら出来ますか?初対面の人に「お前ムカつくんだよ、目障りだから消えろ!」と言ってきた相手に友好的な返答が。

そしてもうひとつの特技、状況把握能力であるがこれがまた冬樹の正確を歪ませた原因の一旦である。

第4節に続く


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