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生て遺す 第9節

 その日マサシは、母親に対し横柄な態度を取り続けた、「うるさいねん」「黙っとけ」「邪魔やねん」・・・マサシ母の反応は終始、「はいはい」といつもの事と言わんばかりに生返事をして、感情には悲しみ、嫌悪や怒りは全く無かった、当然マサシにも憎しみや嫌悪、怒りなどは無く、挨拶をしているかの様に無機質な感情だけを冬樹は双方から感じ取っていた。

「ええの?こんな事してて?」

マサシ母が部屋を出た後、冬樹はマサシに直接問い掛けた、子供ながらに冬樹は不安感や、言い知れぬ恐怖を感じていたからだ。

「いつもこんなんや、それよりゲームしよう」

 成熟していない子供は、行動に対する結果を想像しきれない、総じて突飛な悪戯や悪さをした際は両親や先生、周りの大人が叱って行く事で結果を積み上げ善悪を学んで行く、冬樹の不安はマサシの行動の結果が引き起こす最悪を想像してしまったからだ、例えば父親に叱られるとか・・・杞憂である事はマサシの返答が一蹴した。

 その日の時間は高速に過ぎた、マサシとゲームをしてジュースとお菓子をご馳走になり、沢山の話をして気づけば帰宅時間になっていた、両親には18時迄には帰るように言われている、正直帰りたく無いし、まだまだこいつと遊んでいたいと初めて子供らしい事を思った。

 冬樹の門限を予め聞いていたマサシは「送って行くは」と言って支度を始めた、こいつの凄い所は此処である、冬樹が「帰る」と言い出せ無い、言いたく無いと思っている時に自分から嫌な役を買って出れる所にある、正直、冬樹にはこの時間を終わらせる事がとてもできずにいた、マサシも冬樹と同じ感情を抱いていたのは冬樹が1番良く知っている、だがマサシは冬樹の門限が過ぎてしまう事は冬樹が1番困る事だと考え自分の感情よりも他人の事情を優先したのだ。

帰り際にマサシが自宅の電話番号を教えてくれた、次の遊びの約束はしていないが電話で決めようとの意図だった事は冬樹に自然と伝わった。

第10節に続く


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