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生て遺す 第6節

 この時期の転校は珍しく、クラス全員が黒板前に立つ彼を凝視していた。

冬樹が彼に抱いた印象は「他の人と違う」だった、やや長めの髪に、目を上から半分隠す前髪、下から上に見上げる様に人を視るその独特の雰囲気は他者から見て異質・不気味・根暗などだろう、だが冬樹に取って彼は初めて見る興味の対照だった。

「はじめまして、マサシくん、冬樹って言います」

「・・・・はじめまして」

「いきなりやけど友達ならへん?」

 冬樹が彼に感じた印象は親近感、でも自分に無い、周りにも無い特別な印象、そう、彼には他人への興味や感情が極端に欠如していたのです。

「・・・ええよ」

マサシの承諾は素気無かったが、確かに微量の陽気を含んでいた事が冬樹には感じ取れた、そしてすんなり友人が出来た、他人にあまり興味を示さない為感情が伝わり難いマサシと、他人に興味は有るが容易に感情を読み取ってしまい近付けない冬樹とは自然に馬が合った。

 冬樹は放課後、途中までマサシと帰路に着く時間が楽しくて仕方が無かった、マサシも少なからず冬樹に好感を持っていた。

 他人から得る様々な情報や世界観が新鮮で自分の事も包み隠さず話した、好きな事や嫌いな事、家ではどんなゲームをするのかで更に距離を縮める事にも成功した、明日にはマサシの家に新作のゲームをやりに行く約束をした事も初めての経験でクリスマス前の夜に感じる高揚感が胸を支配した。 

第7節に続く


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