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生て遺す 第5節

 久方振りの学校、正門前で冬樹の心境は複雑を極めた。

担任からの説教・同級生からの叱責・集団に異物が入り込む際の排斥行動など、だが冬樹の予想は教室に入ると同時に大きく変化した。

教室内の全生徒から感じたのは冬樹が予想したネガティブな感情では無く、久しぶりに見る同級生の、しかも子供ながらに不登校生は未知の存在と思っているのだろう、興味津々な感情、他者を思い遣る慈愛、そんな感情が冬樹に流れ込む。

休み時間の為、担任教師は居ない、そしてクラス替で竹田君は1組に冬樹は3組なっていた。

「おはよう冬樹君」

クラスの名前も覚えていない男子生徒が挨拶をして来る。

「おっ、おはよう、僕の席どこか教えてくれへん?」

「ええよ、今は1番後ろの席、窓際から2番目が冬樹君の席やで」

「ありがとう、1番後ろの席・・・ええ席や」

「僕も1番後ろが良かった、冬樹君ええな〜」

そんなやり取りを背に席に着いた冬樹にクラスの一部からの質問責めは授業が始まるまで続いた。

子供が抱く興味は、何故休んでいたのか?今日は何故登校したのか?家では何をしていたのか?大体は前記した質問だった、正直冬樹にはどうでも良かったが、安堵はしていた。担任教師が特に何も言って来なかったのには1番驚いている、そしてその日共働きの両親が帰宅後に凄く喜んでいた事も冬樹には追い風となり、この日から学校は休まず登校する事になる。

学園生活再スタートは良好な物になった、当然コミュニケーション能力が圧倒的に低い冬樹にそう簡単に友人は出来ないが、敵は1人も居なかった、ある程度知能が発達すると他者を無意味に傷つける行為が減る事と、イジメも巧妙化しバレない様な工作が行われるのだろう、冬樹の特技を持ってすればそんな工作をいくらされても回避は容易な訳で、寧ろ直球な敵意を向けられる方が短気な冬樹には我慢ならなかった。

 この小学5年生の時に冬樹に取って人生が変わる運命的な出逢いをする、親友であり生涯の友となる相手との出逢い。 

第6節に続く


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