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生て遺す 第2節

 目を閉じれば思い浮ぶその姿はまさに女神様・・・は言い過ぎかも知れないが当時の冬樹にしてみれば美千代さんは廃色の世界にただ一筋のカラフルで暖かく優しい色彩をくれる存在だった。

美千代「ふゆき!元気?」
優しい笑顔に明るい声、道着に身を包み、長い髪を後ろで束ねるその姿は、当時の冬樹には特別な雰囲気を纏って見えた。
冬樹「んっ・・・元気」
ぶっきらぼうに返事を返すが正しくは緊張から会話をまともにできないだけである。
そもそも道場には毎週通っていたが決して習い事に真剣だったのでは無く彼女に会えるから通っていたのが大半の理由だ。
 冬樹は何気ない挨拶だけでも心は高揚し、天にも昇る気持ちで彼女と相対していた。
やがて彼女が進学し道場に毎週来なくなった時に冬樹も毎週道場に通うのが億劫になりサボりがちになったのが良い証拠である、子供ながらに打算的で怠惰な事である。
冬樹の初恋は此処で1度終わってしまったかの様に思うがまた時を経て再熱する、がそれはまたその時に後述しよう。

 冬樹は小学4年から5年生までを殆ど学校に行かず自宅の両親の部屋で過ごした、元々身体が丈夫では無く病気がちだった事もあったが高熱で身体が燃え上がるかのような体験をし半年程入院をする事になったのが小学3年の終わりだった。

残る記憶は病室のベットで隣にいた年上の青年からプラモデルを貰って凄く喜んでいた記憶だけが鮮明に残る入院生活だっかが、入院は半年程だったが母親が毎日来てくれたので然程淋しさは無かった。

 退院後は小学校に行く気になれず自宅療養と言う名目から登校拒否になった・・・
学校に元々馴染めていなかった冬樹にとって自宅が聖域だった、一度体調不良を理由に学校を休むと次の日もまた次の日も・・・その後は外に出るのにも勇気がいる様になる。

 両親はそんな冬樹に優しく何も聞かず好きな様にさせてくれた、ただ褒められる事も叱られる事も無かったあの状況が子供ながらにこのままでは駄目だと気づかせてくれたと今は思う。

 幼少期から冬樹には2つ得意な事が有った、一つは状況把握能力に長けていた事と相対する他者の感情を読み取る事だ。

第3節に続く


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