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音速のドラ猫14

 

年が明けだ。1月某日

副司令「昇任者前へッ」

副司令の号令で各隊数名が前に出る。
僕は後ろの方で昇任者を見ていた…その中に知っている顔を見つけた。葉留佳さん、沙都子さん、風子ちゃんだ。

幹部「3等空尉 井ノ原 葉留佳 」

葉留佳「はいッ」

幹部「同じく 北条 沙都子」

沙都子「はいッ ですわ」

幹部「同じく 伊吹 風子」

風子「はい!」

江坂「2等空尉に昇任させる。令和○年1月元日 三沢基地司令 空将 江坂 宗元」

葉留佳さん達は1月1日をもって2等空尉に昇任したのだ。これで、僕らと同じ階級になった。
次の昇任者は…

幹部「2等空尉 前原圭一ッ」

圭一「はいッ!」

幹部「同じく 春原 陽平ッ」

陽平「は、はいッ!」

幹部「同じく音無 結弦」

結弦「はい!」

幹部「同じく 日向 秀樹」

日向「はいッ」

幹部「同じく 仲村 ゆり」

ゆり「はいッ」

江坂「1等空尉に昇任させる。以下同文」
302飛行隊の前原2尉を筆頭に結弦さん達も昇任した。僕達の同期は誰も昇任していない。

幹部「3等空佐 安村 柊甫」

柊甫「はいッ」

江坂「2等空佐に昇任させる。以下同文」

副隊長の安村3佐も昇任した。これにより
我が114飛行隊は隊長 副隊長共に2佐だ。
こうして、昇任式は終わり三々五々に隊舎へと戻って行く。

豊「なぁ、理樹」

理樹「ん?何?」

隊舎に戻る道中、豊が話しかけてきた。

豊「同じ隊に2佐が2人ってどうなんよ?」

理樹「どうって言われても…上の決定だし」

豊「俺の予想では、火浦2佐は近々転勤するんじゃねぇのか?って思うんだが…」

理樹「まぁ、その可能性はあるだろうね。F-15の部隊に戻って飛行隊長になるんじゃないかな?分からないけど」

豊「う〜む…」

納得がいってない顔だ…これは、難しい質問だと改めて思った。

玄武「よ、お2人さん」

葉留佳「やっほ〜」

玄武と制服姿の葉留佳さん

理樹「おめでとう。葉留佳さん」

葉留佳「やはは…改めて面と向かって言われると照れますネ ありがとう。」

玄武「これで給料UPやね」

豊「そんなに変わらんと思うけど…」

葉留佳「私は空さえ飛べれば良いんですヨ」

理樹「ははは、葉留佳さんらしいね」

玄武「明日だったよな?お前らの出発って」

理樹「そうだね…船酔い大丈夫かな…」

葉留佳「理樹くんなら大丈夫でしょ〜」

豊「理樹、寝てる時にぶち撒けたらすまん…」

理樹「嫌だよ、気持ち悪いよッ」

明日の朝、僕達は福島県沖を航行中の護衛艦〔さつま〕に向けて出発する。
今回の運用試験で結果が良ければいずも型の
同型艦改装工事が行われ、順次航空隊が運用されるようになるらしい。それが…数年先か数ヶ月先なのかはまだはっきりとしない。

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ー官舎〔直枝家〕ー

理樹「これでよし」

沙紀「パパ、明日からお仕事?」

沙耶「沙紀、パパの邪魔しちゃ駄目よ?」

理樹「良いんだ沙耶、明日から5日間家を空けることになるからね…」

沙紀「寂しい…パパと一緒に居たいッ」

沙耶「沙紀、わがまま言わないの」

理樹「う〜ん…あ、そうだ!」

沙耶「どうしたの?理樹くん」

沙紀「どうしたの?パパ」

理樹「沙紀、一緒にお風呂入ろっか?」

沙紀「うん!」

僕がお風呂に入ろうと提案した途端に目を輝かせ元気になる。親バカかもしれないがこんなに嬉しい事はない。

理樹「それじゃ、行こうか」

沙紀「待って!ママと理沙も一緒に入るッ」

沙耶「え、えぇ…パパと?」

理樹「マ、ママと…?」

沙耶と目があった…気まずい…沙耶は顔を赤らめている…僕も正直動揺が隠せない。

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ー安村家ー

コンコン

柊甫「開いてるよ」

???「入ります。」

妻であるさゆりが入ってきた。

柊甫「どうしたの?さゆり」

さゆり「頼まれていた件について調べました
やはり、柊甫さんの読み通りでした。」

柊甫「やはりか…分かった。ありがとう」


私の妻である さゆり は私と同じ航空自衛官だ。
所属は樹の奥さんの佳奈多さんと同じ迎撃管制
階級は1等空尉だ。〔先日昇任したばかり〕

さゆり「私の勘ですが…芳しくない動きをしています。特にCの方が。」

柊甫「なるほどな…やはり、何かあるな」

さゆり「私もそう思います」

柊甫「しかし…連中は何者なんだ…?」

さゆり「それは…まだ確証を得てませんが…」

私達は伸びをしつつ連中について考えた。

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〜官舎〜

樹「忘れ物ナシ、おやつヨシ!」

ガチャ

佳奈多「樹くん」

樹「佳奈多か どったの?」

佳奈多「今日、産婦人科に行ってきたの…」

樹「ドキドキ…」

佳奈多「女の子だったわ。3ヶ月ですって」

佳奈多が俺に1枚の紙を見せてくれた。

樹「来たーーーーッ」

ガチャ

俺が叫んだ直後、みゆきが入ってきた。

みゆき「どうしたの?お父さん、大きい声なんか出して。」

樹「みゆき、質問するで?」

みゆき「??」

樹「みゆきなら女の子の名前は何が良い?」

みゆき「え、え…どう言う事?ねぇ、お母さん。何がどうなってるの?」

佳奈多「貴方に妹が出来るのよ」

みゆき「え、ほんと!?」

樹「嘘は言わんよ。名前はせやなぁ…みゆきに決めてもらおうかな。」

みゆき「ねぇ、いつ産まれるの?」

佳奈多「予定では6月ね」

みゆき「私もお姉ちゃんか〜」

樹「不安かい?」

みゆき「正直言うと…不安かも」

佳奈多「私もよ」

みゆき「お母さんも不安なの?」

佳奈多「ええ、色々とね…」

樹「ま、何かあれば俺が守ったる。佳奈多、みゆき、ほんで産まれてくる子をな」

みゆき「やっぱお父さんは強いね」

樹「そんな事ないで。お父さんの知り合いで訓練中に亡くなった人はぎょうさん居てる。それに…俺たちの仕事は明日は我が身、絶対に生きて帰れるって保証はないんよ。」

佳奈多「樹くん…みゆきには…」

みゆき「ううん、お父さんの言いたいこと分かるよ。お父さんに何かあったら私がお母さんや産まれてくる妹を守るから。だから…お父さんも絶対に生きて帰ってきてね。ゆびきりげんまん」

樹「小6やのに…しっかりしとる。父親として嬉しいわ。くッ…」

樹くんは涙を流していた。
それを不思議そうにみゆきが見ている。

みゆき「お父さん?何で泣いてるの?」

佳奈多「みゆき、部屋に戻ってなさい。」

みゆき「う、うん…?」

パタン

みゆきが部屋から出て行ったのを確認してから
私は樹くんを後ろから抱きしめた。

樹「か、佳奈…多…?」

佳奈多「何も言わないで…」

樹「ありがとう…ありがとう…」

前にも話した通り みゆきは私達の本当の娘ではない。樹くんの友人…の小田切 智樹 2等空尉
の娘で小田切2尉は彼女が3歳の頃、事故により亡くなっており奥さんも小田切さんが亡くなるより以前に死別している。本来は遠縁の親戚もしくは施設に預けられる予定だったが、小田切さんと1番仲の良かった樹くんが「この子は俺がアイツの代わりに育てる」と言って引き取った。

佳奈多「思い出しちゃったのね…」

樹「うん…すまんな。佳奈多…俺はやっぱ弱いみたいや…」

佳奈多「そんな事無いわ、貴方は貴方らしくやっていけば良いのよ。」

樹「ありがとう。もう10年か…」

佳奈多「そうね…時が経つのは早いわね」

あの子を引き取って10年になる。
最初、樹くんと付き合い始めた頃は驚いたバツイチでも無ければ未婚な筈の彼が小学校低学年の女の子と一緒に住んでいたのだから。

樹「立派に育ってくれたし…こんな綺麗な女性を嫁さんに貰うこともできたし俺は幸せ者や」

佳奈多「照れるじゃない…(////)」

樹「照れてる佳奈多は可愛いなぁ。みゆきと同じくらい可愛いで〜」



         続く…

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