音速の鷲乗りα 22




ーーーーーー8月某日ーーーーーーーー

ミーンミーンミーンミーンミーン ジャワジャワジャワジャワジャワ

蝉がうるさく鳴いている…

〜某森林記念公園〜


理樹「来ましたよ…3佐…」スッ

僕は持ってきた花とお菓子を供える。
今日は珍しく、私服でもなければフライトスーツでも無い。制服だ。それに…

理沙「パパ…ここはなぁに?」

理樹「ここはね…パパがお仕事でお世話になった人が眠る所だよ…」

僕は理沙そう伝えるが…いまいちピンと来ていないようだ。

理沙「ふぅん、そうなんだ…」

理樹「うん…」

沙耶「理樹君…大丈夫…?」

僕は目頭が熱くなるのを感じていた。

理樹「だ…大丈夫だよ…ありがとう。」

理沙「パパ泣いてるの?」

沙耶「理沙、ママと向こうで待ってよっか…」

理沙「うん…」

理樹(ありがとう…沙耶…。)

2人の姿が見えなくなると、僕は頬を伝うものがある事に気が付いた…涙だ…

理樹「3佐…どうして…早過ぎますよ…」

ノゾミ「直枝くん…大丈夫ですか?」

理樹「森さん…うん…大丈夫」

僕は涙を拭った

???「やっぱ、お前達も来てたんだな…」

ふと後ろから声をかけられた。この声は…

理樹「あ、高崎1尉 お疲れ様です。」

祐介「お疲れ様…なんか実感湧かないよな…
今にもそこら辺から出てきて。「何しょん?」って聞いてきそうだよな…」

理樹「そうですね…本当にそう思います…」

祐介「これが、夢だったら良いのにな…」

ノゾミ「……そうですね…」

理樹「ええ…そうですね…」

渉「男がくよくよ泣くなや…股間に象さん付いとんじゃろ?お前ら」

柊甫「泣いてたら、笑われるぜアイツに」

理樹「隊長、副隊長…」

祐介「そう言うお二人も、目が赤いですよ…」

渉「うるせぇやいッ」

柊甫「男でも…ま、多少はね?」

理樹「そうですね…緑川君はどうしたんですか?アラート…?」

祐介「強がって、家で泣いてたりしてな…w」

渉「いんや、アイツならトイレに行っとるで…」

祐介「あぁ…」

理樹「トイレットペーパー足りるかな…」

角谷「心配するとこそこかよ…」

祐介「あ、角谷…来たんだ…」

角谷「そりゃ…俺らが世話になった人だからね来るよ」

佐貫「豊ッ 早く来いよッ!」pi

豊〔うるさいよッ 俺だって心の…〕ブッツ

佐貫「まったく…アイツは…」

理樹「佐貫君も来てたんだね。」

佐貫「ええ…最後の最後までお世話になりましたからね…3佐には…」

風子「風子も居ます…これを持ってきました。」

風ちゃんは木彫りのヒトデを墓石に置いた。

理樹「良いのかい?それ、風ちゃんにとって大事な物でしょ?」

風子「良いんです…せめてもの気持ちです…」

理樹「そっか… そういえば大石1尉は?」

祐介「大石さんなら、アラート組だよ…来たがってたけど残念だ…」

理樹「とりあえず、草むしりからやりますか…」

柊甫「そうだな…」

渉「よし、佐貫と伊吹はバケツに水を汲んでこい。高崎と緑川で石を磨け、そのほかの手空きは草むしり 以上かかれッ」

全員「かかりますッ」

一通り綺麗になった後 俺たちは手を合わせた。

柊甫「黙祷ッ」

理樹(3佐…ゆっくり休んでください…)

祐介「先輩…うっ…うっ…」

角谷「お、おい祐介…」

渉「早すぎるで…バカヤロウ……」

柊甫「渉…ほら…」スッ

渉「すまん…ありがとう。」

豊「はんぢょょぉぉう…えっぐ…えっぐ…」

風子(お世話になりました…)

ノゾミ(すいません…副隊長…私のせいで…)

1分後…

柊甫「黙祷やめッ 直れッ 殉職された熊岡1佐に敬礼ッ」バッ

一同「…」バッ

✳︎自衛隊は職務中に殉職すると2階級特進 

柊甫「直れッ!」

佳奈多「今日は…主人のためにご足労頂きありがとうござました。主人も喜んでいると思います…」

柊甫「こちらこそ、皆ご主人にはお世話になりましたからね。ありがとうございました。」

渉「以後の行動は各人で決めろ。以上解散ッ」

全員「了解ッ」

副隊長の号令で各々が解散していく。
僕はまだ納得していなかった…なぜ、熊岡3佐が殉職されたのか…今回の件で僕は原因となった307飛行隊への異動願いを出した。
しかし、それは受理される事はなかった。隊長は納得してくれたものの、お上(空幕)からストップがかかったそうだ…何かある…
家に帰る道中その事ばかりを考えていた。

なぜ、3佐は死ななければならなかったのか…
事故は2ヶ月前に遡る…
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〜 2ヶ月前 〜

あの日はいつも通り…T-4練習機を使って訓練をしていたそうだ。

ノゾミ「副隊長…機動訓練実施します。
 エルロンロールnowッ」

樹〔了解、後席の俺のことは気にせんでええから、好きなようにやってみろ。〕

ノゾミ(了解」

操縦者は森2尉、後席に熊岡3佐が搭乗
単機の訓練で銚子沖70kmの沖合で訓練をしていたそうだ…

樹〔よし、良いだろう。次〕

ノゾミ「スプリットS実施します。now!」

その時、ピピピピッ機体の耐圧警報が鳴った…

ノゾミ「スプリットS終わり…」

樹〔よっしゃ、上手くなってるな。次ラスト
宙返り(ループ)やってみろ。〕

ノゾミ〔了解ッ ループ実施します。now〕

グォォォォォォォォッ

機体は大きく一回転し元の水平飛行に戻った。

樹〔よっしゃ、ええやろ。進路を北にとって
基地に帰ろう。〕

ノゾミ「了解」

機動訓練が終わり、進路を北に取った。
そして大洗町に差し掛かる頃に機体の警報音が鳴り響く。

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

樹〔何の警報や!?〕

ノゾミ「今、調べてますッ!」


計器盤を確認すると…油圧関係の警報だった。

ノゾミ「副隊長、油圧が徐々に低下してます。エンジン出力も下がってます…」

樹〔了解、I have!〕  

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

I haveとは操縦系統を渡せと言う意味である。
訓練生の時はこれが屈辱的で、意地でもそうならないようにしていたがこの場合は違う…

ノゾミ「ゆ、you have!」

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

樹〔シェリー百里にemergencyコールせぇよ。〕

ノゾミ「了解ッ…百里コントロール、ブロッケン12です。緊急の為日本語で申し上げます。飛行中に油圧、エンジン出力低下機体外部に外傷等はありません。緊急着陸を要請しますッ!消防車の待機をお願いします!」

百里CTL〔了解、runway21Lから侵入せよ。
基地まで頑張ってくれ!〕

ノゾミ「副隊長、緊急連絡終わりました。使用する滑走路は21Lです。」

樹〔了解ッ 森…もしかしたら百里基地まで辿り着けんかもしれん…〕

ノゾミ「そんな…わかりました…今日の予報ですと西の風後南の風なので…不時着ポイントしては…この辺りが」

私は地図を開き、大洗町の海岸線で不時着できそう場所にポイントを打つ。

樹〔まだ海水浴シーズンでは無いが、人が居てたら…最悪引き返す可能性もあるからな…〕

ノゾミ「了解」

樹〔試しに降ろしてみるか…gear down…〕ガコッ

ウィィィィィィン ガガッガッ

ノゾミ「作動ランプ付きません!」

樹〔中途半端な状態で降りてんのか…恐らく着陸できたとしても脚が折れるな…gear up〕

ウィィィィィィン ガコッ

樹〔森、燃料はあとどれくらいだ?〕

ノゾミ「増槽と胴体タンク含めて30分です。」

樹〔百里まで25分…一か八かやな…〕

ノゾミ「…副隊長…」

樹〔無事に百里に辿り着けたとしても、猶予はそんなに残っていない…今から海外線沿いを飛んで不時着させるには場所が悪すぎる…〕

ノゾミ「待ってください…副隊長、この近くなら…あった…成田空港が」

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

樹〔その案も考えたが、滑走路を塞いでまうと民航機に迷惑がかかる…しかもあちらは国際空港やからな…〕

ノゾミ「すいません…思いつきで…」

樹〔いやかまんで…森、君は初めてなんやろ?エマージェンシー(緊急事態)は…〕

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

ノゾミ「はい…副隊長は以前にも経験を?」

樹〔伊達に君らより長くは生きてないけんな
あの時の方が、まだ状況的には良かったな。〕

ノゾミ「そうですか…」

樹〔悩んだってしゃあない!森、ベイルアウト(緊急脱出)しろッ〕

ノゾミ「し、しかし…副隊長は…?」

樹〔俺は、コレを…海まで持って行ってみる。〕

ノゾミ「で、でも…副隊長ッ」

樹〔でももクソもあるかッ!早よせぇ!百里コントロール…森をベイルアウトさせる。〕

ノゾミ「り、了解ッ」

ベア〔キャノピーに気いつけろよ〕

ノゾミ「は、はい!森2尉 脱出しますッ」グッ

ガシャン ボシユーッ

私は勢いよく座席ごと機外に放り出された…

ノゾミ(副隊長……どうか…どうか死なないで下さいッ……。)

そこから、先は覚えていない…気がついたら病院のベッドで寝ていた。
ただ最後に見たものは、私の乗っていた機体がどす黒く不吉なオーラで渦巻いていた事ぐらいだ…私は後悔した、あの時伝えていればと…




       

       続く…

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