音速のドラ猫32

 

ゴォォォォォォォォォォォォォォォッ

〜三沢基地 管制塔〜

管制官「Altair各機離陸しました。」

江坂「うむ、何事も無ければ良いのだが…」

柊甫「やはり例の機体ですか?」

江坂「そうだな。第1に懸念しているのはその事だ…いくら最新鋭のアビオニクスを積んだところで、結局は就役から40年以上の機体だ」

基地司令の江坂空将はいつになく険しい顔つきだった。

ゴォォォォォォォォォォォォォォォ

1機の全日空機が着陸する…
東京(羽田)から来たのであろう機体だ。


管制官「ANA2110  turn Right a bare bull taxy way」
(ANA2110便、離脱可能ポイントから滑走路を離脱してください。)

ANA2110〔turn Right a bare bull taxy
  way ANA2110〕
(離脱可能ポイントから滑走路を離脱します)

この三沢基地は民間機も飛来する地方空港のため民間機の管制も自衛隊が行っている。

江坂「何事もない事を祈るか…」

柊甫「そうですね…」

まさかあのような事が起きるとは…
誰が考えただろうか…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜訓練空域(Dエリア)〜

樹〔よっしゃ、ぼちぼち始めるで Altair各機、スタート位置につけ。〕

揖斐谷〔了解〕

理樹「了解ッ」

玄武〔了解っス〕

結弦〔いつでもどうぞッ〕

こうして闘いの火蓋が切られた

〜理樹side〜

理樹「敵機は…」

豊〔俺たちの前方に2機、距離は150mi〕

葉留佳〔速力は750ktですネ〕

玄武〔さて、どう動くかな…〕

結弦〔俺たちはリトルの指示に従って飛ぶ。それだけだ。リトル、誘導は任せたぜッ〕

理樹「了解、豊 100miになったら教えて。」

豊〔了解、現在135mi〕

結弦〔100miで編隊を組み直すのか?〕

理樹「はい、更に70miから先は僕とピクシーが近接して飛びます。」

結弦〔なるほど。了解した〕

作戦の意図を理解した音無先輩は短く呟いた。

玄武〔後は先輩をどれだけ欺けるか…〕

葉留佳〔6割…良くて6.5割くらいだと思いますヨ?あぁ見えて樹くん結構勘が鋭いですからネ〕

風子〔風子もそう思います。以前訓練で飛んだ時も、下手な誤魔化しは通用しませんでした!〕

豊〔さて、そろそろ100miだ。〕

理樹「了解、ピクシーは僕の左翼に、カナデは右翼の少し離れた位置に付いてください。」

玄武〔あいよ〜〕

結弦〔了解だ。〕

〜祐介side〜

祐介「Altair03から02へ」

樹〔ん?どないした?〕

祐介「敵が速度を上げました。現在850kt 会敵予想時刻1045..」

樹〔了解、イビー〕

揖斐谷〔は、はい!〕

先輩が唐突に前席に座る揖斐谷を呼ぶ。

樹〔そな、緊張せんでええで。目視できるギリギリの距離まで誘き寄せる。その後はブレイク、後は祐介の指示に従って飛んでくれ。恐らくやけど…アイツら密集して来るはずや。〕

揖斐谷〔了解、しかし副隊長は?〕

祐介「ちょ、先輩ッ」

樹〔俺はこの機体のレーダー機器の性能テストを兼ねて自由に飛ばせてもらう。祐介、イビーを確実に敵機の後ろに誘導してやれ。〕

祐介「分かりました…」
(無茶苦茶だ…)

先輩が何をしようとしてるのか、俺には見当がついていた。先輩の駆る機体は、レーダー機器類のアビオニクスがアップグレードされたのは勿論の事、もう一つ他のメンバーには言っていない物が装備されていた…
それは…ジャミングシステムだ。
このシステムは敵のレーダーに嘘の位置情報を送信しジャミングにて錯乱させる装置だ。
そして、距離が近づくにつれて敵のレーダーには映りにくい仕様となっている。
また、味方機のレーダーとリンクさせる事でリアルタイムで味方に自機の位置を送信することができる。
装備としては画期的だが、これには弱点があった…それはこの装置を長時間使用すると他の電装機器をショートさせてしまう…
一回で使用できる時間は5分〜長くて10分と言われている。

樹〔さてさて、坊や達を可愛がってやろか〕

謙也〔目視可能距離まで残り10mi〕

祐介「そろそろですね。」

樹〔よっしゃブレイクッ、健闘を祈るッ〕

祐介「了解ッ イビー、おそらく奴らはびっくり作戦で来る筈だ。奴らの裏をかくぞ」

謙也〔了解です!〕

ゴォォォォォォォォッ

俺たちは2手に別れた。
俺達の機体は相手の裏をかくために、一度、急上昇し33000ftまで登った。
先輩はと言うと…

ピッピッピッ

理樹達の背後を取るべく密かに急降下しレーダーを切り替えていた。

〜理樹side〜

豊〔敵襲ッ〕

理樹「なんだって!?レーダーには…」

ザザッザッ

玄武〔くそッ…物凄いジャミング電波やちくしょうッ…HUDがイカれたか!?〕

葉留佳〔敵機、背後に付きますッ〕

最初に狙われたのは玄武達だった。

理樹「ピクシー、逃げてッ」

玄武〔くそッ、こいつ!〕

葉留佳〔ピッタリと張り付いてますネ〕

結弦〔ピクシー。3秒後に右へ旋回ッ〕

玄武〔り、了解ッ〕
 
風子〔音無さん!背後に敵機がッ!〕

後ろを目視で確認している風子が叫ぶ

結弦〔何だって!?レーダーには…〕

豊〔リトル…リトル……おい理樹ッ…〕

理樹「はッ、僕は…」

豊〔ウィングマンに指示を送ってやらんと体勢がめちゃくちゃだぞッ〕

豊の言う通り、玄武は揖斐谷3尉の機体に音無先輩は副隊長に追いかけ回されていた!

理樹「くそッ…」
(どうする…)

豊〔理樹、大丈夫かよ?〕

理樹「やるだけやってみようッ」

一か八か僕は行動に出た。
音無先輩を追いかけ回す副隊長に狙いを定めて追いかけた。

会敵から約10分が経った頃だった…

副隊長の駆る機体が急に勢いが無くなった。自由落下するかの如く推力を失っていた…

祐介〔副隊長ッ〕

樹〔………。〕

祐介〔先輩ッ!〕

理樹「副隊長ッ」

葉留佳〔樹くんッ〕

無線で高崎1尉と一緒に僕達も呼びかけるが
応答がない…
尚も落下を続けるF-14R
そして雲の下へと消えていった…

理樹「副隊長〜ッ」

玄武〔嘘だろッ〕

結弦〔とにかく探しましょうッ〕

祐介〔そうだな。Altair各機訓練中止だッ、先輩の…副隊長の機体を探せッ あと…リトル!〕

理樹「は、はい!」

祐介〔三沢にemergency callしておけ…〕

理樹「り、了解…」

emergency callとは訓練中に事故や何らかのトラブルが起きた際に通報する事だ。
僕達はすぐさま訓練を中止し、副隊長が落下したと思われるポイント上空へと向かった。
そして…あの場所で副隊長の乗っていた機体を発見した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして現在…

〜114飛行隊長室〜

コンコン

柊甫「入りたまえ。」

祐介「高崎1尉入りますッ」

柊甫「エルモか、休暇を与えた筈だが?  
 今は休んでなさい。」

祐介「隊長にお渡ししたいものがあり参りました。これを…」スッ

高崎君が柊甫君に渡したもの…それは
辞表とウィングマークだった。

千景「本気なの?」

柊甫「……。」

祐介「今回の事故は先輩を…副隊長を無理にでも止めなかった私に非があります。どんな処罰も受ける所存です…ですので…」

柊甫「高崎…」

祐介「はい…」

柊甫「馬鹿野郎ッ」バキッ

祐介「ぐッ…」

千景「隊長、いくら何でも…」

柊甫「副隊長、君は黙っていろ。」

千景「しかしッ」

柊甫「彼と2人きりにしてくれないか?」

千景「分かりました。」パタン

彼女が出ていったのを確認すると私は彼に手を差し伸べた。

柊甫「手荒な事をしてすまない…」

祐介「い、いえ…」

柊甫「私は君がここを辞めるのは反対だ…高崎」

祐介「なぜ…でしょうか…?」

柊甫「アイツのことを想うなら、飛んでやれ。中途半端に辞めるな…」

祐介「……。」

柊甫「私も…いや、私達か」

隊長は壁にかけられた先輩の写真を見ながら呟いた。殉職後であるため1等空佐の階級章に変わっている。だが、写真は昔と変わらず優しそうな顔つきだった。

祐介「はい…」

柊甫「私達もかつて同期を失った事がある…私自身は間接的ではあるが樹はその現場に居た」

祐介「小田切2尉ですか…?」

柊甫「そうだ。あの当時のアイツも今の君と同じ事をしたみたいだな。」

祐介「俺と同じ事…ですか?」

柊甫「事故直後のアイツに会った時は驚いたよ疲弊しきっていてね…あの写真からは考えられない程ガリガリに痩せこけて…一時期は自衛官を続けることすら危ぶまれた。正直、かける言葉もなかったよ」

祐介「先輩がそこまで…」

柊甫「俺は君がそうなるんじゃ無いか心配なんだ…優秀な部下を2人も失いたく無い。これが俺の本音だ。やから、今一度良く考え直してくれ…本当にダメならもう一度 俺の所へ来い。」

祐介「分かりました…」

柊甫「あと、殴ってすまなかった…」

祐介「いえ、大丈夫です。失礼します。」パタン

彼が出ていくのと同時に千景が入ってきた。

千景「大丈夫かしら…高崎くん」

柊甫「彼なら大丈夫さ。何せアイツが手塩にかけて育てた1番弟子だからな…」

千景「そうね…」

柊甫「いつまでも…クヨクヨはしてられないさ…先達に申し訳が立たんくなる…」

千景「柊甫君…」

彼の目には涙が溢れていた。
辛いのは家族は勿論の事、辛苦を共にしてきた114飛行隊の皆なのだ…



         続く…


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