音速のドラ猫34

 

とある日曜日の朝…
チュンチュンチュンチュン

〜三沢基地〜

〔官舎〕

佳奈多「何も無いけど上がって。」

なゆき「あぅぅぅ〜ッ」

あゆ「うん。お邪魔しま〜す。こんにちは、なゆきちゃんッ はい…これ少ないけど…」

そう言って彼女は謙遜するが有名和菓子店の菓子折りを持ってきてくれた。

佳奈多「気を遣わなくて良かったのに…」

あゆ「そうはいかないよ。故人になってもボク達の上官に変わりはないんだからさ。」

佳奈多「そうね…ありがとう。あゆさん」

あゆ「どういたしまして〜 よいしょっと」

あゆさんは樹くんの仏壇の前に座ると線香に火をつけ手を合わせた。

チーン

あゆ「……。」

佳奈多「……。」

なゆき「ぶぅぅぅぅッ」

数十秒後 あゆさんは顔を上げ私に向き直る。
その目は仕事の時よりも真剣な目つきだった。

あゆ「ねぇ、佳奈多さん…」

佳奈多「な、なに…?」

あゆ「樹さんってどんな人だったの?」

佳奈多「唐突ね…」

あゆ「佳奈多さんを口説き落とした人がどんな人だったのか知りたいんだ。」

佳奈多「樹くんは…」

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〜回想〜

ここは、三沢市内にあるとある喫茶店

とある人物に呼び出され、その人を待っていた。

佳奈多「10分遅れてるわね…あの人」

腕時計を見ると約束の時間を10分ほど過ぎていた。店を出ようかと思った時だった…

ガチャ   カランカラン

店員「いらっしゃいませ〜」

スタスタスタ トンッ

1人の男性が私の目の前に座った。


樹「すまん、佳奈多 待たせてしもた。」

佳奈多「別に構いませんが…お話とはなんでしょう?熊岡2尉」

樹「そんな堅苦しくせんでええよ。」

店員「あら、いらっしゃい ご無沙汰じゃないっすか!」

樹「とりあえずビール お願いします。」

店員「かしこまりッ」

佳奈多「昼間から飲むんですか?」

樹「おっさんになるとね飲まんとやっとれんのよ…ははは…」

佳奈多「おっさんって…貴方まだ30来てないでしょ」

樹「25超えたらもうおっさんよ〜、最近は肩凝りとか酷ぅてなぁwww」

佳奈多「ふぅぅ…それで話って?」

樹「今度の休みって予定あるかい?」

佳奈多「日曜でしたら空ける事は出来ますが」

樹「よっしゃ、ほなちょっと付き合ってもらえんかな?」

佳奈多「何かあるんですか?」

樹「ちょっとね…」

先程まで明るく振る舞ってい熊岡2尉の顔が暗い表情となった事で、私は察した。

佳奈多「分かりました。制服の方がいいですか?」

樹「いや、私服でかまんよ。」

佳奈多「了解です。あの…」

樹「んにゃ?」

佳奈多「気に負わないで下さいね…」

それしか言えなかった。気丈に振る舞って見えても実際はあの事故から1ヶ月ほどしか経っていなかった…この人が気に病んでいるのも頷ける。

店員「お待たせしやした〜ッ」

樹「おおきに〜 んぐっんぐっんぐっ」ゴクゴク

佳奈多「ふふっ、いい飲みっぷりですね。」

樹「ぷふぅ〜ッ ありがとうな佳奈多」

佳奈多「何がです?」

樹「こんな俺と付き合ってくれて。」

佳奈多「………バカッ(////)」ボソッ

樹「ん?」

佳奈多「何でもありませんッ、さ、次の所へ行きましょう!樹くん」

樹「え、あ…ちょッ お勘定〜ッ」

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あゆ「面白そうな人だね!」

ボクは素直な感想を述べた。

佳奈多「変わった人だったわ…」

あゆ「でも、佳奈多さんも良い人と出会えたね  
  ねぇ〜なゆきちゃん」

なゆき「あぅぅぅ」

佳奈多「そうね…でも、こんなお別れの仕方って無いじゃない…それにこの子だって…」

なゆき「あぅぅ?」

あゆ「佳奈多さん…」

佳奈多「ごめんなさい…泣くつもりは…」

あゆ「ううん、いいよ。ほら…おいで。」ギュッ

あゆさんは腕をひろげそっと抱きしめてくれた…その時、私の中で何かが崩れた。
それと同時に私の頬に伝う大粒の涙…

佳奈多「うッ…うッ…えッ エグッ…えぐっ…ぐずっ…樹ッ……樹くん…うわああああああああああんっ」

あゆ「いいんだよ?頑張ったね。辛かったよね?今は我慢せずに泣いていいんだよ?」

腕の中で、佳奈多さんは泣き続けた。
ボクは、泣き止むまで頭を撫でた。
ただ…ボクも限界を超えてしまい…声に出さず静かに泣いた。

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〜三沢病院〜

唯湖「これでよし…もう起きても大丈夫だ。」

⁇?「すまんねぇ唯ちゃん」

唯湖「唯ちゃんはやめてくれ…しかし、ここまでやる必要はあったのか?」

⁇?「……。」

唯湖「まぁ、答え難い事情があるのは承知している。しかし、友達を騙してまでやる事ではないとお姉さんは思うぞ。」

⁇?「君の言う通りや。やけど、アイツらを守るにゃこうするしか無かった…分かってくれ」

唯湖「貴方だけを責めるつもりはない…私や黙認している院長も同罪だ。」

⁇?「ありがとう。」

唯湖「ウチの旦那にも黙っているのだろう?」

⁇?「そうやな。」

ガラガラガラ

院長「起きていたか。」

⁇?「協力してもらって悪いな聖」

聖「何、幼馴染のよしみじゃないか。」

この病院の院長である 霧島 聖と患者は
学生時代の幼馴染らしい。
現に今もこうして昔話をしている。

⁇?「ありがとうで…ほんま」

聖「このツケは君の出世払いに期待するよ。」

⁇?「相変わらず食えん奴やなw」

聖「ふふ、君ほどではないさ。」

唯湖「院長、そろそろ」

聖「あぁ、すまない。唯湖くん…それじゃここから先は気をつけるんだな。」

⁇?「あぁ、恩に着るで 聖」ガラガラガラ

カツカツカツカツカツ…

遠ざかっていく足音…一仕事終えた私達は安堵しつつ少し罪悪感を覚えた。

唯湖「良かったのですか?院長」

聖「良いんだよ。彼にはそれだけの覚悟があると言うことだ…水は差せないよ。」

唯湖「そうですね。」

聖「さて、闇医者業務はここまでだ。我々も本来の清廉潔白な業務に戻ろう。」

唯湖「はい。」

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〜三沢市立 岬中学校〜

♫〜

女生徒「ちょっとストップッ」

ツリ目の気味のポニーテールの先輩が演奏を止め、もう1人のボーカル担当の先輩が心配そうに近づく。

女生徒2「どうした?」

女生徒「悪い、緩んだ調整し直すわ」

女生徒2「OK.じゃ、10分休憩な」

みゆき「私、飲み物買ってきますね〜」

しおり「私も行く〜」

走り去っていく後輩2人を横目にポニーテールの女生徒が呟く。

女生徒「岩沢、アイツら相変わらず仲良い
よな。」

岩沢「そうだな。ひさ子、調整はどう?」

ひさ子「もう少しかかるな」

岩沢「なぁ、ひさ子…」

ひさ子「ん?」

岩沢「みゆきの奴大丈夫かな…」

ひさ子「あぁ…親御さんの…」

岩沢「心配だ…」

ひさ子「普段から気丈に振る舞ってるが…」

岩沢「まだか弱い一年生だ…2年のアタシらが何か出来るならしてやりたい所だが…」

ひさ子「しかし珍しいな。」

岩沢「何が?」

ひさ子「アンタは、音楽にしか興味を示さないと思っていたが違ったんだな。」

岩沢「おいおい、それは流石に傷つくぞ…」

ひさ子「去年のアンタを近くで見てればな…」

みゆき「戻りました〜」

しおり「ハァハァハァ…みゆきち足速すぎ…」

岩沢「おしッ、戻ってきたな練習再開すっか」

3人「お〜」





         続く…












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