音速のドラ猫21

 

〜官舎〜


沙紀「パパ?どうしたの?」

理樹「ん?いや、何でも無いよ。ほら、溢れてるよ沙紀」

沙紀「あっ…ありがとう。」

理沙「あぅぅぅ」

沙耶「理沙、あ〜ん」

理沙「あ〜ぅぅ」

沙紀「ママのご飯、今日も美味しいな〜」

沙耶「ふふ、ありがとう」ニッコリ

愛する妻と娘2人が居る幸せな家庭…
そんな家庭がある日突然崩壊する。想像しただけでも恐ろしい。
いつか僕もそうなるかもしれない…そんな事を考えてしまっていた。

沙耶「ねぇ、理樹くん」

理樹「はッ…どうしたの?沙耶」

沙耶「具合悪いの?」

理樹「何でも…無いよ。」

沙耶「そ、そう?なら良いんだけれど…」

理樹「ごめん…ご馳走様。」

パタン

僕は晩御飯を残し、自室へと戻った。

沙紀「パパ、大丈夫かな?」

沙耶「大丈夫よ、心配しないで。」

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〜理樹の部屋〜

コンコン

理樹「空いてるよ。」

沙耶「入るわよ。理樹くん」ガチャ

理樹「沙耶…さっきはごめん。」

沙耶「ううん…良いの。理樹くんだってお仕事で疲れてる日もあるよね。」

理樹「ごめんね。心配かけて…」

沙耶「理樹くんがよければ話を聞かせてくれない…かな?」

理樹「実は…今日の訓練で普段温厚な上官を本気で怒らせてしまってね……」

沙耶「そうだったの…」

理樹「それに…今日の編隊長は僕だった…僕があんな作戦なんか立てなければ…」

沙耶「理樹くんが気に病む事じゃ…」

理樹「僕は大馬鹿者だ…」

沙耶「理樹くん…あまり自分を…」

理樹「3佐にとっては2度と起こってほしく無い事だったんだ…それを僕が…」

沙耶「え…?」

理樹「今から約10年前に起きた事故…〔高知沖自衛隊機墜落事故〕って覚えてる…?」

沙耶「ええ、学生だったけど諜報員として働いててリアルタイムニュースで見たのを覚えているわ。確か亡くなったのは…小田切 智樹 2等
空尉だったわね…?」

理樹「うん、そしてその当時 一緒に訓練で飛んでいたのが僕の現在の上官である熊岡 樹 2等
空尉(当時)だった…」

理樹くんは小さく語るように話してくれた。

沙耶「そんな事があったのね…」

理樹「今回僕がやった事と当時の副隊長がやった事が全く同じ事だったみたいで…」

沙耶「それで当時事故が起きたと…」

理樹「副隊長のトラウマを再発させてしまった…後悔してるよ…」

沙耶「ねぇ、小田切さんの娘さんは今はどうしてるの?施設に…?」

話の中で出てきた小田切 2尉の娘さんである「みゆき」ちゃんについて聞いてみた。

理樹「ううん、副隊長が引き取って育ててる
来月で中学生になるんだって。」

沙耶「そう…せめてもの償い…か」

理樹「そうかもね…副隊長は意外と義理堅い人だから…」

沙耶「とにかく、元気出しなさいッ」

理樹「ありがとう、沙耶」

沙耶「それじゃ、私は先に寝るわね」

理樹「うん、おやすみ。」

沙耶「おやすみなさい。」パタン

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沙耶「ふぅ…」

改めて私は当時の事故について記憶を辿った。
あの当時、某機関の諜報員としてとある組織を追っていた 。その組織とはアジア圏で最大の軍事力を持ち、尚且つ情報諜報活動にも力がある中国軍情報局外事3課〔闇の執行部〕だ。
あの事故の直前と直後で頻繁に奴らが動いていた事を私は知っている。しかし、奴らが何をしていたのか…その情報を得ることは無かった。

私はスマホの電話帳の中からとある人物を選び電話をかけた。

沙耶「あ、もしもし。お久しぶりですご無沙汰しています。 ええ、夜分遅くにすいません」

⁇?〔良いわよそんなに堅苦しくなくても。それで、どうしたの?〕

沙耶「実は…」

私は理樹くんから聞いた事、墜落事故当時の
奴ら〔闇の執行部〕の動きについて話せる事を話た。

???〔そう…分かったわ。こちらでも探ってみるわ。分かり次第また連絡するわね。〕

沙耶「無理を言ってすいません。先輩」

⁇?〔いいわよ。気にしなくても可愛い後輩の頼みなのだから断るわれないでしょう?〕

沙耶「ありがとうございます。朱音さん」

朱音〔良いのよ。沙耶〕

沙耶「それじゃ、失礼します。」

朱音〔ええ、おやすみなさい。〕ツーッツーッツーッ

沙耶「ふぅ…朱音さんは変わらないわね。」

電話を切り寝室に戻った。

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〜訓練空域〜

福島県沖の訓練空域 Cエリア


樹〔それじゃ、始めるで〕

理樹「了解ッ」

僕は副隊長のウィングマンとして、彼の指示に従わなければならない。

樹〔よし、aileron role now!〕
(エルロンロール、ナウッ)

理樹「now!」

エルロンロールとは文字通りエルロンを用いて
機体をロール(回転)させる飛行のことを指す
敵機に背後から機銃掃射された時に使うコンバット飛行(戦闘飛行)だ。

樹〔リトル、そのまま付いてこいッ〕

祐介〔今ので、4.5Gですね〕

理樹「り、了解ッ」

豊〔うぐッ…なかなかヘビーだぜ…〕

数秒後…エルロンロールが終了、次のコンバット飛行に移った。

樹〔次ッ、スプリットSやるでッ〕

理樹「了解ッ」

樹〔スプリットS now!〕

スプリットSとは、航空機のマニューバの一つである。180度ロール、ピッチアップによる180度ループを順次、あるいは連続的に行うことで、縦方向にUターンする空戦機動の事だ。

その時、ププププププププ 機体の耐圧警報が鳴りHUDを確認すると6.0Gと表示された。

数秒後には水平飛行に戻り…

理樹「スプリットS終わり…」

豊〔これはまだマシか…〕

樹〔よしよし、上手くなってるやん。次、
 宙返り(ループ)やるでッ〕

理樹「はいッ」

樹〔ループ now!〕

グォォォォォォォォッ

理樹「うぐッ…はぁはぁはぁ…」

今までとは比べ物にならないほどのGが全身を襲い呼吸が浅くなる。

豊〔背面飛行よりキツイ…〕

祐介〔頭に血が昇りますね〜〕

樹〔せやなぁw〕

機体は大きく一回転し元の水平飛行に戻った。

樹〔最後の仕上げ。ローリングシザーズ
をやるぞッ 離れんよーに!〕

理樹「了解ッ」

樹〔ローリングシザーズ now!〕

最後は難題のローリングシザーズ(戦闘飛行)だ。ローリングシザーズとは2機の航空機が並行に飛行しながら急旋回による蛇行を行った結果、双方の飛行軌跡が交錯している状態で尚且つ2機が接触しないようにグルグルとロールしながら行うため難しい。
正直、これが1番キツい…
第11飛行隊(ブルーインパルス)でも滅多にやらないみたいだ…

グォォォォォォォォ

空と地上が交互に入れ替わる。
これをする時はバーティゴー(空間識失調)にならないか正直なところ不安である。

樹〔よっしゃ、今日はこんなもんでええやろ。進路を北にとり三沢基地へ戻るで。〕

理樹「了解!」

祐介〔上出来上出来〕

豊〔目、目が回る〜ッ〕

理樹「大丈夫?…豊」

豊〔俺は、だ…大丈夫…うぉえッ…〕

3人(ダメだこりゃ…)

基地へ戻る途中…僕は副隊長に謝罪した。

理樹「あの、副隊長」

樹〔んにゃ?〕

理樹「先日は…本当にすみませんでした。」

樹〔理樹…〕

理樹「は、はいッ」

樹〔まだ、気にしてたんか〕

理樹「え…?」

樹〔気にすな気にすな、失敗は誰にでもある次は同じ事せんかったらええんよ。おk?〕

理樹「は、はい」

いつも通り緩い感じの副隊長…正直、面食ら
った気分だ。

樹〔いつまでも気にしたってしゃあない。踏ん切り付けて切り替えていかんと。もたんで〕

理樹「はい。ありがとうございます…」

樹〔さてさて、訓練も終わったし。帰るで〜 明日はみゆきの卒業式やしな。〕

豊〔お、みゆきちゃんも遂に中学生ですか!〕

祐介〔早いですね〜、あんなに小さかったみゆきちゃんがもう中学生だなんて。〕

樹〔せやなぁ、明日は何着て行こうかねぇ〕

理樹「無難にスーツですか?」

祐介〔制服もアリかもですね。〕

豊〔いやぁ、やっぱ3佐はふんどしでしょ。〕

樹〔豊、お前帰ったら、兎飛び基地内5週な〕

豊〔うぇぇぇッ…〕

理樹「自業自得だよ…」

豊〔助け舟出してくれヨォ 理樹ぃ〕

樹〔さぁ、基地が見えてきたで。楽しい楽しい兎飛びの時間やで〜 豊くぅん⤴︎〕

祐介〔なんで、ア○ゴさんなんですかwww〕

基地に帰投後、豊が泣きながら兎飛びをしていたのは言うまでも無い…


         続く…





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