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音速のドラ猫12



〜上空10000m〜

ゴォォォォォォォォォォォォォォッ

新田原基地を出発して約1時間15分…
現在位置を確認するために僕は計器を見た。

高度33600ft(10800m)
外気温 -50℃
北緯35.83, 東経138.60

山梨県の黒平町の上空か…三沢までは現在の速度で約1時間か。

樹〔理樹、とりあえず落ち着け。2児の親父になるんやけん。心配なんは分かるけど〕

ソワソワしている僕を気遣ってだろう班長が声をかけてくれた。

理樹「すいません…運び込まれたと聞いてから気が気じゃ無くて…」

樹〔分からんでもない。俺も似たような経験があるけんなぁ…〕

理樹「あれ?班長ってお子さんは…」

樹〔んにゃ?まだ居てないよ。いやね、出産とは別でな佳奈多が本家にちょっかいかけられたって聞いた時はファントムを掻っ攫ってでも本家を襲撃しに行こうかって思った位やw〕

理樹「笑い事じゃ無いですよ…」

葉留佳さんから聞いたことがある…佳奈多さんと班長が付き合い始めた頃、ちょうど本家の妨害が激しい時期で佳奈多さんが帰宅途中に本家の過激派に誘拐されたと聞いた時は僕も血の気が引いた記憶がある…
僕はその当時、百里の305SQ 班長は302SQ 玄武と葉留佳さんは501SQに在籍していた。
事件が起きた直後、百里基地ではF-4EJが許可なく離陸して行って大騒ぎとなった。
それが誰だったのか…言うまでも無い。


樹〔まぁ、今となりゃ笑い話やけどなw〕

理樹「あの頃の班長は中々過激でしたよね…」

樹〔んな、人聞きの悪いこと言いなや…〕

その時…
新潟のレーダーサイトから通信が入る。

ザザッ

orion〔Altair03 this is orion you'r under my Control stare 060 direct with Cream〕
(アルタイルこちらオリオン 貴機を誘導します方位60°の"クリーム"に向かって下さい。)

クリームとは山形県の新庄市上空にあたる。

どうやら、三沢基地までの最適なルートに
誘導してくれるようだ。

樹〔roger Altair03〕
(アルタイル03 了解)

機体がやや左に傾き北東に機首が向けられる。

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〜三沢病院〜

ー 待合室 ー

唯湖「うむ…理樹くんはまだ来ないのか。」

佳奈多「遅いわね…」

沙紀「ねぇ、佳奈お姉ちゃん…」

佳奈多「ん?どうしたの?」

沙紀「ママ、死んだりしないよね…?」

沙紀の目は涙でが溢れそうだった…いますぐ泣き出したい、パパやママに会いたい、でも我慢しなきゃ…自分はお姉ちゃんになるんだから我慢しなきゃと必死に堪えてるのだろう。
私はそっと沙紀を後ろから抱きしめた…
沙紀の小さな体を抱きしめた…

佳奈多「沙紀ちゃん…泣きたい時は我慢せず泣いていいのよ。我慢しなくて良いの…」

私はニッコリ語りかけた。かつて、自分の妹である葉留佳にしてあげたように…途端、彼女の涙腺は崩壊し私の胸の中で泣いた。連られるように私も泣いてしまった…

ー手術室ー

その頃、手術室では沙耶が必死に陣痛の痛みに耐えながら処置を受けていた。幸い母体には命に別状はないものの、やはり破水していたようでお腹の中の子は少し危険な状態であった。

沙耶「うっっっ…あああっ! うっ、いっ…痛いっ… 理樹君っ…沙紀っ… 会いたいっよ…」

椋「頑張って下さい!直枝さん!」

小毬「頑張れッ さっちゃん!」

助産師「大丈夫ですよ〜! じゃけん最後まで頑張りましょうねぇ沙耶さん!」

小毬や椋が苦しむ沙耶に声をかける。
沙耶もそれに応えようと頑張るのであった。

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〜新田原基地〜

葉留佳「理樹くん、大丈夫ですかネ?」

豊「アイツなら大丈夫さ。」

玄武「嫁から連絡があった。沙耶ちゃん破水
してるみたいやな…」

祐介「マジかよ…」

朋也「普通にヤバいじゃねぇか…」

沙都子「それで、直枝さん達は今どの辺りを飛んでるのですか?」

柊甫「さっき、DEPで確認したら群馬と新潟の県境を飛んでたな。後…1時間ぐらいで三沢に着くだろう。」

葉留佳「間に合うといいんですけどね…」

火浦「とりあえず、じっとしてても埒があかんぜよ。俺たちは予定を繰り上げて夕方にゃ新田原を出て三沢に帰るが…緑川と高崎がそれぞれ置いてきぼりか…」

玄武「どーすんのさ?豊」

豊「どーするって言われてもなぁ…」

柊甫「とりあえず、緑川は後席固定やから」

豊「デスよね〜」

火浦「高崎、お前操縦資格持ってたろ?」

祐介「ええ、一応は…」

火浦「よし、安全運転でな。緑川が途中喚き出したらマニューバを使って黙らせてもいいから。」

豊「え、ちょ…」

祐介「分かりましたッ」ニヤリ

青ざめる豊と不穏な笑みを浮かべる高崎1尉

日向「良かったな!豊」

豊「ちっとも良くないっスよ!」

全員「wwwwwwww」

その後、豊が青い顔をして高崎1尉の機体に乗り込んでいたのを俺は知っている。

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〜三沢上空〜

新潟のレーダーサイトと交信から45分…
僕達は三沢市の上空に到達した。

かすかに見える基地の灯り。

理樹「見えたッ」

樹〔落ち着きんさいな。理樹〕  

理樹「す、すいません…」

樹〔産まれてくる赤ん坊の名前でも考えときんさいな…MISAWA approach this is Altair03 final approach runway insight〕
(三沢アプローチ、こちらアルタイル03
 最終侵入、滑走路視認)

班長が三沢基地のapproach(着陸担当)と
交信を行う。

TWR〔this is MISAWA approach  runway 16 wind 190 at 5 Cleared to Land〕
(こちら、三沢アプローチ 滑走路16の風は190°方向から5m/s 着陸を許可します。)

樹〔roger Altair03〕

三沢基地から着陸の許可が下りて高度が徐々に下がる。速度も落ち主翼が最大まで開かれる。

高度計〔100...70.60.50....20.10...〕
*英語アナウンスです。

樹〔landing〕
 (着陸)

理樹「roger…」

樹〔OK. reverse!〕

ゴォォォォォォォォォォォォォォッ

主脚が滑走路に着くと少しの振動が起こる。そして、前輪が接地したと同時にエンジンのパワーが落とされリバース(逆回転)に入る。

三沢ground(地上管制)と交信する。

TWR〔Altair03 三沢ground taxy by Y2
SPOT 10 〕
(アルタイル03、三沢グランド 誘導路はY2 駐機場10番に向かえ。)

樹〔roger Altair03〕

キィィィィィィィィィィィィィィィィィィ
  キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン

整備員の誘導により10番駐機場に停止し、エンジンを停止する。

樹「装備降ろして着替えたら駐車場に来まい」

理樹「え?」

樹「病院まで送ってったるがな。」ニヤリ

理樹「あ、ありがとうございますッ!」

熊岡3佐がポッケから鍵を取り出し笑顔で病院まで送ると言ってくれた。
嬉しかった、人に恵まれているなと感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜三沢病院〜

その頃病院では。

沙耶「あああああああああッ! ウッっっっっッ! 痛いッ痛いッ痛いッ! 嫌だッ!
こんなの嫌だっ! 早く殺してっ!」

唯湖「沙耶くん!頑張るんだッ!」

小毬「そうだよ!さっちゃん! 理樹くんももうすぐ来るよッ!」

鈴「そうだぞッ!沙耶、お前なら出来るッ」

椋「直枝さん!頭が見えてきましたよッ!」

唯湖「もうすぐだぞッ 沙耶くん」

みんなが私を応援してくれている。
待ってくれている…頑張る…
この子のためにも、私…頑張る

その時だった…

ガチャ …バンッ

理樹「沙耶ッ!」

それと同時刻…
「オンギャーオンギャーオンギャーオンギャー」

元気な産声が手術室の中で響いた。新たな生命の誕生であった。

椋「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!直枝さん!よくがんばりました!」

小毬「おめでとう〜!本当におめでとうッ!」

鈴「頑張ったな!沙耶ッ」

涙を流しながら祝ってくれる、鈴と小毬さん。

沙紀「ママ!おめでとう!よくがんばったね!えらいえらい」

沙耶の頭を優しく撫でる沙紀

唯湖「沙耶くんよく頑張ったな。一時はどうなるかと思ったが…母子共に健康だ。さっ抱いてあげてなさい。」

沙耶「うんッ」

唯湖が目の端から雫を溢し、ニッコリと微笑みかける。

理樹「おめでどう!沙耶…ほんどうにおめでどう…!よく頑張ったね…ッ」

僕は涙を流しながら祝福の言葉を贈る。

沙耶「ありがとう…みんな、ありがとう赤ちゃん…生まれてきてくれありがとう…」
(私頑張れたよ…少し休んでも良い?)パタッ

理樹「沙耶ッ!」

沙紀「ママッ!」

鈴「沙耶ッ 大丈夫か!?」

唯湖「心配するな。体力を消耗して眠っているだけだ…今は休ませてあげよう。」

理樹「うん…ありがとう。皆」

私が次に目を覚ましたのは、数時間だった。

隣には、先程、生まれたばかりの赤ちゃんがスヤスヤと心地良さそうに眠っていた。
その隣で、理樹くんと咲が寄り添う形で眠っていた。あらあらと苦笑いしつつ近くにあった毛布を2人にかけ。

ガラガラガラ

椋「おはようございます。あ、起きてまし
たか。体調はいかがですか?」

藤林さんがカートを押しながら入ってくる。

沙耶「椋さん…まだちょっと倦怠感がありますね…」

椋「分かりました。それにしても…お二人ともよく眠ってますね。」

沙耶「そうですね〜 ふふ、可愛い」

椋「お名前はもう決められたんですか?」

沙耶「それが…まだなんです。」

理樹「ん…あ、おはよう沙耶」

沙耶「おはよう。理樹くん」

椋「おはようございます。」

理樹「僕、いつの間に…」


沙耶「ねぇ、理樹くんこの子の名前はもう決めてあるの?」

理樹「勿論!え〜と…」

理樹くんはポッケの中から一枚の紙を取り出す
そこには…色々な名前の案が書かれておりその一つに赤色で丸印がされていた。

沙耶「理沙…」

沙紀「私も考えたの〜ッ」

元気よく沙紀が言う。

理樹「うん、昨日ね沙紀と一緒に考えたんだよ。この子は理沙にしようってね。ダメだった?」

沙耶「ううん…理樹くん達が付けてくれた名前ならきっとこの子も喜ぶと思うの。直枝 理沙…うん!良い名前!この子は「直枝 理沙」に決まりねッ!」

沙紀「理沙〜お姉ちゃんだよ!これからよろしくね! 理沙は私の妹! 可愛い可愛い世界で1人の私の妹 理沙ッ!」

理沙「うにゃあっぁ…あうっ…あうっ…ぶっっぶっっ」

僕にはこの子が…
(初めましてパパ、ママ、お姉ちゃん、これからよろしく)と言ったように聞こえた。

病室には温かな太陽の光が差し込んでいた理沙の誕生を祝福するかのように。


         続く…









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