音速のドラ猫18

 

とある日の朝…

チュンチュンチュン

外で鳴く雀の声で俺は目を覚ました。

玄武「ふわぁぁ…7時か」

由紀「あ、おはようパパ」

玄武「由紀、起きてたのか…」

由紀「うん!ママにパパを起こしてきなさいって言われたから〜」

玄武「そうか…さ、顔を洗って飯にするか」ヨッ

由紀「うん!」

俺は由紀を抱き抱えリビングへと降りた。

唯湖「おはよう。玄武くん」

玄武「おはよ〜 あれ?唯湖、仕事は?」

唯湖「今日は非番の日だよ。」

玄武「そうだったのか。お、和食や味噌汁のええ匂いがするなぁ」

由紀「ママの作るご飯ってどれも美味しいよね!パパ」

玄武「そうやな。俺はママの味噌汁が好きや」

由紀「由紀はママの作るカレーが好き!」

唯湖「はっはっはっ、2人とも褒めても何も出ないぞ?それに、玄武くんは早く支度しないと遅れるんじゃないのか?」

時計を見ると…午前7時35分…

玄武「やっべ ごちそーさん!行ってきますッ」

2人「行ってらっしゃい」

こうして俺の1日が始まった。

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みゆき「行ってきま〜す。」

佳奈多「いってらっしゃい。気をつけるのよ」

みゆき「うん!」パタン

みゆきを見送った後、私も仕事へ行くために支度をする。ふと、カレンダーに目を向けると
今日の日付に赤丸で印がされていた…
恐らく、みゆきが書いたのであろう印だ。

佳奈多「樹くんが帰ってくる日だったわね」

カレンダーを見ながらポツリとそんな事を呟いた…今日は彼が洋上訓練から戻ってくる日だ。

駐車場

ピッピッ

彼の愛車であるWRXの鍵を開け乗り込む。
ドアを開けるとホワイトムスクのほのかな甘い香りが漂ってきた。
 
クラッチを踏みエンジンをスタートさせる…

ヴォォォォォンッ

佳奈多「さ、出勤しよか〜」

いつの間にか彼の関西弁が憑ってしまったようだ。自分で言っておきながら少し恥ずかしい。

15分後…

〜北部防空司令所(北部SOC)〜

佳奈多「おはようございます。」

さゆり「おはようございます。熊岡さん」

あゆ「あ、おはよう佳奈多さん」

司令所の休憩室に入ると既に同僚の2人は来ていた。交代まで少し時間がある。

あゆ「ねぇねぇ、佳奈多さん」

佳奈多「どうしたの?」

あゆ「子供を育てるって大変?」

佳奈多「どうしたのよ藪から棒に」

あゆ「実はね、ボク妊娠したんだ!」

佳奈多「え、そうなの!?」

さゆり「驚きですね…」

ガチャ

女性「おはようございます。皆さんお揃いで
どうかされたのですか?」

1人の女性が入って来た。

あゆ「あ、おはよう!美魚さん」

美魚「ふわぁ…おはようございます。皆さん」

彼女は 西園 美魚 2等空尉
私たちと同じ迎撃管制官で数日前まで北海道の稚内にある稚内レーダーサイトで勤務していた
私たちと同級生であり高校からの付き合いだ。

佳奈多「もう交代の時間かしら?」

美魚「そうですね…」

私は時計を見た7時40分…交代の時間だった。
西園さんは前日の当直員で交代の為、休憩室に降りて来たのだった。

佳奈多「さて、行きましょう」

さゆり「そうですね」

あゆ「うん!」

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〜山形沖上空〜

山形県の沖にある訓練空域 通称Eエリア
今日、ここでは基本機動訓練が行われる。


朋也〔それじゃ、始めるぞ〕

玄武「了解ッ」

俺は岡崎1尉のウィングマンとして、彼の指示に従わなければならない。

朋也〔よし、aileron role now!〕
(エルロンロール、ナウッ)

玄武「now!」

エルロンロールとは文字通りエルロンを用いて
機体をロール(回転)させる飛行のことを指す
敵機に背後から機銃掃射された時に使うコンバット飛行(戦闘飛行)だ。

朋也〔ピクシー そのまま付いてこいッ〕

沙都子〔4.5Gですわ〕

玄武「了解ッ」

葉留佳〔うぐッ…なかなかデスね〕

数秒後…エルロンロールが終了、次のコンバット飛行に移った。

朋也〔次ッ、スプリットSやるぞッ〕

玄武「了解ッ」

朋也〔スプリットS now!〕

スプリットSとは、航空機のマニューバの一つである。180度ロール、ピッチアップによる180度ループを順次、あるいは連続的に行うことで、縦方向にUターンする空戦機動の事だ。

その時、ププププププププ 機体の耐圧警報が鳴りHUDを確認すると6.0Gと表示された。

数秒後には水平飛行に戻り…

玄武「スプリットS終わり…」

葉留佳〔これも…キツイですネ…〕

朋也〔よしよし、上手くなってるな。次、
 宙返り(ループ)やるぞッ〕

玄武「了解ッ」

朋也〔ループ now!〕

グォォォォォォォォッ

玄武「うぐッ…はぁはぁはぁ…」

今までとは比べ物にならないほどのGが全身を襲い呼吸が浅くなる。

葉留佳〔バックトゥバックよりキツイ…〕

沙都子〔同感ですわ…〕

機体は大きく一回転し元の水平飛行に戻った。

朋也〔最後の仕上げだ。ローリングシザーズ
をやるぞッ 離れるなよ!〕

玄武「了解ッ」

朋也〔ローリングシザーズ now!〕

最後は難題のローリングシザーズ(戦闘飛行)だ。ローリングシザーズとは2機の航空機が並行に飛行しながら急旋回による蛇行を行った結果、双方の飛行軌跡が交錯している状態で尚且つ2機が接触しないようにグルグルとロールしながら行うため難しい。
正直、これが1番キツい…
第11飛行隊(ブルーインパルス)でも滅多にやらないみたいだ…

グォォォォォォォォ

空と地上が交互に入れ替わる。
これをする時はバーティゴー(空間識失調)にならないか正直なところ不安である。

朋也〔よし、良いだろうッ 進路を北にとり三沢基地へ戻るぞ。〕

玄武「了解!」

沙都子〔了解ですわ!〕

葉留佳〔目、目が回る〜ッ〕

玄武「大丈夫かよ…葉留佳」

葉留佳〔ハルちんは、だ…大丈夫なのですヨ〕

3人(ダメだこりゃ…)


基地へ帰投する途中、俺は岡崎1尉に尋ねた。

玄武「そういえば、今日ですよね?理樹達が海上から戻ってくるの。」

朋也〔そういえば…今日だったな。〕

葉留佳〔風ちゃんに久しぶりに会えますネ〕

沙都子〔そうですわね〜♫〕

朋也〔アイツらの次は俺達が洋上に派遣されるかもな…〕

葉留佳〔ゔッ…ハルちん海の上だけは嫌なのですヨ〜 船酔いしますし…〕

沙都子〔できれば私も海の上は勘弁願いたいですわね…〕

玄武「おいおい、えらく弱気じゃねぇか
どうしたの?お前ら」

朋也〔ま、一度沖に出たらしばらくは戻れんからな。家庭がある人間にとっちゃ嫌なもんに変わりはないさ。玄武、お前だって家族が居るだろ?確か…〕

玄武「嫁と娘が居ます。」

朋也〔その家族と離れ離れになるのは嫌だろ?俺だって嫌だけど…〕

玄武「そうですね…」

朋也〔ま、暗い話は置いておいて。基地に戻ったら飯だ飯 腹減った〕

沙都子〔そうですわね〜〕

葉留佳〔今日もいっぱい食べますヨ〜〕

玄武「女食いたい…」ボソッ


こうして俺達は基地に向けて順調に飛行した。

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〜福島県沖〜

樹〔ふふっふふっふ〜ん♪〕

祐介〔えらくご機嫌ですね先輩 何かいいことでもあったんですか?〕

樹〔あり?なんで分かったん?〕

結弦〔鼻歌が無線で聞こえて来てますよw〕

理樹「無意識だったのかな…」

豊「かもしれないな…」

風子〔班長ッ!〕

樹〔ん?どったの?風ちゃん〕

風子〔何故 そんなにご機嫌なんですかッ?〕

樹〔さぁね〜〕

理樹「伊吹さん…恐らくだけど佳奈多さんに会えるのが楽しみで仕方ないんだよ。」

風子〔なるほどッ そうでしたか!〕

樹〔あ、理樹 てめぇバラすなや〜〕

理樹「ははは…当たってたんですか。」

樹〔半分正解の半分不正解やけどな〜〕

豊〔どういうことだ?〕

理樹「さ、さぁ…?」

祐介〔ま、すぐにわかるさ。〕

結弦〔ですね〕

高崎1尉と結弦先輩だけは何かを察しているようだった。

数分後…

佳奈多〔Altair03 this is Trello  Altair radar contact your under my Control
 stare for220 direct with "Single"〕
(アルタイル、こちらトレロ 貴機をレーダー探知
 貴機を誘導します。方位220の〔シングル〕に向かってください。)

✳︎ Single : 宮城県気仙沼市の上空を指す。

無線から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

樹〔来た〜ッ 俺の嫁、来た〜ッ〕

祐介〔テンション高すぎますってw〕

結弦〔やっぱり、そうなりますよねw〕

風子〔なるほど…〕

豊〔ははは…〕

理樹「そう言うことだったんですね…ははは」

テンションの高い班長を見て、僕たちもテンションが高くなる。

その時…

佳奈多〔切るわよ…?〕

樹〔ごめんちゃい⭐︎〕

佳奈多〔ま、良いけど…三沢まで気をつけてね〕

樹〔おう、ありがとう。佳奈多〕

無線を切ると言われて途端に真面目になる班長
吹き出しそうになったが堪えたw

1時間後…見慣れた三沢の街が見えてきた。



         続く…

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