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この存在を虚しさで消したくない。安藤秀樹『せいいっぱい』

安藤秀樹の「せいいっぱい」(1989年)。

私が大学時代の時に所属していた音楽サークルで、ギターの弾き語りで演奏した曲です。
たまたまカセットテープ(古い)に録音していたラジオ番組から流れてきたこの曲に心を鷲掴みされました。
何度も再生し必死でコードを耳コピしてさっそくサークル内のコンサートで披露しました。
演奏し始めると小声でざわざわしていたサークル仲間が徐々にこちらに真剣に耳を澄まして聞き入っている気配が演奏中の私にも感じられたのです。

安藤秀樹は当時、ナベプロ期待の大型新人で売り出した吉川晃司のヒット曲の作詞を手掛けていました。
「にくまれそうなNEWフェイス」や「RAIN-DANCEがきこえる」等数々のヒット曲を若き頃の吉川氏の尖ったイメージに合った歌詞で彩りました。

安藤氏自身も吉川氏ほどではないにせよ適度な(?)巻き舌と日本語にアクセントをつけたエモーショナルな歌いかたが特徴的。ちょっと斜に構えたような歌詞が十代後半の私にとって痛いほど刺さりまくりました。


「せいいっぱい」の1番の歌詞の出だしが

“やりきれぬ気持ちも悔しいけれど
みんなイカして見えるスタイルも顔も”

とこの曲に出てくる主人公は自分の容姿にコンプレックスを持っているのではないかと想像できます。

私が強く惹き付けられたのが2番の歌詞。


“生まれてきたことも選ばれたはずさ
不公平なままで転がりつづけ

だって心に詰め込むものは
自分次第だから
わかりきってる地図の上でも
いつも途方に暮れてしまう”


このまま文字を起こしてみると理解できるようなできないような笑
具体的なようで抽象的な歌詞。“だって”という接続詞が突然出てきたり文章がつながっていません。
結局何が言いたいの?と思ってしまいますが、安藤が例の少しくせのある歌唱で歌われると「うわあ。そうだなあ」と妙に納得してしまうのです。



この世の中、どうにも不公平な扱いをされ続けている気がするけどこの世に生まれてきた、ということは選ばれて生まれてきたはずだといえるんじゃないか。
心に詰め込むもの(経験による生き方、考え方、価値観etc.)は自分次第で決まるとわかってはいるけれども、日々過ごすうちに自分にとって何が大切なのか、いつも途方に暮れてしまう。


すごく深くないですか?笑
私はかなりエモい歌詞だと思っています。

1番の歌詞の最後は

“この存在を虚しさで消したくない”

2番は

“この存在を虚しさに変えたくない”

と訴えます。


若い頃のような脆く青臭い感情は今では薄れてきたけれど、大人になっても未だに「なんかおかしい」「なんか違うんだよな」というもやもやした感情はいつもつきまとっています。

そんな時この曲を口ずさむと甘酸っぱい感傷に浸れます。

youtubeやベストアルバムにはこの曲のstring versionが聴けますが、オリジナルバージョンの方がアップテンポで疾走感があり、かすかな焦燥感が感じられておすすめなのでもし機会があったらぜひ聴いてみてください。


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