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倒れた男に手を差し伸べる女

「今度オムライス作りに行っていい?」


突然の提案に戸惑う私。

目の前で無邪気に笑うこのひとは天使か。それとも悪魔か。いや くのいちだったか。


私の記憶が正しければーーー


いや、間違いなく半年前に別れたはずだ。

そこから研究室ラボの先輩と仲良く付き合っていたはず。

私の研究室は彼女の研究室があるフロアの一つ下で、幸い2人の仲良い姿を目にしたことは無かった。


実際のところ向こうから突然切り出された別れ話は寝耳に水ってやつだった。
こちらとしてはまだまだ彼女のことが好きだったから、偶然だとしても会えるのは嬉しかった。


その日たまたまお昼ご飯を食べそびれて食堂の売店に駆け込んだ時、ちょうどそこにそのひとはいたのだ。


「オムライス?」


「そう。この前美味しいオムライスのレシピを教えてもらったんやけど食べてくれるひとがいなくて」



ん?どういうことだ。彼氏は?


「あれ、新しい彼氏さんは?」


「それが喧嘩してるねん。もうあかんかも。



じゃあそうゆうことやから、今週末材料持って家お邪魔するね!」


とびっきりの笑顔。あの時の笑顔。
大好きだった笑顔。何一つ変わらないその笑顔を残して彼女は走り去っていった。


🟰🟰🟰


この半年。私は彼女の残像を消すべく必死だった。


余裕がない時は本性が出る。
というか、この数年で一生懸命レベル上げしたはずなのに、また私は身近な人に告白して振られる経験をしていた。しかも電話で(第一話ミッション②からやり直してこい)



だから彼女からの突然の誘いを断る意思の強さも、自分を納得させる理由も私には無かった。


🟰🟰🟰


迎えた金曜日。その日は1日落ち着かなかった。

実験もまるで上の空だ。


彼女が家に来る。しかも夜ご飯だってさ。明日は休みやし、彼女が住む 忍びの里甲賀まではかなり距離がある。ということは泊まるつもりなんかな。

確かにおれはフリーやけど、向こうはまだ別れてないんよね。詳しく聞いてないからわからんけど。でもご飯食べるだけやし。ね。それなら問題ないよね。


誰に対してか分からない言い訳をしながら1日過ごすうちに夕方になり、彼女は袋いっぱいの食材を持って我が家に現れた。


「いや、2人で卵 ダースはないって。」


「マッシュルームってどうやって調理するん?」


「エノキにシイタケってキノコ買いすぎやろー」


そんな他愛もない会話も全て己の浮ついた心を誤魔化すためだ。


週末の夜。一人暮らしの部屋に元カノと2人きり。





どうする?






どうするのさ?






結論から言うと、その時私は耐えた。

目の前のくのいちはあの手この手で術を繰り出し、実際私はヘロヘロだったけれど、
「振られた相手にすぐ手を出すなんて」というプライドのカケラがまだ残っていたようだ。


とは言え久しぶりに2人きりで会って、一緒にご飯を作り、近況報告をし合う。


また昔の空気が2人の間に流れていたのは間違いない。


軽く飲んで話に夢中になっていたら、とっくに終電の時間は過ぎていた。


「ごめん、今日は泊めてね」



いつも主導権は向こうにある。泊まって行ったら?とせめて言いたかった。
こういうところは昔から変わらない。



「泊まるのはいいけど、布団一つしかないで」




「いいよ」




何がいいねん。と思いながら、同じ布団に潜り込む2人。



最後の虚勢で相手に向けた背中で温もりを感じる。




もう寝たかな?





全く寝れないしこれはある意味地獄だな。





そんなことを思っているとふいに





ガタ!ガタガタガタ!!





地震だ!

咄嗟に私は彼女を守るべく覆い被さっていた。


冷静に考えて、一人暮らしのガランとした6畳部屋には上から落ちてくるものなどない。


それでも無意識に彼女を守ろうとしていた。


結構揺れが大きくブレーカーが落ちたようだ。
手探りで再び電気を付けると安堵した様子の彼女の姿が目に入る。






「ありがとう。変わらず優しいんやね。やっぱり私にはマイトンやね。」






その一言に残っていた私の最後の理性はキレイに打ち砕かれた。






🟰🟰🟰🟰


最後まで読んでいただきありがとうございます。
この話は続き物となっております。最初は続ける気なんて無かったんですけどね。

こちらが第一話。


これが第二話です。


この後2人はどうなるのでしょうか。
自分でドキドキしてきました。

また気が向いたら続きは書こうと思います。

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