自分でもできる!身体の小さな動きがもたらす、深い心の癒し(トラウマ・セラピー)

先日の動画に関連して、身体に働きかけるトラウマセラピーのひとつ、センサリーモーター・サイコセラピー(Sensorimotor Psychotherapy(SP))の創始者、パット・オグデン(Pat Ogden)によるセラピーのひとつの技法を解説した動画を紹介します。

いくつか大事なポイントが含まれていると思うし、またこれは、少し難しいかもしれないけれど、自分一人でもできることだと思うので、どのようなことに意識していけば、自分でも行えるか、ということを考えながら書いてみたいと思います。

動画の中では、くり返し「コンタクト・ステイトメント/contact statement」と述べられていて、この言葉は著書(『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』)では「コンタクトの言葉」と直訳されていますが、少し説明的に意訳すれば、「(身体の状態の)気づきを促す投げかけの言葉」というような意味になるかと思います。

<動画の概要>
・パット・オグデン(Pat Ogden)は、1970年代にロン・クルツ(ハコミセラピー創始者)からコンタクト・ステイトメントを学んだ。

・コンタクト・ステイトメントとは、クライアントが過去に体験したことを言葉にして伝えるだけでなく、セラピーで、現在クライアントが示している身体の状態について、クライアントに伝えること。

・ある男性クライアント(ビル)は、様々な喪失について語ったとき、彼の頭は前かがみになっていった。セラピストはその反応を観察して、クライアントに彼の身体の反応を伝えた。

・クライアントの身体の反応が何を意味しているか、ということは、クライアント本人に伝えない。なぜならその身体の反応の意味は、クライアント自身に見つけて欲しいから。

・クライアントが自分自身で気づけるように促すため、「~のように見えますが…」という言い方をすることもある。そのような投げかけをすることで、クライアント自身が、セラピストの言葉が正しいか、そうでないか、好奇心を持って自分で考えることができる。クライアントは、自分の身体の反応から、何かの言葉やイメージが浮かんでくるか、身体は何を伝えようとしているのか、考えることができる。

・セラピストは、クライアントのわずかな身体の動きを、ほんの少しだけ大げさにとらえる、それはほんの少しだけ。微かであればあるほど、重要な意味のあることに気づくことができる。

コンタクトの言葉(コンタクト・ステイトメント)
身体的経験は、セラピストが「何に気づきましたか?」というシンプルな質問をして、その体験にクライエントの注意を向けさせるまで、意識されないままになっているのです。問いかけの言葉としては、例えば「あなたの体は緊張しているようですね」または「それらについて話すとき、あなたの手はこぶしを握るようになりますね」とか、または「足が揺れ始めたみたいですね」などの例があります。

センサリーモーター・サイコセラピーでは、セラピストはクライエントの感覚運動の反応に特別に注意を払いトラッキングし、それらを言葉にして返していくのです。

もしセラピストがクライエントの話や感情のみではなく、身体的経験にもトラッキングしコンタクトするならば、クライエントは身体経験に大きな関心を向けるでしょうし、それに好奇心をもつようになるでしょう。

クライエントがトラッキング(自分の身体の感覚や反応に気づき、その感覚を確かめながら追いかけていくこと)するのに必要なスキルを獲得し、自分の身体・情動・認知的な体験に名前をつけられるようになると、内的統制感が強化されるのです。

セラピストは、クライエントの身体的経験について解釈することや意味づけを試みません。むしろ感覚運動的な構成要素をただ観察して、可能な限り単純で具体的な言葉で伝えます。

クライエントはセラピストの言葉に同意せず、もっとぴったりした言葉にするチャンスを常に与えられています。それゆえにコンタクトの言葉は、微妙に疑問形のようなニュアンスを帯び、クライエントによる修正を歓迎し引き出すようなトーンであるべきです。

セラピストのコンタクトの言葉をクライエントが受け入れるだけでなく、異議を唱えたり、修正したり、改良するなどしていけるように誘うことで、権限と内的統制感はセラピストではなく、クライエントにこそあるのだとはっきりさせることができます。

クライエントによるセラピストの言葉の調整は、クライエントにとって情動的なリスクであり、そのリスクをとることはセラピストから自身を分化させる機会を与えることになります。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p. 261-264、抜粋)

セラピーを受けて、セラピストにトラウマ的な体験を話したり、思い出しながら、身体の反応を見てもらうこともできるけれど、自分の身体の反応は、自分で注意深く観察していると、自分でも気づけるようになっていくと思います。自分ひとりでもできるフォーカシング療法と同じように(そのちょっと応用編みたいな感じで)自分が(トラウマ体験などの)つらい気持ちを感じたときに、身体にどんな反応が表れるか、何等かの動きが出てくるかなどを観察することは、自分自身に意識を向けていくことで気づけるようになります。

そして、その身体の反応が何を意味しているか、また体はどうしたいのか、ということも自分で振り返って考えることができます。これは本当に個人の感覚なので、セラピストが教えることもできないし、他人に言われて、そのまま当てはめることもできないので(そうしてはいけないので)セラピーでも、クライアント自身にそれを考えさせ、自分自身で気づけるように促されます。つまり結局は自分自身の気づきでなければならないということ、それはセラピーを受けなくても一人でもできることだと思います。自分の心に何がわいてくるか、どんな言葉がわいてくるか、どんなイメージがわいてくるか、そしてその言葉やイメージや自分にわいてきた感情から、どんなことに気づくのか、というのは、個人の心の中の世界のことだから。

クライエントがマインドフルネスによってこのような防衛傾向を探察し始めると、しばしば自発的な現象がおこります。すなわち、動きをともなう防衛反応が身体にあらわれ始めるのです。例えば、顎や腕や握りこぶしに力が入ります。あるいは言いたい、叫びたいという感じにともなった感覚が喉にあらわれます。
トラウマを思い出したときに身体が何をやりたがっているのかを、ゆっくりと丹念に観察する作業を通して、元のトラウマ時にはまだ芽のようなものであった新しい反応の可能性があらわれます。それらは、今ではより柔軟に現在に適応できる防衛反応に発展していく準備ができているものです。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p. 149)

センサリーモーター・サイコセラピーは、クライエントの身体にあらわれていて多くの行動システムと関わりのある、姿勢や動きやその抑圧を詳細に観察することに重きをおいています。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p. 152)

センサリーモーター・サイコセラピーでは、クライエントの記憶の感覚的断片の処理をテーマとして扱います。具体的には、クライエントがトラウマ記憶に関連した感覚を注意深く観察できるように援助します。その結果クライエントは感覚をもはや断片的でなくて、統合された全体として体験できるようになります。
例えば、断片化した感覚の体験は、特定の動きに対する衝動と関係していることがあります。特に自分ができなかった、あるいは、トラウマ体験の結果として完了することができなかった動きに関係していることがあります。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p. 213-214)

何か自分の身体にほんのわずかでも、身体の反応や動きがあったとき、そこにじっと注目してみる、そして、自分の身体のその動きは、何を欲しているのだろう、本当はどうしたいのだろう、と考えること。セラピーでは、それをクライエントが自分でできるよう仕向けていきます。セラピストや他人がやってくれることではない。だからこそ、これは自分ひとりでも取り組んでいけることです。

以前、私に起こった身体の反応についてセラピストと交わした会話を書きましたが、それも最終的には私が自分で納得し、腑に落ちて、理解してきたことです。それは、自分で自分を励ましながら生きていくときの手筈となっていくようなもの。だから慣れるまでは少し難しいかもしれないけれど、自分自身を癒し、励まし、力づけることになっていくはず。

ドメスティック・バイオレンスで虐待を受けた女性は、虐待的なパートナーを押しのけたかったかもしれません。しかし、その場からすぐ逃げることも、上手に身を守ることもできない状況の中で、ただうずくまり、身を守ることになったのでしょう。怒り狂ったパートナーが自分を窮地に追い込んだことを思い出したとき、彼女の体で何がおこるかをセラピストとクライエントは観察します。クライエントは相手を押しのけたいという衝動と関連した、特定の感覚断片を体験するかもしれません。例えば顎の緊張、または上腕のこわばり、あるいは拳をにぎることなどです。

センサリーモーター・サイコセラピーのセッションで、クライエントは動きをともなう防衛のような行動傾向を学ぶように励まされます。その結果、彼女は押しのける動きを完了することができて、自分を防衛し、保護できるという自信に裏打ちされた身体感覚を回復します。動きをともなう防衛行動を完了させると、さまざまな感覚断片が統合されます。例えば高揚感または達成感なども、感じられるようになります。また「私は、今、自分の身を守ることができる」という新しい信念のような認知的意味を構築することができ、威圧され支配された身体感覚に対処できるようになります。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p. 214)

いま学んでいるセラピー、私自身の癒しに大きく役立ったと感じた療法は、言葉とともに身体にも注目する方法です。セラピーに頼らなくても(その機会がなかったとしても)自分でできる具体的な方法を模索しながら、お伝えできたらと思います。私自身の癒されない心の側面を癒していくために、そしてどなたか同じように感じている方の役に立てたらといつも思っています。