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ブレインフォグのリハビリ戦略1/3クラッシュの頻度を下げる方法を慢性疲労症候群の麻酔科医が解説

研修医時代に感染症をきっかけに、慢性疲労症候群を発症した麻酔科医「みおしん」と申します。休職を余儀なくされ、3か月で10㎏の体重減少、半年間の寝たきり生活、1年半後に復職し、週4日勤務で7年かけてどうにか2019年に麻酔科専門医を取得しましたが、2023年10月より子宮内膜症とチョコレート嚢胞発症と慢性疲労症候群寛解に向けて再度療養しており、現在はYoutubeメンバーシップ向けの配信のみ運用しております。こちらの記事は、2023年東京保険医協会さんからのご依頼で医師向けに寄稿させていただいたものですが、2024年第10波で、また多くのコロナ後遺症患者さんとかかりつけの先生方が治療に悩まれることを鑑み、この度、編集長である片倉和彦先生のご厚意で無料公開させていただく運びとなりました。

「痛みと疲労」を客観的に評価することは確かに難しいですが、コツをつかめばどの診療科の医師、看護師、理学療法士、鍼灸師のみなさんも、患者さんをサポートできますし、ご家族やご友人もできることが沢山ありますので、是非最後までお読みいただけたら幸いです。

COVID-19感染症のパンデミック当初より、罹患後症状(以下、コロナ後遺症と記す)があることが懸念されていましたが、日本ではあまり注目されませんでした。しかし、世界中で患者さんが急増したことにより、大規模な研究報告も珍しくなくなりました。2023年1月13日にNature誌に掲載された、Long COVID: major findings, mechanisms and recommendationsという研究は全体像を把握するうえで重要です。

幸い、コロナ後遺症で生じる倦怠感/疲労感は、最初の数か月を無理なく安静にすることができれば、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(以外、ME/CFS)に移行せずに回復されていくことも少なくないようです。世界保健機関(WHO)はコロナ後遺症に対するリハビリテーションについて、現状のできる範囲内で、活動量を安全性に配慮しながら、適切なペースで行うこと、日常生活を徐々に再開すること、身体運動は症状の悪化や疲労を招くほど無理をするべきではないと、患者さんへ助言することを推奨しています。

効果的なリハビリテーションの介入には、活動時のペース配分(ペーシングおよび脈拍数のモニタリングが役立ちます。患者さん自身でセルフマネジメントができるように、活動レベルを一緒に評価する必要があります。呼吸リハは、ひとりひとりの状態に合わせて細かい指導が必要なため、理学療法士や鍼灸師との連携が大切です。 労作後の症状悪化(以下、クラッシュと記す)は、身体活動および運動によって引き起こされることが多いため、クラッシュを最小限に抑えつつ、活動できるように理学療法士らに依頼しましょう。 労作時の過度な息切れ・頻脈・胸の痛みなどが持続している人の身体活動や運動介入は慎重に検討されるべきです。 特に、労作後の症状の悪化が見られる場合は、段階的理学療法は行わないでください。 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に移行するリスクが高まります。

コロナ後遺症を患うのは、大人も子供も、病前は活動的で健康な方々がほとんどです。様々な組み合わせで発生する200種類以上の症状があり、これらは一時的に落ち着いたり、再発したり、予測可能な場合と予測不可能な場合があります。健康だったがゆえに、なかなか回復しないことに不安や焦り、憤りや、医療機関で嫌な思いを重ねたことから医療不信となり、様々な代替療法やサプリメントを試したり、自己流のリハビリで、安静にできずに症状を悪化させてしまうケースが少なくありません。患者の症状をよく聞き、まず心理的安全性を確保することを優先しましょう。また、通院すること自体で体力を消耗させてしまうため、オンライン診療との併用を積極的に活用していただくとよいかと思います。

【コロナ後遺症の疲労症状】

ブレインフォグ(記憶力と集中力の低下)
頭に霧がかかったように、思考ができなくなり、数字や文字の意味を理解できず、本を読めなくなり学業や仕事に悪影響を与えます。話す時に単語や文章の構築が遅くなるため、途中で突然会話が途切れたり、言い間違えが増えます。脳血流に依存している患者の場合は、顔色である程度把握することが出来ますが、髄液の圧が足りていない(脳脊髄液減少症とは別です)などの場合は客観的に把握することが難しいです。

極度の倦怠感 (安静にしても休まらない)
休息や睡眠によって解消できない極度の疲労を感じることで、コロナ後遺症の最も一般的な症状です。歯磨きや洗髪、座位の保持などでも疲れてしまうため、QOLが低下します。

クラッシュ/労作後の症状悪化 (PESE)
起き上がることが出来ない倦怠感や労作後の症状悪化は、身体活動後12~48時間後に悪化し、数日~数か月続くこともあります。多くの場合、活動量に見合わず、時差がある事も特徴です。直前まで活動出来ていても、突然どっと疲労感に襲われ、気絶したような睡眠に入ることから「クラッシュ」と表現されることもあります。コロナ後遺症を有する人の約75%が、6か月後もクラッシュを有しています。

脊柱起立筋が過収縮し、皮膚が余っている
(右側臥位でクラッシュ中)

クラッシュでおこる症状:
• ブレインフォグ • 発熱 • 睡眠障害
•痛み • 呼吸困難感 • 動悸

増悪因子
以前は簡単にできた身体活動や運動が、症状悪化の引き金となることがほとんどです。例えば、シャワー、入浴、歯磨きなどの日常生活動作や、 ウォーキング、読書、書き物、机上での作業、 五感を刺激する環境(例:大音量の音楽や太陽光、部屋の照明、携帯画面の光など) 、また、感情的になるような会話などが挙げられます。これは、外部刺激を増幅して脳で処理する一方で、脳にも情報処理能力の限界があるため、感覚過敏と感覚鈍麻が混在する不思議な体験となり自覚します。この現象を患者と治療者が理解することで、刺激を回避する意識が生まれるので、クラッシュの頻度を減らすことが期待できます。

体調管理ヘルスケアアプリ
「ストレススキャン」
携帯のバックカメラに2分間指をおき、指先をフラッシュで照らしその色の変化から心拍数の呼吸性変動を解析しています。心拍数が高く呼吸性変動が少なくなっていればストレス数値が高くなり、脈拍数が80以下で呼吸性変動があれば、数値は低くなる、患者さんやご家族でもわかりやすい指標となります。食後や体勢を変えた直後は心拍数が高くなるため、15分程度は安静にしたあとに測定するとよいでしょう。

「頭痛ーる」
自分の住んでいる市区町村を登録し、プッシュ通知を設定すると、気圧グラフをみながら、予定を変更したり心構えをしたり、服薬のタイミングを考えることができます。また、痛みの症状や服薬記録を継続的に記録することで、気圧変化と痛みの関係や傾向を把握することができます。

「ヘルスケア」
i phoneに内蔵されていて、睡眠や生理記録やアクティビティが自動的に記録できます。

「疲労度セルフチェック」とPS早見表
5分でできる疲労度セルフチェック | WiTH PAiN
24時間痛みと疲労の刺激を受け続けていると、自分の症状を過小評価してしまい、間違ったタイミングで家事や入浴、軽作業をしてしまう為、12問の問診で簡易的な疲労度セルフチェックを作成しました。

質問に応えると最後にこちらをPDFでダウンロードできます
あわてず、からだの声を聴きましょう


各症状に関して解説はじたばた犬メンバーシップからご覧いただけます。

第2弾では、失敗しずらくなる復職の段取りについて
第3弾では、セルフケアの実際について解説いたします。急ぎまとめたもので、のちほど加筆修正が入るかもしれませんが、ご容赦ください。

本日も大雪、気圧の変化でクラッシュやブレインフォグが起きやすい環境です。ぜひ、ご無理なく、内臓を温めるために温かい飲み物を積極的に飲んでください。色々不安になった時は、SNSよりを眺めて脳のエネルギーを消費するよりかは、好きなアニメや映画、音楽を流すこともオススメです。ご自愛しましょう。

もし、死にたくなってしまった時は、

比較すると、症状が強くなる理由

分からないひとに話すより、分かろうとする人を

いたみも、わくわくも、一緒に。
WiTH PAiN みおしん

発行協力 東京保険医協会

https://www.hokeni.org/

ターニングポイントになった映画 「いま、できること」
熊本県にある重度心身障害児の収容施設 芦原学園で起居する百数十名の児童と、マン・ツー・マンシステムで面倒を見ている職員との共同生活を一年に渡り追った
ドキュメンタリー映画

「診療研究」編集長 双葉会診療所 片倉和彦
信州大学医学部に1980年に入学。障害者問題研究会というサークルで、知的障害児施設での散歩、自閉症療育キャンプ、筋ジストロフィーキャンプなどを手伝う。 聴覚障害者の先輩をきっかけに松本手話サークルに通い、京都のいこいの村というろう重複者施設に行ったことがきっかけに精神科にすすみ、聴覚障害者精神保健研究集会に関わる。 阪神大震災をきっかけに、聴覚障害者の医療に関心を持つ医療関係者のネットワークや、ろう+知的障害の障害を持つ人たちの居場所作りをサポートするために東京奥多摩に引っ越し、1997年より、特別養護老人ホームの隣の社会福祉法人双葉会診療所院長として勤務。 知的障害者施設の嘱託医兼任。


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