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ロシアがウクライナ侵攻で勝てない理由

ロシアがウクライナに侵攻始めて約8ヶ月(2022/11現在)、当初数日で終わらせる予定だったロシアのウクライナ侵攻はズルズル伸びてまた雪の季節を迎えようとしています。
ミリタリー界隈は「何で侵攻した側が末期戦みたいな戦争してんだ?」とロシア兵に同情的になってたりする一方で熱心な親露派は「ロシアに不利な報道は西側のプロパガンダ」とまで言い切ってロシアの勝利を信じてます。

結論から申しますと、

Q:ロシアは勝てるの?

A:ロシアはかつての旧ソ連の様に消えてなくなります

随分無茶な結論の様に聞こえますが、実は前例がある上に前回の10倍早回しで事が進んでるのです。
ひとことで言うと「金が無くなります」

「前例」と書きましたが、その前例とは旧ソ連崩壊の事でして、更にその前には帝政ロシアの崩壊もあります。
双方共末期に覇権拡大の為に戦争吹っかけて消耗した挙句に破滅しています。
帝政ロシアの時は分かりませんが、今回のウクライナ紛争にまつわるゴタゴタは旧ソ連末期のそれによく似ているのです。

旧ソ連は1978年からアフガニスタンに侵攻し89年に撤収、91年に連邦が崩壊してバラバラになりました。
アフガン侵攻、当初は楽勝ムードだった様なのです。
既に親露アフガン政権が樹立してて部族単位で抵抗勢力は存在するものの近代的な装備は無くて排除は容易くほぼ一方的に虐殺出来る状況でした。
ウクライナでいうと既にキエフを堕として地方を制圧する段階に入ってる状況です。
そんな「もう手遅れ」という状況から米国がアフガンを支援し始めます。
事前の準備も訓練も何も出来ないのでほぼ武器を渡すだけ。
とはいえ、この時に世界初の「携帯型対空ミサイル」が渡され、アフガン民兵には成す術が無かった攻撃ヘリを撃墜出来る様になります。
その結果、アフガン人はソ連兵の約3倍の死者を出した挙句にソ連軍をアフガンから追い出す事に成功します。

戦争、特に遠征して侵攻するタイプの物はべらぼうにお金がかかります。
例えばベトナム戦争。
1950年代から60年代にかけて、米国は人類の歴史の中で最大の経済的繁栄を迎えます。
ロケットに人を乗せて月に降り立ったり、ベトナム戦争では第二次世界大戦で世界中で飛行機から落とされた爆弾の10倍の量を米国だけで落とす勢いでした。
しかし、結果は皆さんご存知の通り。
人類史上最高の繁栄を迎えてた国が、70年代に入るとGNP1位を日本に明け渡す没落っぷり。

ソ連はアフガン侵攻始めた頃にはむしろ経済的に下り坂でした。
ソ連も第二次大戦が終わって50年代頃には米国ほどじゃないにせよ、米国と宇宙開発競争でタメ張って一時的には先行するくらいには繁栄していましたし、カネがかかり過ぎるからと月への有人飛行を断念するくらいの堅実さがありました。
アフガン侵攻の際も首都制圧して親露政権樹立してる状態から撤収を決断出来ました(10年くらいかかりましたが)

当時はネットも無い上に『鉄のカーテン』と言われた情報統制の向こう側の話ですから当時のソ連がどんな状況だったのかは正確には分かりません。
しかし、景気がすこぶるよろしくない事は当時学生だった私の耳にも届くようになります。
特にコンピュータの開発においては西側と如実に差が開き、旧ソ連時代の電産機開発計画の達成率は11%を越えた事がなかったとか。
函館にミグが降りて来た時、真空管が使われてるなんて小馬鹿にされたもんです。

そんな経済状況の国が戦争始めて泥沼の消耗戦に引き摺り込まれる様は当時「ソ連のベトナム」なんて言われたもんです。
で、当時鉄のカーテンの向こう側の事を一般人が把握する事は困難でしたが、実は市場をチェックする事で西側世界に居ながらにしてある程度は可能でした。
当時、よく例として挙げられていたのが「金の価格」です。

こちらは70~80年代の金先物チャート。
ソ連のアフガン侵攻開始は79年末でしたので、それ以前から価格が上がり始めて開始直後に暴騰します。
「世界的な危機が起きると金の価格が上がる」というのは市場の常識なのですが、この時にはアフガン侵攻以前から価格が上がり始めてます。
つまりこれはインサイダー的な取引をしてる者がいて、ソ連がアフガン侵攻する事を知り得る者達が金の市場価格が7倍になる様な勢いで金の購入をしていた可能性が高いです。

その後、金の価格は上昇時と同じ様な勢いで下落、元の価格までは落ちなかったものの、ピーク時の1/3位まで落ちてしまいます。
ちなみに90年には湾岸戦争が起きてます。
こちらはペルシャ湾沿岸部という一大石油埋蔵地域で起きた戦争で世界への影響はアフガン侵攻の比ではない筈なのですが、金先物価格にはほとんど影響出ていません。

そしてこちらはこの1年ほどの間のチャートです。
ロシアがウクライナを囲む様に軍を配置したのが1月、プーチンが軍事作戦開始を宣言したのが2月24日で、金の先物価格は3月上旬にピークを迎えた後下落します。
戦争が始まる前に金を買い込み、戦争が始まったらその買い込んだ金を吐き出す様に放出してる奴らがいるんです。

…どう考えてもロシア(ソ連)ですよね?

アフガン侵攻の頃、ソ連は溜め込んでた金を全て吐き出して破綻した、とテレビで聞いてました。
実際、91年末にソ連が解体する前後では、ソ連(ロシア)の経済状況は今の北朝鮮と大差ありませんでした。
85年に2度目の底打ちをしているのですが、この時までにソ連は手持ちの金を全部吐き出していたのだと思われます。

これがこの1年だと金価格がピーク迎えて下落した後に2度目の底を打つのは10月。
大体7ヶ月、アフガンの時と比べると10倍まで行かなくとも7倍くらいの早さで使い切ってます。
ソ連時代に比べるとロシアは国家の規模が小さくなってますし、アフガンに比べるとウクライナの戦場は広く、敵は機械化・自動化・情報化されていて最新装備の逐次投入が必要です。
お金が数倍のペースで出て行くのも理解出来ます。

また、ソ連時代と違うのは、ウクライナ侵攻前のロシアは西側経済圏に組み込まれていて、現在非常に強い経済制裁を受けているという事。
ソ連の頃は「鉄のカーテン」は情報だけでなく人や物の行き来もほとんどありませんでした。
ソ連はアフガン侵攻前から西側世界と断絶されてて、必要な物は自分達で都合していました。

ところがソ連崩壊後は西側の品質の高い製品が手に入る様になります。
西側企業も直接ロシアで営業する様になり、西側製品が手に入る事前提で社会が回る様になります。
それが経済制裁で突然止まる訳です。

この写真は数年前に出回った物で、ロシアの戦闘機が米国メーカーの民間向けGPSをコクピットにくくり付けて使用している画像です。
当時は何でこんな事をしているのか誰も分からなかったのですが、ウクライナ紛争でロシアの情報が出て来る際にその理由が解明されました。

ロシアには「GLONASS」という米国のGPSの様な衛星測位システムがあるのですが、2014年から米国から受けている経済制裁のせいで台湾製の高性能半導体が入手出来なくなり、打ち上げる衛星が作れなくなりました。
衛星測位システムの衛星には寿命があり、積んでいる燃料が無くなると正しい位置の保持が出来なくなり正確な位置情報が示せなくなるのでその都度新しい衛星を打ち上げて更新する必要があります。
これが2014年以降出来なくなって稼働していた衛星が続々と寿命を迎え、GLONASSでは正確な位置情報が得られなくなっているそうなのです。
軍用衛星測位システムは爆弾やミサイルを誘導する際に目標の位置情報を入力してそこに当たる様にするのですが、民間向けGPSであるガーミンにはそんな機能はありません(笑)
ロシア軍のテイタラクの理由のひとつでもあります。

この様な事がロシア社会全体で起こります。
車は壊れたら部品を換える必要がありますが、その部品が入手出来なければ直す事も出来ません。
「ロシアは地下資源と食糧が自給出来るので経済制裁は意味がない」という説を提唱していた方がいましたが、とんでもない。
石油と食い物があったら生きて行けるという訳ではありません。
それらを消費者の元まで輸送する手段が必要になります。
ロシアは国土が広いですから、輸送手段は重要です。
ロシアは主に鉄道を輸送手段にしているのですが、こちらが既に部品不足になってるそうで、整備出来なきゃ走らせられないと思いきや未整備のまま走らせているらしく、事故が多発している様なのです。

勿論無ければ作ればいいんですし元々はそれらの部品を自国内で作ってた筈なのですが、優秀な西側製の製品に取って代わられてしまっているのでそれらを製造していた工場自体がどうかするともうありません。
工場を作るとこからスタートです。
勿論、工場で使う産業設備も西側にガッツリ依存していました。
まず、国内で放置されてる産業設備をかき集めてレストアする所からでしょうか。

こんな調子なので「ロシアは北朝鮮みたいになる」と予想している人達もいます。
しかし、その推測は甘いと私は考えてます。
北朝鮮は、中国とロシアからの支援があってギリギリ国家の体を保ってる国です。
ロシアを支えられる国なんて旧東側には中国くらいしかありませんし、その中国も今はコロナのロックダウンやり過ぎでセルフ経済制裁の真っ最中です。
「ロシアは北朝鮮以下になる」がおそらく正しいですし、ソ連崩壊時に一度そうなってます。
 今回もそうなるでしょう。

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