カクテルのすすめ
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カクテルのすすめ

深沢 幸治郎

(この文章は酒🍶 Advent Calendar 2015への参加記事です)

酒の席で「お酒はなにが好きですか」と問われれば「なんでも好きだし楽しく飲めます」と答えるが、じつは一等好きなのはカクテルである。こう答えたら最後、つい得意話が長くなりお酒の杯数も進みに進んであとに残るは後悔のみという結果になるため、予防線を張って「なんでも好き」と答えておくのである。

今日は「カクテルが好きだ」という話なのでついつい長話になってしまいそうなのだが、今回はいつもの長話のショートバージョンでいくことにする。それでも長くなりそうではあるけれども…。

カクテルの魅力は様々だが、今日はひとつのトピックだけ。「口に入る前から楽しめる」というところをお話したいと思う。

カクテルとはいっても居酒屋や大きなダイニングバーの厨房で作られてテーブルに運ばれてくるようなものではいけない。控えめな大きさのお店で、それもできればカウンターに腰掛けて、調製過程がよく見える状況で楽しみたい。

カクテルの「調製」はとても単純。原則としてはアルコール飲料をベースに、他のアルコール飲料・ノンアルコール飲料・その他の副材料などを混ぜあわせるだけ。そしてその仲立ちをするのは氷・そしてそれが溶けて混じる水である(ホットカクテルなど一部のものは除く)。つまりカクテルは数種の飲料や調味料が混合されると同時に冷却され、さらに加水されてできる飲料だと言える。

ミキシング(混合)の仕方にはいくつかの方法がある。

ひとつはビルド。直接グラスに材料を注ぎ、バースプーンで氷とともにミキシングことで調整する。

つづいてはステア。これはミキシンググラスというおおぶりなグラスに材料を注ぎ、氷とともにミキシングしてからグラスに注ぐ。

そしてシェイク。シェイカーに氷と材料を入れ、よく振って(シェイクして)グラスに注ぐ。

他にもブレンダー(いわゆるミキサー)を用いて材料をミキシングするブレンドなどの技法がある。

ビルドもステアもシェイクも、氷とともに材料をミックスするという意味では同じ行為であるが、カクテルにおいて、ビルドで作ったものとステアで作ったもの、シェイクで作ったものは区別されるのが通常である。たとえばよく知られている「ジン・ライム」というカクテル、これはジンと甘み入りライムジュースをロックグラスの中でビルドして作るが、同じ材料をシェイクしてカクテル・グラスに注いで出すと「ギムレット」と呼ばれる別のスタンダード・カクテルになる。

実際にその味は異なって感じられることが多い。それどころか、作るバーテンダーによって同じレシピ・同じ技法であるはずなのに味が全然違って感じることも珍しくない。なぜ同じ「混合・冷却・加水」を行っているのに、技法によって出来上がりが変わるのか。

バーテンダーに聞くと、きっと面白い答えが帰ってくると思う。

たとえば「うちは丸氷を使っているから氷の表面積が少なく、氷の溶け出しが少ないんです」だとか「材料と氷を入れる順番が他とは違う」とか「シェイクするときに細かい気泡がまんべんなく入るように混ぜているからアルコールの角がとれて舌に刺激が少ない」など中にはちょっとオカルトめいたこだわりも。

これが科学的に正しいかどうかはあまり問題ではなくて、そのこだわりの蓄積がカクテルを作るときのバーテンダーの動きに表れてくる、それが面白いのである。

ミキシングの手順や技法にこれほどこだわるのは日本だけ、という話がある。カクテルの本場であるアメリカではどちらかと言えば効率化の方に関心が行き、混ぜ方にこだわるところは少ない、と(あるいはフレアと呼ばれる、曲芸的なカクテルミキシングなど、エンターテインメントの方向性にいく)。

日本のバーテンダーたちは、海外から輸入されたカクテル調製というスキルに日本人独特の感性・味ともてなしへのこだわりを加えていわば「カクテル道」ともいうべき独自の文化を創りだしたと言える。

バーテンダーにはそれぞれのもてなしやカクテル調製へのこだわりがある。これを目で楽しみながら手元にカクテルが供されるのをワクワクと待つ。そのとき私たちはすでに口をつけずして、カクテルを楽しんでいるのである。気になる点や不思議な点、興味深い点があればバーテンダーに聞いてみるといい。手元のグラスの中にたゆたう一杯のカクテルを、より楽しむことができると思う。

とはいえ、カクテル調製のどんな点を楽しんでいいのかわからない、という方も多いだろう。

手っ取り早いのはお気に入りのカクテル(オリジナルカクテルでなく、スタンダードなものが望ましい)を見つけ、それをいろいろな店で頼んでみることだ。同じレシピで作られているはずのカクテルが、まるで違う味のように感じることが分かってくればしめたものである。

興味がわいてきたら「バーテンダーズ・マニュアル」のような本を読んでカクテル調製の基本を勉強しても面白い。基本を知れば、お店の遊びやこだわりが見えてくる。

最後に。あなたがもし、これを読んではじめてのカクテルを楽しみに行きたいと思ったなら、最初はできるだけシャンとしたお店を選ぶといい。人数はひとりでかまわない。音はごく控えめで、泥酔した様子の客はおらず、バーテンダーはキチンとしたシャツを着て、馴れ馴れしく話しかけてこないような店がいい。少し高くはなるが、カクテルの調製や楽しみ方について聞いてみるときっと丁寧に教えてくれると思う。

あなたがお酒が好きならば、きっとカクテルは新しいお酒の楽しみ・地平を示してくれる。

よいバーライフを。いつかどこかのバーで会いましょう。

(Photo credit: quickcapture via Visual hunt / CC BY-ND)

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深沢 幸治郎
大阪市在住のウェブ制作者。水交デザインオフィスという小さな事務所と小さな息子を妻と二人で育てつつ、大阪十三のコワーキングスペース・JUSO Coworkingを運営。趣味でハウスDJしたりもしてます。