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「1つだけ選ぶドーナツが被る」みたいな結婚生活

「行きたいお店ある?」

誰かとごはんを食べに行くときにそう聞かれて、できれば相手が行きたそうなお店のヒントをもらってから答えたいなあ……と思ってしまう私。

自分が無邪気に行きたい!と言った場所が、相手にとってはイマイチだったらどうしよう?とかあれこれ考えちゃうから。ぐるぐる悩むモードに入る前にラクしたいなあ、と。

自分が多少我慢したり、相手に合わせたりしてうまくいくならそうしたい。どちらかというとそんな性格なんだと自覚して、生きてきました。


でも、結婚して夫からは「主張が強くて頑固」なことを指摘されたりするし、自分でも自覚はあったりして。

私から言わせるとこれはお互いさまで。お互いに言いたいことを言って満足して、実は互いに聞いてなかった!なんてこともよくありますし。自分の話をすることを譲らない2人、なんです。

日々の食事も好みが全く違うから、スーパーに行っては別々のものをカゴにいれ、お互いに自分が好きなものを作って、好きなときに食べる。

もちろん作ったものを分け合うときもあるし、外食に行くときは意見を出し合って決めるけれど。お互いに「相手は主張がある人なんだ」と理解し合ってる前提で成り立ってる夫婦生活なのかなあ、と。


先日、久しぶりに2人でミスドに行ったとき。すっかりアメトーークの「ミスタードーナツ芸人」の影響を受けた私たちは、あれこれ選びたい!と、お互い3つずつ好きなものを選びました。

夫はポン・デ・エンゼル、ポン・デ・ストロベリー、カスタードクリーム。

私はハニーディップ、ポン・デ・リング、カスタードクリーム。

夫はとにかくポン・デ・リング党なのですが、少しアレンジの効いたものが好きなのかもしれません。スタバでは季節のフラペチーノを頼みがちだし、かわいらしいストロベリー系のスイーツが好きなのも、彼の特徴。

私はオーソドックスなドーナツが割と好きで。ハニーディップは特にはずせないのですが、今回選んだ3つを想像してみてください。見事に色がなくて、地味ですね……映えるはずのストロベリー系にも、そこまで興味がなかったり。

この中で唯一、たまたま被ったのが「カスタードクリーム」。夫が強火のカスタードクリーム派で、「ホイップには興味ない!カスタードなんだ!」といつも激しめに主張しています。

私はそこまで意識してなかったけれど、夫といるうちに、自分もカスタード派なんだと気づきました。ミスドでの「カスタードクリーム」も、結婚前は選ぶ機会がそこまで多くなかったのですが。夫によって自分の潜在的なカスタード好きの気持ちが掘り起こされ、選ぶようになったのかもしれません。

3つのうち、2つはもともと自分が好きなもの。1つは相手の影響を少しだけ受けたもの。

そんなチョイスだったんだなあ、と。


20代の頃の自分だったら、相手が映えるポン・デ・リングが好きならそれを頼み、ストロベリー系が好きなら「それいいねー!」と合わせてたかもしれない。ミスドは一例ですが、相手に合わせがちな恋の思い出はいくつかあって。

クラシック音楽が好きな相手に誘われて、オーケストラのコンサートに行っていた頃。自分もオーケストラでバイオリンをずっと弾いていたけれど、普段聴くなら完全にJPOP派。

自らオーケストラを聴きに行くことはあまりないし、行ったとしてもその良し悪しについては正直よくわからない。だからコンサートを見終えて、相手と感想を語り合わないといけない時間になるといつも憂鬱でした。

それでも相手がとても好きだったし、そんな風に新たな世界を見せてくれる相手に感謝しようと思ったし、いつもにこにこと満足げな顔をしてたと思います。


漫画が好きな相手からは、彼が好きな漫画を借りてはよく読んでいました。普段漫画をほとんど読まない私には新鮮だったし、借りた漫画はどれも楽しめました。

漫画が原作の映画も一緒に見に行って、確かにおもしろかったけれど……自分が漫画や映画 
は「ラブコメ派」なことは一切言わず。「相手が好きなものが好きなフリ」をどこかでしてたような気もします。


日本酒が好きな相手からは、いつも飲みに誘われては日本酒を次々に頼まれて、注がれて。そのペースの早さに驚きつつ。

どれもおいしかったけれど、本当はビール派の私。日本酒はすぐ酔っちゃうけれど、ビールなら長めに楽しめるのになあ……なんて思ったりしつつ。

特にそんな主張をすることもなかったから、彼には日本酒が好きで「いける口」だと思われてたと思います。なんなら、自分でも自分にそう思い込ませてたのではと。なんでも飲めるキャラは、恋愛においては強みになるはず!とよくわからない理屈で自分に暗示をかけていました。


こうやって言葉にすると過去の人たちに対していかにストレスを感じていたか……のように見えてしまい申し訳ないのですが。

少し違って、どの自分も当時は無理をしてるつもりなんてなかったし、好きな人の世界に触れられるのはシンプルに嬉しかったんです。

でも、相手の「好き」を否定しない前提で、実は自分は違うものが好きなんだ……と一言言えてたら。関係性はもう少し変わってたのかも?と。

向こうから告白してきたのに、なぜか付き合ったあとは向こうが振ってくる。そんなことが多かったのは、いつのまにか「付き合う前に主張してたことたち」を我慢するようになって、つまらない女になってたからなのかもしれません。

自分ではそんなつもり、なかったのに。


35歳になった今。「アレンジされたのもいいけど、シンプルなドーナツもよくない?」「私は限定フラペチーノじゃなくていつものホワイトモカでいいや」「ストロベリーもいいよね。でも私は抹茶かな」と、素直に言える自信があります。

相手の「好き」を否定するつもりはない。ただシンプルに、私には私の好きなものがあるんだよ、と伝えてるだけ。それを伝えたところで、引かれるとも嫌われるとも思ってないし、それでも一緒にいてくれる人だと確信してるから。

その中でたまたま「カスタードクリーム」が被るみたいなことがあるから、夫との関係はおもしろい。

生きてきた人生も、性格も、好みも全く違うけど。たまに一致するところもあって、共感しあえたり。相手からなんとなく影響を受けて、自分の好みも変わっていったり。

そんな日々の微妙な調整が、長く続くはずの結婚生活を作っていくのだろうなと思います。


例え選ぶドーナツが相手と全部違う日が来たって、昔みたいに怖がらないし、そんなことで簡単に終わるような結婚生活じゃない!と今なら自信を持って言えます。

そしてそれはきっと、相手に主張しきれなかった昔の自分を経て、やっとそうなれたのだろうとも思うので。20代の頃の思い出には感謝をしつつ。

これからも小さな違いの発見と共感を積み重ねて、長い長い道のりを歩んでいこう。

今日の昼食は近所のファミレスに行きたい気分って、言ってみようかな。夫からどんな反応がくるかはわからないけど。

きっと私たちは一つの答えを導き出して、同じ店に向かうと思うから。

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