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結んで切れて絡まり繋がる | COMPLICATE

誠実な友として、相携えて、共に耐え抜いてきた苦労に勝る強い絆はない。
(カール・ヒルティ)

こんばんは。wisteriaです。

前々回 (CROSS) と前回 (CONNECT) の続編です。
前後関係、人物相関が分からない場合、ぜひ、読んでみてください。

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AちゃんとCくんと食事を共にした数週間後。2年前の初秋。
3人のグループに、1件のLINEが入る。

Aちゃん「ちょっと話したいことがあるんだけど、今日、時間ある?」

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夕方、研究室から離れたオープンスペースへ向かう。
誰もいないことを確認し、適当に座って待つ。
神妙な面持ちのAちゃんが来る。同時に、Cくんも来る。
テーブルを三角形で囲むように座る。

そして、切り出しにくそうに、Aちゃんが口を開く。

Aちゃん「Eちゃんのことなんだけど...ちょっと困っていて。」

この言葉を聞くやいなや、私とCくんの顔が曇る。
そして、私は、Eちゃんに係る色々な案件が頭の中でかけ巡った。

というのも、Eちゃんは、人と違う感性を少しもっていて、研究室内でも、かなり浮いていた。
人の言葉、特に、厳しい言葉や叱責に対して、怯えているのか、あまり理解できない様子だった。彼女がミスをした時に、ある先輩が注意した途端、逃げ帰ったりするような感じだった。
何らかの困難を抱えていたのかもしれないが、真実は定かではない。

そんなEちゃんは、研究室内で唯一と言って良い程、Aちゃんと仲が良かった。
Aちゃんは、話しにくそうに、こう続けた。

Aちゃん「Eちゃんが、Wさんについて、学生課に訴えるって言ってて...
     それに、研究室に行きたくない・学校も辞めたいとか言ってて...
                どうしよう...かなりマズいよね...」


Wさんは、研究補助員で、年齢も上の方。だが、その人が発する言葉は、私でも「少し言い過ぎじゃないかな?」と首をかしげるくらい、厳しい時もあった。
そのWさんとEちゃんは、研究・実験上で、度々衝突した。
衝突といっても、客観的に見ると、一方的な叱責(と言われてもおかしくな感じ)だった。

ただ、私からしてみると、衝突はいつ起こっても仕方ない状況にはあった。
なぜなら、お互いがお互いを理解しようとせず、自分は悪くないと思う心をお互い持っていたから。

いずれにしても、Eちゃんは、日に日に、Wさんを避け、研究室での滞在時間も極端に短かった。

私も、色々と情報が回ってくるので、気にはしていたが、Aちゃんの言葉を聞いて、かなりマズい状況にあることは、揺るがない真実だと確信した。
さらに、Aちゃんは、途切れ途切れ続けた。

Aちゃん「Eちゃんが学生課に訴えるってこと、私の中で処理できなくて...
                なんていうか......
                知っているのに周りに黙ったままだと、
                研究室がどうにかなってしまうんじゃないかな、と思うし、
                だけど、1人の友達として、Eちゃんは私を信頼して、
                告白してくれたのに、そのことを話してしまうのは、
                彼女を裏切ってしまう.....
               どうしたら良いのか分からなくて、1人で悶々としていて...
               
    でも最近、Eちゃんと一緒にご飯を食べていても、
               研究や研究室のことを話せないから、話すことがなくて、
               Eちゃんの彼氏の話ばかりで、それをずっと聞くのもしんどくて。

    もう何もかもしんどくて....
               帰り道に涙が止まらなくて....
               好きな音楽を大音量に流して帰っても止まらなくて...」


Aちゃんの優しさからくる葛藤。
研究室と友人を天秤にかけられない。
何が正しいのか分からないまま、私とC君を信頼して、ほんのわずかに残された勇気を出して言ってくれた言葉の1つ1つを聞いた私は、申し訳なさ・悔しさ・やるせなさ・哀しみが混在した気持ちでいっぱいになった。

その後、すぐに、理性の鎖と錠を破壊する怒りが出てきたが、瞬時に、理性が。新たな鎖と錠を閉めなおす。
事の重大さと根幹の問題を見つめ直す。

そして、私は、目下の急務として、Aちゃんの苦しみや葛藤を少しでも和らげることに全力を注ごうと思った。
なので、私は、Aちゃんにこう言った。

私「言いにくいこと、言ってくれてありがとう。
  辛かったよね。ごめんね、気づかずに。背負わせてしまって。
  1つ提案があるんだけど...」

私は、学部生の時に、聴覚障がいなど様々な困難を抱える学生を支援する組織に所属していたこともあり、学生課に少しは顔が利く立場だった。

だから、私の提案としては、私が学生課に相談するということだった。

その時は、それしか思いつかなった。今でも、この判断が正しかったかどうか分からない。だけど、このままだと、失うものが多すぎる、直感的にそう感じた。そのため、この結論だった。

Aちゃんは、私の提案に対して、

Aちゃん「大丈夫なの、そんなことしても。なんか、ごめん...」

と、自分の状況も省みずに、私の心配をしてくれた。

Cくんは黙ったままだったが、終始心配そうな眼差しを向けていた。

私は、

私「大丈夫。心配しないで。何かしら考えて、やってみるよ。
       そんなことより、Aちゃん、自分を責めないで。
  そして、どんな些細なことでもいいから、
        何かあったら、いつでも言って。絶対に抱え込まないで。」

と伝えた。

Aちゃんは、まだ、不安が残る顔で、私を見つめたまま、

Aちゃん「うん、わかった...ありがとう...」

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話し終えた後、抑えきれない怒りとやるせなさが飛び出してきた。

どれだけ辛かったことだろう。どれだけしんどかったことだろう。
想像を絶するものだろう。

Aちゃんに、これだけのことを背負わせた者は誰だ。
この研究室が生み出し、蓄積された長年の闇が、このような犠牲者を生み出している。
この研究室はどうかしてる。
そして、私たちも、そこに存在することで、麻痺している。
根幹の問題はなんだ。
どうすればいい。どうしたら、光が見えるのか。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。


その日、そのことが頭を離れず、苦しくて、
駅の自販機で、普段買わないMATCHを買って、一気に飲み干した。
何かで、どうにかして、気分を変えたくて。


だけど、その苦しみは、消えない。週末、人知れず泣いた。



不器用な結び目がついた3本の糸が複雑に絡まった。


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