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正しく知ること、考えること

 「今度、書店で見かけたら買いたいな」と思っていた本を、あまりに我慢できずkindleで買った。

 そして、約半日で読みきった。感想を二つにまとめると、「ステロイドは正しく使えば怖くない」ということと、「民間療法についても正しく知れば怖くない」ということだった。以下にそれぞれ、詳しく述べていく。


ステロイド 正しく使えば 怖くない

 川柳のような見出しになってしまったが、ずっとエビデンスを調べることもせず、やみくもに「ステロイドは怖い」と思い続けていた私にとって、この情報は衝撃的だった。

 この本には、ステロイドの効果的な使い方だけでなく、副作用についてもきちんと書いてある。だが、副作用を知った上で、定められた使い方に従い、ステロイドを塗っていくのであれば、この先もしまた使う機会があったとしても、不安になることはないんじゃないかと思った。

 私はアトピーではないが、今まで何軒かの皮膚科医院のお世話になっている。
 今から25年くらい前、人生初めて伺った皮膚科クリニックの医師は、反ステロイド論者だった。といっても高圧的でも機械的でもないフレンドリーなお医者さんだったのだが。
 洗顔料か何かで当たったのか、片目の瞼が腫れてしまい、目を開けているのが辛いという状況で訪れたのだが、その先生はステロイド自体を知らなかった私に向かって「ステロイドは怖い」と言い続け、ステロイドの入っていない軟膏を処方してくださった。
 私はなんとなく「ステロイドってなんか怖い薬なんだなー」と思った。当時はインターネットが普及したばかりで、携帯電話はもちろんガラケーの時代。ステロイドが何者なのか調べようとも思わず、「あの先生が怖いっていうんだから怖いんだろうな」と何となく思っていた。
 だが、瞼の腫れは薬を塗り続けてもなかなか治らず、その先生は困り果てた挙句「正しく使えば怖くないから」と言って、ステロイド入りの軟膏を処方してくださった。でも怖くてなかなか使う気になれなかった(少しは使ったような気がするけど)。もちろんそんな状態で瞼の腫れは治まらず、再度その先生のもとを訪れると「もう最後は”何もしない”で様子を見るしかない」と言われ、ついに薬の処方もなくなってしまった。
 それでかなり時間はかかったけど、瞼の腫れは治まった。ただその後、一時は瞼だけでなく両目の周りの皮膚全体が腫れたりただれたりしていたので、目の周りの皮膚が黒くなった(皮膚が黒くなる理由についてもこの本に書いてある)。特に目の下の皮膚が黒ずんでいると、いわゆる「クマ」みたいな見た目になってしまい、だいぶこのコンプレックスで苦しんだ(「いつも寝不足なの?」等とからかわれたり、接客のアルバイトを干される一因にもなったりした)。気が付けばこの黒ずみはなくなっていたけれど、それでも数年は苦しんでいた。
 今振り返ると、あの先生は「目の周りにステロイドを塗ることは他の部分よりも注意が必要」という意味で「ステロイドは怖い」と私に言い続けたのかもしれない。それならちゃんと「正しく使えば効果的」ってことを言ってくれよーとは思うけど。
 あの先生は今までお世話になった皮膚科の先生の中で一番話しやすかったけど(まず、きちんと話を聞いてくれたし)、「医者って話し方ひとつで患者に安心感を与えることも、逆に不安をあおることもできるんだな」と思う。私が引っ越すことがなければ、ずっとその先生のもとに通い続けていたとは思うけど、その先生にまたお会いできることがあれば、この本を薦めてみたい。というか、読んでてほしいな。

民間療法との付き合い方を考える

 この本を読みたいと思ったきっかけは、上記などの肌トラブルで苦しんできたからだけではない。

 私は数年前、医療不信に陥った。詳しくは言わないが立て続けに別々の医者から理不尽な目に遭った。そして私はうかつにも、「スピリチュアルな力がある」と自称するカウンセラーに縋ってしまった。
 気が付けばそのカウンセラーの意のままに動いてしまい、科学的エビデンスが確立されていない民間療法に手を出したり、その女性も実践しているという食事療法に取り組んだりしていた。
 そのうち、周りからどんどん人が離れていき、お金もどんどん減るのに自分の体調が良くなっている感覚はどうにも得られず、あるとき「もうやめたい」とカウンセラーに漏らしたところ罵倒され、やっと「この人からは離れるべきだ」と気づき、縁を切った。

 この話を人にするたび、笑われたり呆れられたりしてきた。だが、当時の私は必死だった。「溺れる者は藁をもつかむ」というけれど、このことわざを私は笑えない。

 アトピーに苦しむ方々や、その周りの方々(特にアトピーのお子さんをお持ちの親御さん)の中にも、当時の私と同じように、どこの医師のもとを訪れても理不尽な扱いを受け、ボロボロになった挙句の果て、民間療法に魅力を感じてしまう人はいるのだろう。確かに、中には部分的に効果がある民間療法もあるかもしれない。だが、当時の私のようにやみくもに信じてしまう前に、この本の第3章「民間療法をエビデンスで検証する」を読んでほしいと思った。
 ちなみに、この本では「子どもに極端な除去食をさせて成長障害をきたしたケースを学会発表や論文で目にすることが多い」ということが書いてあるが、私も上記のカウンセラーの勧めた食事療法を半年近く実践していたら、生理が止まった(元通りの食事に戻して約3か月後から再び来るようになった)。

正しく知ること、考えること

 この本の巻末には、膨大な「参考文献・参考Webサイト」が載っている。その中でも大部分を占めるのが「本書の参考研究論文」なのだが、計106本の論文の中には直近の数年に書かれたものも多く(2019年付の論文もある!)、「最新医学で一番正しい アトピーの治し方」というタイトルの後押しとなっている。

 著者の大塚篤司先生は、おそらく資料を集めるだけでもさぞかし骨の折れるような作業をなさったに違いない。だが想像しただけで気が遠くなるような量のエビデンスを集め、それらとご自身の経験を論拠に一冊の本にまとめ上げていらっしゃるからこそ、この本の説得力は絶大だし、読む前は「強気すぎない?」と思ってしまった表紙の一つ一つのフレーズにも納得してしまう。

 この本を読んで「正しく知ることの重要性」について痛感させられたのだが、そういえば別の本でも似たようなことを学んだ。

 一見、これら二冊の本には何にも繋がりがないように見えるだろう。同じダイヤモンド社から出版されてるなーって思う方、惜しい!実は、どちらの本も編集者として今野良介さんが携わっていらっしゃる。テーマも内容も文体も全く違う本なのに、どちらも読者に対して「調べたことや知ったことを元に、自分の頭で考えて、行動してほしい」という願いが込められていると思う。

 さすがに医学に関する最新情報を一般の人たちが調べるのは難しいだろうが、「最新医学で一番正しい アトピーの治し方」は、大塚先生が顔と名前を表紙に出し、最新のエビデンスを元にやさしく分かりやすい文体で、アトピーに関する情報を提示してくださっている。この本を元に、アトピーに苦しんでいる人たちは「これからどう行動(治療)していけばいいか」を十分に考えることができると思う。

 そして、この本はアトピーでなくても、外用薬のステロイドを何となく「怖い」と思っている人や、皮膚科以外の科でも医師の言動によって医療不信に陥ったことのある人にも薦めたい。大塚先生のような、アトピーの現状をしっかりした論拠を元に平易な言葉で説明してくださる先生が一人いらっしゃると知るだけで、救われたような気分になるのは私だけでないと思うからだ。

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