亜ノ国へ 柏葉幸子 角川書店

 柏葉幸子さんの、初一般向けファンタジー。

 主人公の朴木塔子は、妊活中にもかかわらず浮気をした夫が不倫相手を妊娠させたと聞き、離婚し故郷に帰ってきた。彼女の叔母が100歳で逝った時、彼女に遺産として祖父の家を残した。その家で、祖父のトランクを見つけて開けてみると、それは異世界への扉だった。異世界では、「まれ石=他の世界から来た者」として扱われ、その国の六祝様を選ぶ儀式に参加する幼いムリュの乳母をすることになる。ムリュの母であるリフェと共に亜ノ国へ「まれ石・ハリ」として旅立つ塔子だった。

 このファンタジー、ナロウ系の異世界ものとは一線を画す。単なるRPG系のお話の延長線上ではなく、女性、いや母親のファンタジーだと思った。男性、それも子どもを持った事の無い人には、理解出来ないだろう。娘と息子、二人の父親である私には、なんとか感覚として「理解できる」とは思ったが、自分と重ねてハリの想うことを推しはかるのは難しいと感じた。異世界の描写は、非常に魅力的で、魔法使いの女たちや、火鳥の女たち、水蜘蛛の女たち、家守と呼ばれるモノ、さまざまな生き物が生き生きと描かれる。さすが、長年ファンタジーの名手として、描き続けてきた筆力は素晴らしい。
 また、お話としては、かなり面白い。亜ノ国での六祝様選びは、よくあるお話だがその後の収束方向は予測を裏切ってくれる展開になる。まあ、最後の方は、説明的になっている部分が無いとは言えないが、なかなかの展開を楽しませてくれる。最終的な塔子の対応は賛否両論あると思うが、それもありだろうと思った。最後の「ヤモリ」の描写もなんかニンマリしてしまう。

 LGBT/妊活/不倫・・・女性が絡む問題が多重に語られる中で、ムリュの純真さ、真っすぐな可愛さに救われる。親は子に、子は親に何を求めるのか。求めるのでは無く与えるのか。いろいろな問いを残して、物語は塔子に命を託して終わったのかもしれない。

 すっきりしたハッピーエンドでは無く、読者に問題を投げて終わった感がある。その答えは、読者が考える必要があるのだろう。

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おすすめの一冊。女性、特にお母さんには推薦!!!


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