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「僕のリヴァ・る」感想

安西さんの出演作で、さらにストレートみの強い作品が見たくてDVDを購入。実際の舞台は2016年に公演、新国立劇場の円形ステージ。
セットもシンプルかつ役者は4人のみ、テーマは「リヴァル」=「ライバル」。3つの兄弟をテーマにしたトリロジー。

自分には兄二人がいるが、性別・年の差もありあまり彼らをライバルとみなしたことはない。そしてこの演劇の中でも明確な「ライバル」として兄弟を描いているのは1本目の太郎と次郎の話だけに思えた。

一番頷けたのは弟に対して「嫌いではない」と答える兄の台詞。
ただ最初から横にいた人間、望んだわけでもなく引き合ったわけでもない人間に「嫌いではない」という答えを持つのが、何よりリアルで共感できた部分。兄弟や家族に対して明確に愛情や憎悪を持てるのはむしろ自分が大人になってからで、無自覚なうちに持つ彼らへの感情はとても曖昧だ。何かにつけて比べられ、意識せざるを得ず、立場によって譲り譲られる関係性があらかじめ用意されている。

赤ん坊と年の近い兄、この二人の心境が全く饒舌な大人の男二人に語られていることで妙に笑いを誘われる。気軽な闘争心の表現が気持ち良い分、楽な気持ちで観つつも自分の幼少期をじわじわと顧みたくなるような1本目。ちなみに父親役の鈴木拡樹が気軽過ぎて一瞬誰だか気がつかなかったことに笑えた。カメレオン俳優はすごい。

2本目のゴッホとテオ。これは三好十郎の「炎の人」をベースに演出されている。
生前誰にも評価されなかった孤高の画家、耳を切り落とした狂人、そういった言葉だけでなぞるにはちょっと飽き飽きした人物像でもあるけれど、その様を演じる鈴木拡樹の狂い方が誠実でとても見応えがあった。鈴木拡樹が低く声を張り上げる時のドスの効き方、こういった狂人の役にひどく合っていると思う。ダンガンロンパで狛枝凪斗を演じていたときも唯一無二の狂いっぷりで感動した記憶がある。
また、この話での弟。兄を一途に愛するテオ。個人的に、「一途な人物像」を演じる時の安西慎太郎がとても好きだなあと思う。彼の演じる一途さは少しおかしい感じがするので、より崇高な純粋さを感じる。
最後の長台詞で、ゴッホの絵を見つめながら「兄はいつでも狂っていたが、絵の中でだけ彼は一途で、そこに彼の理性がある。」というような言葉があった。それを言っている間食い入るようにキャンバスを凝視する様子が、そこに兄そのものを見ているのだと思った。キャンバスが実際の舞台では布が貼られていないただの赤い木枠であるのも手伝って、テオが一心に見つめているのが最愛の狂人、兄への強い視線のように思えた。そしてその木枠の向こう側には、ゴーギャンに詰められて自分の絵を踏みにじり、絵の上に這いつくばってテオに謝るゴッホの姿が繋がった。それだけが二人の想いの通じ方のようだった。
運命のまにまに、白熱し、飛び散り…という描写をされていたゴッホ。その飛沫を受け止めるテオという弟の描かれ方が、個人的にかなり味わい深かった。

最後の3本目。盲目のジェロニモとその兄。
自分の不注意から弟の視界を永遠に奪った負い目のある兄。実際、現代の感覚でいえばもっと責任感なく酷い家族もいると思うので、裏切ったと罵られても金貨を盗んでまで弟のために尽くす姿は少し身が入りづらい、とも思った。けれど小林且弥さんの演技が素晴らしくて、憲兵に罪を問われた時の、もうどうしようもない贖罪に押しつぶされる姿が「人間」すぎて、一気にこの話が生き生きと届いてきて、間違いを犯してからやっとお互いを抱きしめあえるラストの二人がとても優しかった。二人が沈黙しているシーンではジェロニモが何を感じているのかあえて見せないという演出も巧みで、兄の腕を引き止めた時、やっぱり兄弟ってこういう局面まで来てやっとお互いに優しくなれるのかもしれないな、と思ったりした。

家族、とりわけ年齢も近くライバルであったり友達であったり、特殊な愛を向ける対象であったり、そういう関係性って得難くて、「兄弟」ってやっぱり興味深いなあと噛み締めた作品でした。
各役者さんの演技も素晴らしく巧みで、当時生で見られた方が羨ましい限りです。良い作品でした。

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