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【詩】蛍光うさぎ

裸で夢をみる
恋人の白い背中が
窓から覗く月の光で割れ
一匹のうさぎが現れた
 
描かれたように
うさぎは重さと厚さを持たなかったが
月の光がうさぎに色を与え
うさぎは緑に輝いた
 
うさぎは跳ねながら
部屋の窓から飛び出した
私は彼女のそばに横たわっていたが
視線はうさぎを追った
 
うさぎは確固たる意図を持ち
どこかへ向かっていた
視線は
うさぎを避けるように
駅へ向かった
 
汽笛の音
発車のベル
鈍色の天井灯
車内に乗客が数人いた
それは影のように
持ち場を離れなかった
 
汽車は川に沿ってくねりながら進み
山中に
 
トンネルが続いた
その出口と入り口の切れ目の一秒ごとに
視線は窓の外の景色を捉えた
夜の闇の中で
カメラのストロボが焚かれ
焼きつけられたような車窓の風景
 
そのコマ送りの全ての瞬間に
動く鬼火のように
緑の
あの緑の
うさぎがいた
 
うさぎは赤い目でこちらを凝視していた
哀願するように
 
トンネルの連鎖が終わり
駅に着くと
そこは行き止まりで
風景の向こうに
樹木の聖域
鳥居
灯篭
神社の祠
 
雷が私の視線を揺らした
眩くて神秘的で
世界が始まる蠕動のようで
閉じた瞼を再び開くと
 
本殿の周りで
無数の蛍光色のうさぎたちが
輝きながら
跳ねていた
 
音もなく
気配もなく
自由に絡み合い
重なり合って
飛んでいるようで
無限の
夢幻の
構図と色彩を試すように
 
だが
私の視線は
参道の灯篭に戻った
 
その脇に
対になって
前足で
毅然と立つ
神社に祀られたその動物が
狐だと知った時
全ての風景が闇に墜落した
 
トンネルの間隙から見えた
うさぎの眼差しが蘇った

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