父と8歳息子の東南アジア&アフリカ旅行~マサイ・マラ国立保護区へ④~Vol.17
ジョセフはヌーが好きだ。
なぜかというと、ジョセフの出身の村ではヌーにまつわるこんな伝説があるからだ。
ある時期、神様は人間を始め様々な動物を創り出すことに疲れていた。
そんなある日、また地上界の動物達から「仲間を創って欲しい」と頼まれた神様は言った。
「私はもう疲れている、うんざりだ。これで最後にしてくれ」と。
疲れていた神様は、これまで創り出した動物達からパーツを選び最後の動物を創り出すアイディアを思いついた。
ライオンのたてがみ
ハイエナの長い前足と短い後ろ足
バッファローの角
馬の尻尾
バッタの顔
(他にもあったけど忘れてしまった)
これらを組み合わせて、神が最後に創りたもうた動物がヌーなのだと。
なるほど、確かにパーツ毎に見ていくとその通りで面白い。
そしてヌー贔屓なジョセフは、やたらにヌーの群れの前で車を止める。
さすがに何度も止まるとこちらも飽きてくるのだが、ジョセフにとってヌータイムは癒しなのでしょうがないと諦める。
「パパ、ヌーはもういいって。。」という息子をなだめ、ヌーの群れを眺め郷愁にふけるジョセフに目を向ける。昨夜はドライバー向け宿で同部屋の男のイビキがうるさく、眠れなかったと話していた。
過酷なドライバー業も癒しがなくてはやってられないだろう。
息子がどうしてもジャッカルをカメラに収めたいと言ってきかないので、最終日も早朝からサファリをした後、11:00位にキャンプ地を旅立った。
素晴らしい立地、料理、サービスで大満足のキャンプだった。
ナイロビまで7時間の帰路、ジョセフは車中で色々と話をしてくれた。
その中でも印象深いのがマサイ族の話だ。
マサイ族の子供は早い子は10歳位でもう結婚するらしい。女の子は旦那の家に嫁に入り、炊事や洗濯などの家事を始める。
マサイ族の男にとって学校教育は意味がなく、優秀な牛飼いになるための教えが優先される。そして牛飼いのセンスが無い子供は、学校へ行かされる。
飼っている牛を逃がしたり、野生動物に食べられたりすると「お前みたいな出来の悪い奴は学校でも行ってろ!」と叱られ学校へ行かされるらしい。
政府はマサイ族も含め国の教育水準を上げたいと考えているが、昔から続く伝統や風習の前ではなかなか上手くいかない様だ。もちろん全てのマサイ族が上述した訳ではないと思うが。
途中のドライブインで故障したジープを見つけた。ドライバーはジョセフの知り合いの様で、欧米人の中年女性と子供2人を載せていた。
故障は重く、簡単には直らないとドライバーが話していた。欧米人の親子をナイロビ市内まで我々の車に一緒に乗せてやってくれないか?と頼まれたのでもちろんOKした。
話を聞くとスウェーデンから旅行に来ている母子3人で、母親は「ケニアはなかなかタフな所ね」と疲れた感じで笑っていた。
極端にアシンメトリーな髪型の息子は10歳位か。険しい顔でずっと外を眺めていたのが印象的だった。イケメンでサラサラの金髪がかっこいい。若い時のベッカムに似ている。
中学生位のお姉ちゃんは、車に乗ってすぐ取り出したスマホから目を離さない。外にはアフリカの大地が広がっており、目の前には怪しい日本人の父子がいるというのに、どちらにも興味が無いらしい。
車は、今夜泊まるナイロビの「Hotel Emerald」に到着。
ここでジョセフとはお別れだ。お礼を伝え再会を誓う。
マサイ・マラへ出発前に泊まった時に、息子の靴下を干したまま忘れてしまっていたようで、チェックイン時ホテルのスタッフから受け取った。ますますこのホテルが好きになった。
階下のレストランで美味しい中華を食べた後、疲れが溜まっていた僕たちはすぐに寝入ってしまった。
翌日は昼までゆっくり休み、夕方便でアディスアベバへ飛ぶ。
そこから更に深夜便でバンコクへ飛び、一泊して翌日に日本へ帰国だ。
バンコクへ戻った夜、日本料理店で食べたラーメンが身体に染みて美味しかった。
バンコクのホテルスタッフのおばちゃんは、我々の事を覚えてくれていた。
「アフリカはどうだった?灼熱の砂漠だったでしょ?」
「いや、すごく涼しくて快適だよ。バンコクの方がよっぽど暑いよ」
スタッフのおばちゃんは信じられないと言う顔をした。分かる、僕もアフリカへ行く前までは信じられなかった。
こうして25日間の父子二人旅が終わった。
息子とはオーバーではなく100回以上ケンカをしたと思う。
朝から晩まで毎日毎日一緒で、あちらもストレスが溜まっただろう。
時に文句を言いながらも、良く食べて寝て体調を壊さず過ごした事は大いに褒めてやりたい。
この旅は、息子に良い経験をさせたいと思って考えた訳ではない。
なぜかアフリカへ興味が湧いて、どうしても行きたくなったこと。
独立したばかりで、あまり仕事もなく時間があったこと。
息子と一生に残る思い出を作りたかったこと。
基本的には自分のわがままだ。
だから息子には付き合ってくれてありがとう、と言いたい。
夏休みの宿題を二週間で終わらすことになってごめん、とも言いたい。
息子には、どうかこの広い世界で生き抜いて欲しい。
異文化を日本と比較せず、そのまま受け入れて欲しい。
外国人に本気で恋をしたり、ウマいウマいと言って現地の酒や食べ物を豪快にほおばる男になって欲しい。
そんなタフな息子に、これからも育っていきますように。
完
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