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「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」を見て、考える - その1 -

ハイプ・サイクルという言葉をご存知でしょうか。
ハイプ・サイクルとは、特定の技術の成熟度、採用度、社会への適用度を示している図になります。「過度な期待」を超えて幻滅期に到達し、そこを乗り越えた先に生産性の安定があるようです。
技術の分野に応じた図をガートナー社が公開していますが、今回は「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」を見ていきたいと思います。

ハイプ・サイクル

1. 未来志向型インフラ・テクノロジ

未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクルとは、日本市場に特化したものであり、ビジネスに重要なインパクトや破壊と創造をもたらすテクノロジを、ITインフラという視点から取り上げています。
2021年10月に公開された情報では下記のように整理されており、一つずつ確認していきたいと思います。

未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル

2. 黎明期(技術の引き金、Innovation Trigger)

ハイプ・サイクルの最初の段階は、「技術の引き金」またはブレークスルー(飛躍的前進)から始まります。この段階では、新製品発表やその他のイベントが報道され、関心が高まるとされています。

2-1. 月データセンター(主流の採用まで:10年以上)

一つ目から凄い話が出て来ました。月面にデータセンターを構築するという話になります。
NASA月面有人探索のアルテミス計画において、生命維持、輸送、月面データセンターなどのインフラの検討がされているようです。月面インターネットを構築することで、月面での自律コンピューティングや、宇宙気象観測機器を用いて危険な太陽活動を検出したときに、地球上のネットワーク管理者からの指示を待つことなく、ユーザーに直接警告を発することができたりするようです。
また、アメリカの大統領次第で本計画の内容も変わるかと思うので、長い目で見た方が良さそうですね。

2-2. 双方向ブレイン・マシン・インターフェース(主流の採用まで:10年以上)

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)とは、脳とAIを繋げて人間を拡張する技術とのことです。双方向BMIなので、脳で思考したことを機械に送るだけでなく、機械で得た情報を脳にフィードバックするようです。ハリウッド映画みたいですね。
BMIには非侵襲式と侵襲式があり、頭蓋骨を切開したうえで脳に直接BMIを埋め込む侵襲式では、脳情報をより正確に把握することができるそうです。
また、高齢者が増える社会では人間の拡張は大きなテーマなようです。「身体の拡張」「存在の拡張」「感覚の拡張」「認知の拡張」等があり、私たちの五感をコントロールすることが出来たら、仮想現実に没頭できたり、身体が麻痺している方でも物を見たり・聞いたり出来たり、脳に障害がある方とも問題なく会話が出来る様になることを期待されているそうです。

2-3. 次世代スマートシティ(主流の採用まで:5〜10年)

サイバー・フィジカル空間融合によって社会的課題を解決するSociety 5.0に基づく、新しい街づくりがスマートシティとなります。2010年代初旬からセンシング型スマートシティ構想自体は始まっているとのことですが、そこから更に発展させていくということになります。
データ駆動型社会(ものよりもデータに価値がある社会)、②知識集約型社会(←労働集約型社会/資本集約型社会)、③非貨幣価値社会(履歴データに価値がある社会)の組み合わせが次世代スマートシティの考え方であるため、履歴データを取得・保存できるセンシングやプラットフォームを構築し、知識の共有やデータの活用が出来る街作りが求められています。SDGsにあるようなCO2削減等も、次世代スマートシティを活用することで目標達成に近づくことが期待されていると思います。
そもそもSociety 5.0とは、狩猟社会→農耕社会→工業社会→情報社会に続く、第五期科学技術基本計画となります。官民連携で進めることになると思うので、国の頑張りに期待ですね。

2-4. 汎用人工知能(主流の採用まで:10年以上)

汎用人工知能(Artificial General Intelligence; AGI) は、人間のように十分に広範な適用範囲と強力な汎化能力を持つ人工知能です。AGIは分野横断的な思考も出来ることが期待されるため、新たな薬品の制作等にも貢献することが期待されています。
元々、AGIの開発は非常に困難であると考えられていたため、特化型AIの開発が主流であったものの、2010年頃からのAI技術の著しい発展(ディープラーニング等)に伴い、汎用人工知能が期待され始めて来たようです。
一方、汎用人工知能は開発されることはないと予見している方々もいます。理由は様々なようで、「AI技術の進歩を支える半導体技術が、ムーアの法則を維持できない」「汎用人工知能は今の技術の延長線上に存在しない」「そもそもAGIという概念は存在しない」等々の意見があります。
特化型AIが先に普及すればAGIの需要も小さくなり、それに伴って開発速度も低下すると考えていますので、私はAGIの普及は難しいと思っていますが、実現されることも楽しみにして待ちたいと思います。

2-5. 量子エッジコンピューティング(主流の採用まで:10年以上)

「量子コンピューティング」も「エッジコンピューティング」も知っているという方でも、「量子エッジコンピューティング」という言葉を初めて聞いた方は居るのではないでしょうか。私は初めて聞きました。(2つの概念を組み合わせただけだと思いますが、、、)
この技術はエッジAIを実現するためのものだと考えています。エッジ(クラウド側ではなく、ユーザに近い場所)でAI学習を行うメリットですが、分析パフォーマンスの向上、通信コストの削減、セキュリティ、導入コストの削減、ポータビリティ等が挙げられます。また、低遅延性が求められる産業分野等では、エッジコンピューティング技術の需要は高いと思います。
更に量子コンピューティングを使うことで、AI技術をより高い処理能力を持たせることが出来ると考えられます。純粋な処理技術はムーアの法則が破綻する可能性があることを考えると、処理技術のブレークスルーには量子コンピューティングが必要不可欠です。
多数の端末に量子コンピューティングを採用した場合、コスト面での問題はあるものの、私は技術的には有り得る将来のインフラ・テクノロジかなと期待してます。

2-6. 人間中心のAI(主流の採用まで:10年以上)

これは、人間にとって害のあるAI活用は避けようといった動きのようです。AIは便利であると同時に危険性も持っているため、各ステークホルダー(国同士等)でしっかりと合意をとって使おうと動いているようです。
「自分が自己を決定できるかどうか」が人間と機械(AI含む)との違いであると考えると、人間はAIを説明できる状態にしなければ、全ての決断をAIの判断のせいとしてしまう可能性がある。そういった観点を含めても、人間中心のAI活用を考える必要があるのだと思う。

最後に

 内容が多いため、一旦こちらで終了します。
次回、続きから実施してみます。

参考

資料①:ハイプ・サイクル
資料②:Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」を発表
資料③:Wikipedia - ハイプ・サイクル
資料④:月面インターネットの構築【特集】 | Data Center Café
資料⑤:BMIの衝撃 ~あなたが見ているものは電気信号の集積にすぎない
資料⑥:Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府
資料⑦:Society 5.0の考え方と次世代スマートシティの構築 - 地方創生
資料⑧:「汎用人工知能なんてできっこない」LeCun教授 | AI新聞
資料⑨:人間中心のAI 社会原則 - 内閣府
資料⑩:AI 社会における「人間中心」なるものの位置づけ - J-Stage


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