続・未だ謎多き、原点にして最強ドラム神・Buddy Rich
前回記事に引き続き、ドラム神・Buddy Rich の話。
前回記事の終わりに書いたように、僕の Buddy のファーストインプレッションが悪かったため、最初は彼のサウンドは受け入れ難かったのである。
しかし、世界的スーパードラマー達を含む多くのドラマーが Buddy を賞賛していることは知っていたので、何度も何度も Buddy のプレイを見て、その賞賛の理由を知ろうとした。
そのうち、彼の演奏が『どれだけ異次元のレベルのものなのか』ということが少しずつわかってきた。
やがて、その影響は僕にも表れ、生まれて初めてビッグバンドスタイル3点セット(※)&トラディショナルグリップでのプレイをメインに変え、しばーーーーーらくはどんな音楽でもそれでプレイしていた。
(※3点セット・・・1バス1タム1フロアのセットのこと。Buddy はさらにフロアがもうひとつ増えるが、このフロアは大抵タオル置き場になっておりほとんど使われない。ちなみに当時の僕は、菅沼孝三さんをはじめ、Simon Phillips や Billy Cobham などの多点キットに憧れていた上に、人生初めてのドラムが4タム1フロアだったため、3点セットは古くてダサイものと勘違いしていた。)
Buddy の凄さを思いつくままに解説する。
まず、単純に手足がめちゃくちゃ早い。
あまりにも当たり前のようにやっているので意外に気づけないのだが、異様に速いのである。
真似して見るとどれだけ彼の演奏がずばぬけてスピーディーなのかがわかる。一瞬だけなら追いつくが、彼は60歳を過ぎた年齢でも(心臓手術からの復帰直後でも!!!)2時間ほどのコンサートの間中それを続けることができた。
手だけじゃなくて、足もめちゃくちゃに速い。ダブルもシングルもめちゃくちゃ早い。
さらに、伝説の「片手ロール」もある。
しかも、右足だけじゃなくて左足ハイハットでもダブルを演奏できてしまったする。(左足ダブルを有名にしたドラマーとしては Virgil Donati が有名だが、Virgil が有名になる何十年も前から Buddy はそれをやっていた!!!)
Buddy はタップダンサーとしても有名で、そのテクニックがドラムにも活かされていることは想像に難くない。
そして、単に連打が速いだけでなく、手足の複雑なコンビネーションもすさまじい。
Buddy のシグネイチャーコンビネーションフレーズとも言えるような、ある程度お決まりのコンビネーションというのが多いのだが、そのどれもが難易度高く、高速で、かつ、メロディアスで音楽的。
R足→L手→L手→R足→L手→L手→R手→L手→L手
のトリプレッツコンビネーションとか
R足→L手→R足→L手→R足→L手→R足→L手→R足→L手
の手足シングル連打とか
R手→L手→R足
のクロススティッキング付きとか
後世のドラマーのハートを鷲づかみにするようなフレーズ。
それらは、いくつかの世代を伝承され、現代のゴスペルチョッパーと呼ばれている人達にまで伝承されている。
先にこのnoteで紹介した、Steve Gadd , Vinnie Colaiuta , Dave Weckl という3人も Buddy を大尊敬し影響を受けているということがプレイスタイルに如実に表れている。
次に気になったのが、音色のタッチのバリエーション。
最初、Buddy の演奏を聴いた時、「なんだかずいぶんスネアヘッドにスティックおっつける人だな~。初心者みたいだ。」と思った。
しかし、もちろん Buddy はこれを意図的にやっている。そうやって、ヘッドが張り裂けるようなサウンドを轟かせて、迫力のある演奏を実現している。
そして、スティックをヘッドに押し付けるだけではなく、離す、叩く場所を叩き分ける、指の握りを強くしたり弱くしたりする、指がスティックに当たる面積を大きくしたり小さくしたりする、ヘッドに対しほぼ垂直に叩いたかと思えば、斜めに入れたり、ときにほぼ真横からこするようにえぐるように叩いたり、スティックを立てたり寝かせたり、押すようにストロークしたり逆にひっぱるようにストロークしたり・・・
あらゆる手段を駆使して、ひとつのドラムから果てしなく多くの音色を引き出している。
Buddy のドラムソロの7割くらいはスネアを叩いていると思うが、そのスネアサウンドはひとつの太鼓から繰り出されているとは思えないほどカラフルである。
前回記事でも紹介したこの動画であるが、僕が最初に感銘受けたのは、1:05~あたりから始まるボトムハイハット打ちから始まるシンバルソロ。そして、2:25~あたりから始まるリム打ちのみでのソロ。
「うお~~~~~~~~~~~~~めっちゃ気持ちいい音色や~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!」
というのが感想。
ハイハットの音色が、
エモい
としか表現できない。
この、ハイハットという金属物質に血が通ったような生々しいサウンド!!!
上下のハイハットの間に挟まれた空気層がやらしくうごめきハッフンハッフンするこの感じ!!!
「シンバルは生き物なんだ!!!!!」
と自覚する。
そして、ハイハットボトム打ちは、正面側クラッシュシンバルにも適用される。
1枚のシンバルから流星群が見えるぜ・・・。まるで、電灯一つない田舎の山の中から見上げた星空のようなサウンドだ。静寂の中に、確かに異なる様々な光が点でありながら波のように押し寄せる。
はぁ~~~~~~~~~~~~~(イッてる)
シンバルのタッチの「コツコツ音」もすごい!
いわゆる「スティックの音が聴こえる」というやつ。一流ジャズドラマーの全盛期にしか出せないと都市伝説のように語り継がれてきた音色。
Buddy はバリバリ出しとるやんけ!!!
「コツ山コツ太郎」に改名してあげたいほどに出とる。
リムのみを叩いた音色も、もう美しくて半端ない。。。
なんでこんなにいろんな音色出せるのかってくらいすごい。
「カチ→→→→→(35億のバリエーション)→→→→→コツ」
みたいな感じでグラデーションがある。
2:36のやつとか、きっとみんな真似するよねー。僕はした。
あと、リバウンドの少ないリム打ちで、これだけの速さと精密さを長時間維持するのって、やっぱりとてつもないテクニック。
あーーーーーーーーーーーもう!!!!!!!語りたいことが多すぎて書きたいことの5%くらいしか書いていないんだけど、疲れたので最後にひとつだけ書いておく。
Buddy のドラムソロのエンディングの定番のひとつ
『超超超超超大爆音クローズドロール』
(※もうひとつ定番があって、そちらは超超超超超大爆音超高速シングルストロークロール。)
まず、そのロールの美しさに驚く。
僕は吹奏楽の経験者でクラシカルスネア奏法をやってきたから、美しいロールとはということにはけっこうこだわりがある。
Buddy のそれは、世界最高峰の100人のパティシエ達が1年に渡り月1回の定期会合を開き3回のリハーサルをかけてからのぞんだ、世界一のホイップクリーム作りのときの音色がする(謎)。
MAKING OF BURNING FOR BUDDY Vol.2
前回紹介したこのビデオの中で、Buddy と親交の深かったドラマー・Ed Shaughnessy が「Buddy はこんな風にホイップクリームを泡立てるようにロールをプレイしていたよ!」と紹介していた。
Buddy のそれは、滑らかなホイップクリームのナイアガラの滝である。ナイアガラの水が全てクリームであることを想像してほしい。
6:12~のあたりとか、ヤバイ。ヤバイ。。地震でも来たかというような音色・・・。
というわけで、この辺で書き疲れたので終わる。
Buddy の凄さはドラム演奏だけでなくて、Big Band という編成へのこだわり、リーダーシップ、バンド運営、ショーマンとは、プロとは、といったことにもあふれ出る魅力があるので、その辺も今後触れられればいいなと思っております。
というわけで、2記事にまたいだ Buddy Rich 編はいったんサヨウナラ。
ホントの最後のダメ押しに、、、
Buddy 初心者にはこの動画がオススメです。
1982 Canada , Montreal でのプレイ。
Buddy の十八番「ウエストサイドストーリーメドレー」での演奏。
Buddy の円熟味、演奏の質、画質、音色、総合的に見て Buddy の映像記録の中では最高峰のものだと思っています。
僕はVHS版で見ましたが、DVDも出ています。
VHS版には神保彰さんがブックレットを書いていた覚えがあります。神保も大学時代はBigBand経験者(慶応のライト・ミュージック・ソサエティ!大学バンドの老舗中の老舗。)だし、実は Buddy にめっちゃ影響受けているんでしょうね。