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▽R06-03-02 象頭、上野、文化の保存

▽白井智之『エレファントヘッド』を読んだ。


▽なんだこれは……。すごすぎる。

 こんな物語がゼロから人間の頭で発想され、構成され、執筆されたということ自体が俄かには信じがたい。作者自身が夢で実体験した事実をもとに書かれた、と言われたって信じてしまいそうだ。

 精巧につくられたミステリが人智を越えているように感じるのはしばしばあることだけど、この作品に関しては謎が成立する舞台設定そのものがかなり狂っている。特殊設定、という言葉でも生ぬるいくらいだ。具体的なことは何にも言えないけど、これは色んな人に読んでほしいですね。猟奇要素も強いのでかなり人を選ぶとは思いますが……。



▽最近上野に行くことが多いのだが、なんというか不思議な街だなと思う。

東京国立博物館の本館


▽公園の方に行けば美術館や博物館といった文化施設が目白押しだが、下町側に目を向ければアメ横のような雑多な商店街が並んでいる。駅前は人でごった返していて(これは23区の主要駅ならどこでもそうだが)どちらかというと小汚い印象があり、行き交う人も実に様々だ。渋谷ほどのヤングさも巣鴨ほどのシニアさもなく、中野や池袋ほどサブカルでもなければ新宿や東京ほどかっちりした感じもない。当然ながら外国人がいっぱいいるし、京成線で成田空港に行けるので、でかいキャリーバッグを抱えた人もしょっちゅう見かける。
 面白いところですね。個人的にはそこまで好きな雰囲気ではないけど……。

▽お散歩ついでに国立博物館の常設展を見て回った。しかしここ、博物館なのに順路が一本道じゃなくてオープンワールド(?)なのがおもしろいな。時代や地域ごとに展示ももちろん分かれているが、決まったルートがないのでどこから見ても別にいい(たぶん本館の常設展だけで、特別展とかはちゃんと決まってると思う)。
 基本的にぼんやり考え事をしていて目の前のものに集中できない自分としては、見てたつもりで意識がスルーしてた展示をもう一度戻って観に行くのが簡単なのは非常に助かりますね。

 昔の人が作った綺麗な芸術品をほへーと見ているとすごいな~と思うけど、うんと古代のものとかを除けば、こういう大規模な博物館に所蔵されてるものは「当代きっての芸術家」みたいな人が作ったものが中心になっているはずだ。もちろんそれを後世に保存することが一番大事なんだとは思うけど、考えてみれば鎌倉時代にも江戸時代にも「うだつの上がらない芸術家」みたいな人たちは確実にいたわけで、そういう人の作ったものとかもちょっと見てみたいよな。
 アップロードした瞬間何万リポストもされるような神絵師、神ボカロPの作品だけ見ても、その時代の流行は完全には理解できないと思う。そういう人たちから強く影響を受けつつも、自分だけの表現をできるかぎり目指そうとして、でも技量の兼ね合いで理想した形には程遠いものになって、首を傾げながら、なんとかプライドや不安と折り合いをつけて、外面だけは自信満々に世に作品を送り出す。案の定そこまで評価されなくて、大して褒められも貶されもせず、こんなことやめようと何回も思うけれど、しばらく経ったらいつの間にか次の作品をつくり始めている。そんな人たちの、キャプションに「○世紀」としか書かれないような作品たちを集めた博物館に行ってみたい。それでこそ文化の保存、みたいなところもちょっとあるんではないか。
 もしかして風俗博物館みたいなのがそれに近いのかな。


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