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拝啓・10年後の私へ

 よう、元気か。


 私が私のままでいるのなら、いまの言葉は脳内で杉田智和さんの声で再生されたことと思います。たぶんされたよね。人間10年ぽっちじゃ趣味嗜好なんてそれほど大きく変わんないでしょ。
 相変わらず替え歌作って遊んだり、酔っ払って寂しくなるとTwitterに「愛されたい」とか寝ぼけたこと書いてたりするのかな? さすがにそろそろやめた方がいいよ。なんだかんだ言って、あなたは世間的に見れば割と愛されてる方だと思うし。


 さて、私は2021年の1月にこれを書いているけれど、あなたは2031年の1月にこれ、読めてますか。
 まあ百歩譲って2031年1月31日の23時59分までに読んどいてくれればいいよ。そうでないと「10年後の私へ」っていうタイトルの意味合いが崩壊するので。せめて1月中に読んでくれ。その辺は自分が大変なものぐさだとわかっているけど、是が非でもお願いしたい。


 さて、私の頭の中での予定では、今から10年後、42歳となった私はなんらかの形で、やりたくないものを「やりたくねえ!」と言えたり、言いがかりをつけてくる客に「うるせえ!ポケモンカレー食って寝ろ!!」と言える仕事をしていると思っているのだけど、どうだろう。
 その歳になってまで毎日のように、誰かを好きになる回数より嫌いになる回数の方が多くなるような仕事をするのはよしといてね。今は生きるためにしょうがなしにやってるだけの話だから。なにせ2021年は、いきなりポッと出てきた謎のウイルスが、おいそれとジョブチェンジなんかさせてたまるか……ってやってる世の中なもんで。

 それに、今の私にもまだわかんないけど、たぶんあなたにしかできないことって、道を歩いていてふと蹴っ飛ばそうとした石ころみたいに、すぐそばに転がっていると思うから。


 さて。
 長編でも短編でも詩でもなんでも構わないけど、文章を書くことは続けているかな。それ以外に何か命を燃やせるものが見つかっているのならそれもまたよし。
 ただ、もし何もないのなら、自分で何かするしかないんだからさ。他人から与えられるの待っていればよかった時期は、私の時代でも既に終わってることだからね。喉が渇いたからって、黙って天を仰ぎながら口を開けて雨粒が降ってくるのを待つような過ごし方はしないでね。
 10年後のあなたがそんな生き方をしていないことを願っています。

 そして、もしもこの願いが通じていたのなら、あなたは今も何らかの形で、物語を紡ぐことを趣味としているんじゃないだろうか。

 趣味かな。

 いっそのこと、仕事にしていたら嬉しいな。
 っていうのは、今の私がこれだけ頑張っているものが、10年後に自分を語るうえで欠かせないものになっていてほしいと思うから。

 まあ、とはいえ未来を決めるのは今の自分であって、過去の自分じゃないし。あなたが進む道はあなたが決めていいよ。10年前の自分はそう思ってたんだなー、程度に知ってもらえたら、満足かな。なんだかんだ言いつつ。


 ところで相変わらず、推しを追いかけているかな。
 その頃になれば私たちの推しはとうとう還暦を迎えているはずだけど、そのへんの20代よりよっぽど若々しくてイイ身体をしている私たちの推しならば、きっと10年後も変わらずに、歌い続けてくれていることでしょう。



 というか私は、ちょうど推しが今の自分の年齢くらいの時から追いかけているわけで、そう考えたら自分って、その当時の推しと同じ年齢の今に至るまで、誰にも何も残せてないなあ……って気がしてるのが、正直なところだったりするんだ。


 だから、せめて10年後にいるあなたには、そんなことを思ってほしくないんだよ。

 これから10年後のあなたがこの手紙を読むまで、いまこの手紙をしたためている私がどんな過程を辿るとしても、あなたには(それが全部ひっくるめて今の自分を作っているんだな)(少なくとも過去10年間に無駄なことなんか何もなかったよな)って思ってほしい。

 そして、未来にいるあなたに、そう思ってもらえるレベルの毎日を、私はこれから紡いでいかなければいけないと思っています。



 ま、大変だとは思うけどさ。がんばってみるよ。
 進み続ける時間が、この手紙を読むであろうあなたに辿り着くまで、10年間。

 あなたはそこで美味しいもの食べたり、いろんな人と語ったり笑い合いながら、楽しく、テキトーに待っていてよ。
 まあ、私がわざわざこんなこと言わなくたって、あなたはきっとそうしてると思うけどね。

 10年後のあなたが、この手紙を読んで「10年前の西野、青くせえな」って笑い飛ばしてくれますように。


 2021.01.12 西野 夏葉

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 この記事は、ゆるふわ帝国@手紙部(@nn_name_n2)さまから「#手紙部」へのお誘いをいただき執筆したものです。

 10年後の自分に手紙を書くのって正直、自分の肋骨の隙間からセルフサービスで心臓をつかみ取るような感じがしてぞわぞわしたのですが、いつもフィクションの話ばかり書いている私にとっては、とても新鮮な感覚がありました。

 お誘いのDMをいただいてから、かなり間が空いてしまって申し訳ありません。
 この度は大変貴重な機会をいただき、ありがとうございました。


 さ、長編を書く作業にもどろうか。 
 ウェーイ


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