抽象的な世界観に浸りました
「盤上の夜/宮内悠介」
最近読んでいる小説とかなり趣が違いました。
小説の濃淡は感情描写の強弱に比例していると感じています。「怒った」「泣いた」などのストレートな表現を使わずに、登場人物の仕草や台詞から、読者に感情や感覚を想像させる。その文章にこそ作家の個性が宿っているように思えます。
「盤上の夜」は舞台設定が壮絶です。一瞬「えっ!」となり読み直してしまうくらいに。しっかり心理描写をすると、それだけでも相当なボリュームになり得るでしょう。
なのに意外なほど、"壮絶さ"をあっさりとスルーさせてしまいます。おそらく作品の目的が、個々の感情に焦点をあてることではなく、人間の知力を極限を超えるまで高めきった先にあるものだからでしょう。まぁ、私の勝手な推測なんですが。。そのように読み取れました。
つまり、感情を剥き出しにした生々しい応酬よりも、抽象的な言葉で構成された台詞と説明に比重が置かれている感じです。倫理のテキストを読んでいるときに、脳内で問答を繰り返すような感覚が最も近いかもしれません。
最近、意図的に抽象度の高い言葉を使わないようにしています。というのは、具体的なイメージが浮かばないときの"逃げ"の表現というイメージがあるからです。
しかしながら、入念な思考と推敲の足跡が伺えるような、練り込まれた抽象的な表現に触れることは、ちょっとした充実感を味わえる体験でした。
でも、まぁ、時々で良いですけど。
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