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おまじない

「なんか、シャラシャラといい音がしますね」

 人と一緒に歩くと、そう言われることがあります。半年ほど前まで、仕事用のカバンに「水琴鈴すいきんれい」という鈴をつけていたからです。「なんで熊避けつけてるのか」と言われたこともあるのですが、熊避けって……風情がないなあ(笑)。いい音って言われたほうがうれしい。

 水琴鈴は穴の空いていない珍しい形をした鈴。内側に凹凸があり、そこに小さな玉が転がることで独特のシャラリシャラリとした音色が鳴ります。名前の由来は日本庭園の装飾の一つである水琴窟すいきんくつなのだそう。上部から落ちる水滴が壺の内部に響き、琴のような音が出る水琴窟の音を再現した鈴です。

 私はこの澄んでいて水がキラキラ流れるような音がとても好き。なんだか空気がピンと研ぎ澄まされて、整う気がするのです。モヤモヤした気持ちや陰な空気など、悪いものを祓ってくれる気がします。やる気が出ないときに耳元で鳴らすと、少しだけ気分がスッキリして集中力が上がるんですよ。つけているのは銀色の水琴鈴。金と銀があった中で銀を選んだのは、そのほうが凛として空気を浄化してくれそうな気がしたからです。

 といっても、「鈴がないとやばい!」とか「悪いものが漂っておる〜」とかそういうのはなくて、ただの気分の話なのですが。だって、買った場所、神社仏閣ではなく、本屋のレジ横ですもん。ちょっとした、おまじないみたいなものです。

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 水琴鈴のほかにもう一つ、日頃からおまじないを身につけています。指輪です。

 ホワイトゴールドで彫り込みのあるリングに、サファイアが飾ってある指輪。宝飾業を営んでいる祖母にもらったものです。ほかにもいくつか指輪は持っているのですが、このサファイアが入っているものを常に身につけているのは誕生石だから。なんとなく、誕生石を身につけていると運気が上がりそうじゃないですか?

 つけているのは、左手人差し指。場所は特に意味はなく、たまたまもサイズがそこに合っただけなのですが、風水では「積極性を高める」という意味があるらしいです。——ちなみに今、本当にほかの指だと合わないのかなって中指にはめてみたら、入ったけどムチムチでなかなか抜けず大変なことになりました。……なんとか抜けた、よかった。

 毎朝、出かける前・始業前には必ず指輪をつけます。化粧をしていなくても指輪はつけます。指輪をすると、少し私の輪郭がはっきりして、表面の感覚が鋭くなる気がするんです。いい結界が張られている感じ。反対に指輪なしだと、どこまでもトローンと溶けてしまって、寝ても寝ても眠い感覚がします。

 これも、気分でおまじないです。たまにつけ忘れてしまうこともあるし。つけ忘れたときは、忘れたことに気がつくと落ち着かなくなりますが、だからといって特別に悪いことが起こったこともありません。そんなものです。だけどあると安心するんですよね。

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 鈴とか指輪とかいうとたいそうに感じるかもしれませんが、ミサンガ編んだり、四葉のクローバーを探したり。一度はそういう「おまじない」ってやってた人も多いんじゃないでしょうか。朝のルーティーンや、勝負服なども「おまじない」に近いかもしれません。

 こういった「おまじないみたいなもの」って、結構大切だと思っています。

 でも、「おまじない」の伝え方は要注意です。

 今の会社に入ったばかりの頃。先輩との会話の中で「鈴、空気浄化されるような気がしません?」「指輪つけていると、結界みたいな感覚」と話した私に、先輩は「ちょっと変わった子が入ってきたかもしれない……空気清浄機とかお清め水とか用意しないといけないかしら……」と思っていたそうです(笑)。全然そんなつもりはなくて喩えの感覚で話したのに、本気だと思われたみたい。

 さすがに今では、その誤解は解けています。

 おまじないは、あくまでおまじない。気分です。

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 ちなみに、水琴鈴について「半年ほど前までカバンにつけていた」と書いたのは、カバンを変えてちょっと合わなくなったから。今はキーケースにつけています。

 音はまだ濁っていないけれど、だいぶ外側が黒ずんできたな……。悪い空気を吸っているのかも。そろそろ新しい銀色の水金鈴を手に入れなければ。


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