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ベトナム縦断記。その7(トレインストリート〜ホーチミン廟)〜よそ行きストリートと敬意の集積地

ベトナムに行く前から、「統一鉄道はスピードが出ない」と聞いていた。それにしてもである。走れば追いつけそうだ。

線路沿いの一部の地域には、自由に立ち入ることのできるエリアがある。通称・トレインストリート。ここでは、線路スレスレに露店が並んでいた。東南アジアではよく見かける光景だというが、生で見ることができたのは初めてだ。

ベトナム統一鉄道は、日に10本ほどしか走らない。余談だが、踏切が人力だった。警察官のような人が、バリケードを持って道路を封鎖していく。列車の本数が少ないから、これでも回っているのだろう。

トレインストリートはランタンで彩られ、線路を情緒たっぷりに飾っていた。並んでいる店もカフェなどが多く、昼夜問わず雰囲気がありそうだった。

自撮りをしている女子やカップルが、線路に腰掛けている。試しに写真を撮ってみたら、肉眼で見るより綺麗だった。かつてベトナム“南北統一”を果たした時代に、その象徴として讃えられていた統一鉄道南北線。
その鉄道によって作られた通りは、すっかり”よそ行き”になっている。

その後、ゴーカートが並ぶレーニン公園を横切り、ライトアップされたホーチミン廟に向かった。ベトナムの英雄が安置されている施設は、緑の芝生と小さなフェンスで仕切られている。そしてその周りには厳しい視線を向ける公安の人たち。建物に近づくことすら難しそうだ。
またベトナムでは、警察官などをみだりに撮影することは禁じられている。
彼らに守られた廟はとても静かで、あたたかみはまるでない。

この国の敬意とアイデンティティが集約された場所。日本では経験することのない空気だった。畏れに近い緊張感がそこにはあった。ベトナムの歴史をもっと学んでおくべきだった。知らないからこその恐怖。そんなつもりはないけれど、うっかり敬意もアイデンティティも踏み躙ってしまうんじゃないかという怖さだ。



午前中には、廟の中に入ることができるという。明日は1日ハノイですごす。早起きしよう。

バイクタクシーを呼んで、ホテルに戻った。
若いライダーは、どこから来たんだと優しく話しかけてきた。日本からだと答えると、

ーコンニチハ

と言ってきた。夜なのに。
2度目のバイクでは、しっかりと通りの様子を眺める余裕があった。ベトナム語や英語の看板に混じって、寿司屋だの九州ラーメンだの日本語の看板が並んでいる。”スーパーマーケット(津軽)”(原文ママ)という意味のわからないものもあった。

バイクはスムーズにホテルまでぼくを送り届けてくれた。

ーアリガトウ!
ライダーは去り際にそう話しかけた。

この国、それなりに日本語が聞こえる。

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