![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/98186977/rectangle_large_type_2_f007e4ccf6c1f96a4b86195d31744e69.jpeg?width=1200)
バンコクを起つ日。このぼくは、ベトナムを知らない(まえがきその1)
2023年2月8日深夜、ぼくはタイのスワンナプーム国際空港でひとり、日本へ帰る便を待っていた。大学の友人2人との卒業旅行の帰り道である。日付をまたいでも飛び交う国際便は途切れることながく、いろんな色のパスポートを握りしめた人たちが、出発ロビーを行き交っている。
5年ぶりの海外旅行、その最後は賑やかにぼくを見送ろうとしていた。
ぼくは、その旅で取り返しのつかない失敗をした。
友人2人と決定的な別れをしたのだ。彼女たちにはぼくの言動が気に入らなかったらしい。最終日の買い物中、その言葉はするどく、そして確かに僕をつきはなした。
「最後くらい、お互い嫌な思いをしたくないから別行動しよう−」
なぜこうなってしまったのか、いまだに飲み込めていないところもある。1週間あまり、彼女たちのために旅行を企画し、現地でツアーや交通機関などを手配した。いかに彼女たちを満足させられるか。さながらツアーコンダクターのような気持ちで、自分自身の旅行を満喫する余裕もないまま、現地の人たちに駅までの道を聞いていた。
3日目あたりから、うっすらと無視されている雰囲気はあったものの、気にしないふりをして最終日を迎えていた。何か不満を言われたり、そういったことはなかったからである。
いかに彼女たちを満足させられるか。
とりあえず、帰りの機内で合わせる顔は準備できそうになかった。いろんな感情が混ざったまま、空港に向かうタクシーの後部座席で、ぼくはこの後乗る予定の飛行機の座席をそっと変更した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?