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心エコー所見〜初心者はどこから見るべきか?〜

 4月になり、新人の多い季節になりました。新人向け研修はどこの病院でもやっていることと思いますが、やはり初心者向けの医学教育が一番ネックではないでしょうか。教科書だと、難しすぎる。また意欲を持って勉強してもらいにくい、、、
 初学者向けの学習ツールを提供できるよう、連載していこうと思いますので、ぜひ記事チェックをしていただければと思います!!それではまずは心エコー所見からいきましょう!

初心者はどこをまず見たら良いの??

 答えは、「左心系をまず見よう」です。まず4項目を押さえてください!それは

① LVEFとLVDd
② wall motion
③ IVSthとPWth
④ 弁膜症

です。では頑張っていきましょう!

左心系からみる

 なにはともあれ、左心系です。心臓のポンプ機能といえば左心系が要です。

① LVEF(なんだかんだで、大事)

 「イーエフ」とみんなが言っているやつです。ざっくり左室の機能を見るのに、「やはり大事」です。60-70%くらいあれば、ポンプ機能としては正常な心臓だろうなと予想できます。例外についてはあえて語りませんよ!「枝葉末節にとらわれて学習が進まない」ことを避けましょう!

 で、この「イーエフ(EF)」ですが、50%くらいだと、「あれ?ちょっと悪いなぁ」という感じがします。「20-40%」くらいだと、「うわ!悪いなぁ」と感じます。「10%台の患者さんはかなり心臓が悪い」ですね。

 そう考えると、このLVEFというのはすごくざっくりわかりやすい「目安」だと思いませんか?

① LVDd

 「左室の大きさ(ざっくり、心臓が一番大きく拡張しているとき)」です。レントゲンでいう心拡大に近い概念だと思います。『慢性疾患というのは代償機構がはたらく』と過去に述べましたが、

「収縮能が悪くなった心臓も、『大きくなる』ことで心拍出量を維持しようとする」のです。

 だから、LVEFが悪い心臓ほど、心拡大を伴っています。つまり「無理をしている」のです。LVEFが悪い患者さんでは、ほぼ必ずLVDdも大きくなっているはずですので、確認してみてください!LVDd 50mm台は大きいなぁ、という印象を受けます(日本の基準は40-53mmです)。

 ※ めったに見かけないと思いますが、EFが悪いのに、LVDdがまったく大きくなっていない患者さんは、それこそ本当に異常です。必ず循環器医にコンサルトをお願いします。


② wall motion(壁運動)

 循環器医として一番、気になるところではあります。冠動脈疾患との関係が深いのがこの項目だからです。
 左室というのは、ラグビーボールに例えられますが、輪切りにすると、まんまるです。

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 この、輪切り像において、だいたい、右図のようなざっくり分類がなされます(だいたい、こういう切り口が出てくると、心臓を心尖部側から見ています)。

 で、wall motionとは、これらの「壁」の収縮が正常かどうかをみています。特にみなさんが注目しないといけないのは、

「部分的に悪いところがないか」

です。局所の壁運動低下がある場合、「asynergy(アシナジー)」といいます。synergyがないということです。
 現場では「この患者さん下壁だけが悪い」、「前壁と中隔が悪い」、などというように会話が繰り広げられます。この「部分的に悪い」現象は(突然発症の局所神経脱落所見focal signが脳梗塞を示唆するように)冠動脈疾患を強く示唆します。前壁や中隔というのはLAD(左前下行枝)が主に養います。下壁はRCA(右冠動脈)のことが多いです。側壁はLCx(回旋枝)のことがほとんどですね。

※冠動脈支配との関係が知りたい方は、「心臓の解剖は骨格から①」を参照してください!!

 ※エコー室や循環器医師の間では、前壁(anterior)、側壁(lateral)、中隔(septal)、下壁(inferior)などの略語は、アタリマエのように使われていますので、これはコン詰めて覚えましょう!!


③ 分厚さ(IVSthやPWth)

 ざっくり、[th]とついている項目を見てみましょう。
 IVSthというのは中隔の分厚さです。PWthというのは、後壁の分厚さです。(※ 後壁ってどこ?という議論があるのですが、これについてはあまり気にしなくてかまいません)。

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 左室の分厚さですが、10mmと覚えましょう。だいたい、上図の矢印のあたりを測定しています(長軸像のビームが入るところ)。
 そして、12mmとか13mmあるような心臓は明らかに「分厚い」です。これを心肥大といいます(心電図でLVH左室高電位と指摘されているかもしれませんね)。

 高血圧に長年罹患していたような患者さんでは、「心臓がムキムキ」になってしまいますので心肥大が起こります。もし、そうじゃないとしたら、「心臓が分厚くなる病気」です。覚えておくべき病気は「肥大型心筋症HCM」ですね。分厚くなりすぎるといろいろ不具合がありますが、代表的なものは「拡張不良」があります。これについては、上級編になりますのでここでは触れません。

④ 弁膜症

 左心系の評価で大事なものに、弁膜症があります。左心系の弁は、大動脈弁と僧帽弁です。これらについて、「逆流」と「狭窄」の二種類があります。
 まず覚えてほしいことは、これらは「程度問題」だということです。だから、多少の逆流や狭窄は問題ないことが多いということです。そのため、初学者のみなさんは「severe(重度)」のものを見落とさないようにすることだけ意識してください。

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 ではここからは超ざっくりいきますよ!
 まずM弁(僧帽弁)からです。MSはほぼ見ません。MRはmildとかmoderateくらいの重症度はよく見かけます。MRの重症度は「血行動態」によって結構変わります。MRの重症度は「見た目」で記載されることが多いです。
 次にA弁(大動脈弁)です。ARも割と見かけますが、こちらも重症度は「見た目」で記載されることが多いです。ASは多いです(加齢による疾患のため)。重症以外はそんなに気にしなくて良いです。ASの重症度はVmaxという指標でよく表されます。わかりやすく言えば、3-4m/sが中等度(moderate)です。それ以上(いわゆる4メーター台)は重度(severe)なので要注意です!


まとめ

 初心者はエコー所見は左心系からみると良いです。
 左心系の押さえておくべき項目は左室の大きさと動き(LVDdとLVEF、wall motion)・分厚さ。そして左心系の弁膜症4種類です。
 まずはこの記事をスマホで見ながら、「指差し確認」していきましょう!

 以上、初学者(特に研修医)向けに心エコー所見で迷子にならないために「ざっくり」書いてきました。もしよければ参考にしてみてください!希望があれば続編や個別の項目も書いていきます(エコーで探る「血行動態」は書く予定です)!


書籍紹介について

 書籍の紹介についてですが、あまり初心者向けにオススメできる本が浮かびませんでした。本連載を楽しみにしていてください!

 ちなみに、中堅医師(後期研修医)向けの心エコー本として、非常に良いと思った書籍があるので、紹介しておきます。臨床医の視点からの良書です!


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